つまらない日常
天才。
日常でもよく聞くありふれた単語だが
一般的な解釈と俺の解釈は少し違う。
おそらく凡人どもは自分たちより能力が
大きく違う人間を天才と呼ぶのだろう。
だがそれは違う。
努力もせず生まれついて持っていた才能だけで全てをこなす、それこそが本当の天才というものだ。
天性の才能と書いて天才と読めるのだ。
自己紹介が遅れたが俺は東海林 南。
東なのか南なのか、海なのか林なのかよく
わからない名前だといつも思う。
剣道の全国大会第二位、全国模試第一位
ルックスだってまぁいけている。
もちろん努力なんてしていない。
いや、できないのだ。
俺の話を聞くと大半の人間は俺を羨ましいと
思うのだろう。
だが俺からしたら凡人の方が羨ましい。
努力して自らの力で手に入れる達成感というものにずっと憧れていた。
なんでみんなが俺を羨むのか俺には理解が
できなかった。
なにがそんなに難しいんだ。
周囲の人間は俺への憧れと妬みから
俺の欠点を作り出そうとする。
そして挙げられた俺の欠点が性格の悪さ
凡人と違う故に人を見下ろすこの
腐った性根が俺の欠点らしい、
ハッ…まさに凡人らしい考えだ。
当たり前だろ、お前らは猿と自分どっちが
能力が高いと思うんだ?
それと同じことなんだよ。
そんな下らなくも虚しい事を思い浮かべながらも、
いつも通り無意義な日々を過ごしている時
ふと、ニュースが耳に流れ込んできた。
「今日、天才発明家明智イマリ先生の〝世界を作り替える事ができる発明〟に対しての世論調査が終了し、結果はその発明は破棄とのことです。また政府は、発明と明智イマリさんの身柄を一時的に保護するとのことです。」
「…………。」
世界を作り替える事ができる発明、か。
なんとも具体性のない言葉だな。
誰でもわかるようにまとめている。
それに政府がそれを保護だと?
俺は明智が持ってるその技術より
その技術を利用してやろうってのが丸見えで
世界中にその企みをバラす度胸のある
今の政府の統括者や権力者の方が断然怖い。
そもそも…………
「へぇー、世界を変えられるんだって!」
「!?」
「なっちゃんがニュース見るなんて珍しいね」
「………はぁ、またか。」
こいつは相模咲。
俺の家の隣、つか部屋も隣同士、なんなら
屋根をつたって俺の部屋にいつでもこれる。
毎朝俺の家にくる幼馴染なんてラブコメ定番を
期待するやつもいただろう?
残念逆でした!まさに外道!
毎朝起こすのは俺で朝飯もおれが作っている。
「いつも言ってんだろ、窓から入ってくるな」
「だっていちいち下まで降りるのめんどくさいんだもーん」
このアマ………っ
「それに窓から入ってこれるようにおじさんが屋根補強してくれたよー?」
あのクソジジイ………っ!!
「ったく、俺の周りはアホばっかりか」
「えへへ~」
「誉めてねぇぞ?」
「それはわかるわ!バカにしすぎ!」
「いやだってバカじゃん…」
「うぅ~…反論できない」
こんな会話が新鮮だった。
咲との時間にはどこか真新しさがあった。
別にこの時間が終わらないといいなとか
ずっとこの時間が続けばいいとか、そんな
恋愛脳なことを言うつもりはない。
だが、まぁこの時間が悪くはない、とかは思う。
「……なっちゃんはさ、この先どうするの?」
「この先って?」
「高校卒業して、その先」
「考えてないな、俺を欲しい企業も大学も山ほどいいる。どーとでも…」
「そーじゃなくて!…なっちゃんはさ、いっつもつまんなさそうな顔してるじゃん?なんか、やりがいー!とか達成感ー!とか…………恋…とか、知らなさそうな」
「そりゃそうだ、今挙がった感情の例のうち俺が実感に湧いたものは何一つない」
「はー、〝つまらない〟人生だね」
「……その事についてはさっき脳内で回想を済ませた」
「意味わかんないっ」
〝つまらない〟の対義語は〝楽しい〟だろうか?
他人から見て俺がつまらなく見えるのは
表情などがそうだからなのだろう。
人間は難しい、わらっていれば幸せに見える?
人は幸せの絶頂に達すると涙がでる
人間はわかりにくい、泣いていれば苦しく見える?
人は苦しみの絶頂に達すると笑えてくる。
この世はいつだって矛盾だらけだ。
その中で幸せとかやりがいとか感動とか
言ってるやつは〝本物〟を識別できているのか?
いやできてないだろ、そーゆーやつはただ
それを本物と思い込んでるだけだ。
命を懸けてでもやってみたいことというのを
見つけることが俺の夢だ。
言うなれば、夢を見つけることが
俺の夢なのだ。
「なっちゃんはさ」
「毎度切り出しが同じ過ぎて飽きるわ」
「う、うっさい!」
「……」
「……。」
え?しゃべんねぇの?
なっちゃんはなによ!てかなっちゃんってなによ!
南の〝な〟からとったのか?
まぁあだ名の付け方から頭の悪さがにじみ出てる。
「俺がどうしたよ」
「あぁごめんね!なっちゃんは本物の感情が知りたいんだよね!?」
「お、おぅ」
唐突に放たれた〝本物〟という単語に少しだけ、ほんの少しだけ
驚き、そしてたじろいだ。
「一番人を変える感情って……わかる?」
人を、変える感情…………!
なんだそのものすごく興味をそそられるものは!
こいつの声音や表情から嘘はいっていないという
事はわかる。
ゴクリッ……
「恋……だよ」
鯉?
「それは感情じゃないだろ」
「感情だよ!」
「いや、鯉っつーのは愛でるものだろ」
「恋愛を愛でる?」
ん?あぁそっちか、鯉じゃなく恋ね。
「勘違いしてた、そっちか、それで?なんで恋が人を変えるんだ?」
「えー!なっちゃん鈍感ー!!」
「俺は常に敏感だよ、剣道部大将だぞ」
「そんなん言ったら私だって女子団体大将だし」
「そーいやそーだったな……」
そうなのだ、こいつはここいらで唯一全国
上位に食い込む女子。
勉強はからっきしだが身体能力なら俺に並ぶ。
「本当に人を好きになるっていうのは!人を変えるものなの!!」
「お、おぉ」
随分むりやり話を戻しやがるな。
どんだけ恋愛の話したいんだよ、でもまぁ
JKって恋バナナってやつが大好きって
本に書いてあったな。
やっぱ漫画って参考書より断然参考になる。
「変わらないよ…………そんなんじゃ、なにも」
「変わらないんじゃない、変われないんだ」
自分で言ってて気づいている。
これは言い訳だ、咲の言うことは十中八九
正しい。わかっている、知っている
だが認められない。
変わる術を知らない俺が変わるためには
他者の力に頼らなければならないだろう。
俺はそれがたまらなく嫌だ。
助け合いだと?違う、
どちらかが必ず貧乏くじをひく。
少しでも、無意識でも、無自覚だろうと
自分の方が多く助けられていると、感覚で
それを悟った人間は更に甘える。
平等なんてありはしない。
俺に与えられた才能がその確固たる証明だ。
俺は与えられた力を切り捨てる力は与えられなかったのだ。
同じになんてなれない、助け合いなんて
できない。
俺は変われないんだよ。
俺は神様なんて信じちゃいなかったが、
神様がいたとするなら俺は聞いてみたい。
なぜ人は皆平等ではないのか、と。
初投稿なので色々勝手がわかりませんでした!悪い点などのご指摘を是非!