先輩と私
頬がジンジンして、熱を持ったかのように痛い。
この痛みの原因を作った人は、逃げ出すかのように出て行ってしまった。
ただ呆然とその背中を見送った私に、頬の痛みだけが、これが夢じゃないことを告げていた。
「先輩…」
「あの子なら、今日は来てないっぽいよ?」
「連絡しても、見てもいないみたい」
知らない人ばかりの中にいると、落ち着かない。
連絡の付かない先輩の為に、わざわざ上級生の輪の中に割り込んだ私に帰って来たのはそんな言葉だった。
先輩になにかあったのかという不安と、連絡が付かないのが自分だけじゃないことへの安堵が、私の中に胸焼けのような不快感を生んだ。
「わざわざそれ聞きに来たの?ほんと仲良いね、あんたたちって」
確かにいつも一緒に居る。
それは先輩が私に構ってくるから。
こんな愛想の悪い奴と一緒に居て何が楽しいのか不思議だったし、うっとうしいとも思ってた。
思ってたのに…。
「先輩から来てくれないと、どうしていいかわからないな」
私はいつだってそう、自分からは何もしない
みんな構うだけ構って、すぐ居なくなる。
それでよかった。
でも、叩かれても、連絡取れなくても、ぜんぜん諦めようと思えない。
私の中に生まれたはじめての感情
ドロドロしてて、思ってたのとぜんぜん違う苦しい気持ち。
この気持ちに名前を付けたら、きっともう先輩の側で笑えない。
だから、本当の私にフタをしてつまらなそうな顔をする。
いつもの私でいられるように。
先輩の家のチャイムを押す。
片手に先輩の好きな焼きプリン、レトルトのおかゆ、講義のプリント。
慌ててドアを開けた先輩は、泣き腫らたような目を見開いて私のことを見ている。
私はバツが悪いような笑いを浮かべて言うのだ。
「先輩、ひどい顔」