武能祭、2日目にて(夜)・・・ 1
武能祭のAグループの会場でのいざこざのせいで、二日目は途中で終了してしまい、三日目にすべて持ち越しになる予定となった。
しかしAグループの会場は崩壊してしまっていて、Bグループの会場も半壊の状態のため、三日目以降があるかは微妙な話であった。
刀牙たちも大量に召喚されるハーベストに苦戦しながらも何とか対戦相手の人工能力者の少女を助け出すことに成功し、その事件は人工能力者の少女を作り上げた教授が全ての罪を背負う形で幕引きとなった。
もっとも、1人の人工能力者作る為に多くの能力者を犠牲にし、少女に無理な実験や投薬を何度も施していて、それが原因で暴走した様なので当たり前と言えば当たり前の結末であった。
「しかし、その教授がどんなに性格が最悪でも、どんなにマッドサイエンティストだとしても、また目的は何だとしても、対ハーベストという人類最大の課題にとって大きな前進を成し遂げた事は、拭いきれない事実なんですよね。使い古された言葉を使うなら、化学の進歩に犠牲は付き物という事ですね」
筵は日が暮れ暗くなった道を1人の幽霊と共に帰路についていた。
「そうじゃの〜、人工能力者などわっちの時代は考えられんかったからの〜、すごい時代になったわい」
「しかし、まあ、化学の進歩の為とかで許せるのは、それが僕とは関係ない所で、起こっていて、客観的に見ることが出来たらの話で、今日は危なかったですが、危うくアルビノ少女をぶっ殺す所でしたよ」
「ああ、あれは惜しかったの〜、お主の本気を見れそうじゃったのに・・・」
古巣は空中で仰向けになり、両腕を頭の後で組んでくつろいでいる体勢で浮遊しながら悔しそうに呟く。
「一応、ハーベストの群れを倒しましたよ?見てませんでしたか?」
「それは見とったが、あんなつまらんモノではなく、もっとドロドロとして、遺恨やら悔恨やらが残るような戦いが見たかったんじゃ」
古巣の言葉に筵は"そうですか〜"と相槌をうち、少しの間を開けた後、話を変えた。
「ところで御先祖様、今日は僕の家に帰えるのですか?」
「まあ〜、そうするかの〜、・・・そうじゃ!一星に勝った褒美として、1日わっちを好きにして良いぞ」
古巣はそう言うと空中に浮いている状態でセクシーポーズを決める。
「煮るなり焼くなりですか?」
「なんと!?それは、なかなかハードな鬼畜プレイじゃの〜、ふぇふぇふぇ」
「ハハハ」
古巣と筵はお互いに笑い合う。
2人は暫くそうしていると、筵が急にピタリと笑うのを止める。
「ああ、御先祖様、本田くんの話が出てきて思い出しました。・・・・・・犯人はお前だ」
筵が古巣を指差しながら死んだ目を光らせ宣言する。それを聞いた古巣も笑うのをやめて興味深そうには腕組みをする。
筵の言った犯人とは、表ではなく、裏の事件、Zクラスの生徒が誘拐されそうになり、庵が実際に誘拐された事件のことであった。
「ほほお、何故そう思ったのかの〜」
「貴女は、僕と本田くんの本気で戦い合う姿をご所望でしたよね?当初の目的では、僕の所に本田くんの姿で誘拐を知らせ、同時に本田くんの所には僕の姿で誘拐を知らせる。そして両方に大会を辞退するように言い、これまたお互いにその誘拐事件を解決させる。そうする事でお互いに恨みを持つ2人の戦いとなる訳です。そして貴女の性格上、本当に見たいのはそういう試合だったのでしょう?」
筵は自分の推理を語って、古巣は尚もそれを興味深そうに聞いている。
「しかし、僕の方の誘拐が失敗した上、作戦の要の変身能力者まで失った。どちらもお互いに敵意を抱いていない、貴女にとってあんなにつまらない試合は無かったでしょう?・・・まあ、もっとも確たる証拠はないですが」
「なるほど、しかし自分で言っていた通り、穴だらけじゃな。例えば筵と一星の所属する学園以外の勢力によって、起こされた事件の可能性もあるじゃろ?それどころかそちらの方が有力じゃ」
「ええ、その通りですね。しかし客観的な事実からその確率は極わずかであると推測出来ます。なぜならこの事件の一番最初の出来事は、前夜祭の日の夜に本田くんの名前でZクラスの屋台に不良を送った事だからです。あの時、僕はまだ、ほかの学園の人達からはノーマークでした」
筵はいつもの半笑いにドヤ顔を足したような顔で言い、さらに推理を続ける。
「なにより日本中にその名が轟いている、日室刀牙を差し置いて僕が狙わられる理由が無い。もし、本田くんのみを狙うなら、3回戦の僕では無く、1、2回戦の段階で手を打っていてもおかしくない。だからこの事件の犯人は僕と本田くんにゆかりのある人物であると判断し、そんな事をしそうな、遊び心と権力を同時に持つ人物を僕は一人しか知りません」
筵は再び、古巣を指差す。そして差された張本人の古巣は目を、瞑り何度か頷いてみせる。
「ふむふむ、荒い推理じゃが、わっちにたどり着いた根拠は分かる。・・・なるほど、やはりそういった面も栖の子の方が優秀のようじゃな」
そう言うと古巣は空に飛び上がり、空中で一回転した後、かっこよさ気なポーズをとる。
古巣の容姿、そしてバックの月とミニスカートの着物がなんとも幻想的な雰囲気を漂わせていた。
「正解じゃ、よくぞわっちにたどり着いたのう。本当に何か褒美をやりたい気分じゃ」
古巣は空中から楽しげに筵を見下ろしながら言った。
「何も要りませんよ。ただ一つだけ言っておきます。もしも僕の大切な人たちに何かしたら、本気で成仏させますからね」
「おお、怖いの〜、わっちはその大切な人の中には入ってないのかえ?」
筵の本気と冗談の入り交じった言葉を聞いた古巣は、自分の身体を抱いて震えたようなジェスチャーをする。
「いえ、もちろん入っていますよ。そしてずっと入っていて欲しいと思っています」
「なるほど、では肝に銘じて置こうかの」
筵と古巣は再びさぐり合うように笑い合いあった後、帰路についた。
同時刻、一人の灰色っぽい白髪の少女が学園関東支部のある街を歩いていた。その道は周りにゲームセンターや飲食店などあり、比較的明るい街並みだった。
そして少女は無表情ながらもどこか嬉しそうな様子でいる。
普通の人が見たら分からないが、少女をよく知る人物がその状況をみたら熱でもあるのではないかと疑ってしまうほど、普段とはギャップがあった。
「よう、嬢ちゃん。なにつまらなそうな顔してるの?俺達とお茶しない?」
少女に向かって声がかけられる。少女が前を見ると、そこには3名ほどのいわゆる不良という感じの容姿の男達が立っていた。
「いいえ結構。それに見てわかる通り、ワタシは今、今までに無いくらいハイテンションだよ。久しぶりに仲間を見つけることが出来たらね」
その少女はあまりハイテンションぽくない感じで告げると、不良たちの間を通って進んでいく。
「おい待てよ!強制参加なのわからない?」
一人の不良がそう言うと、その少女の肩を掴もうとする。すると、不良は触れた感覚はあるのに触れられない様な不思議な感覚を覚え、気づくと目の前に1羽の光輝く蝶が飛んでいた。
「な、何だ!!こいつ能力者か!?」
その光景に驚いた不良たちが叫ぶ。
すると、その言葉だけはどうしても無視することが出来なかった少女は不良たちの方に振り返る。
「能力者?それは違うよ・・・ワタシは"被害者"、"呪いの被害者"・・・・・・能力なんて恵まれたものと一緒にしないでくれるかな?」
そして少女は、片足で地面を思いっ切り踏み付けると、再び1羽の光の蝶が現れる。
そしてその蝶はひらひら舞って、不良の顔に止まったその瞬間、蝶は跡形もなく消え、その不良は何かの衝撃で吹き飛ばされる。
「この野郎何しやがった!!」
仲間がやられた事で怒った2人目の不良が少女に向かって殴りかかってくる。しかし、少女は怖がる様子も逃げる様子もなく、その拳は少女の顔に当たったと思われた。
しかし、再び、殴ったはずが実際には殴れていない謎の感覚を不良は感じた。
そして、そこにはやはり光の蝶が舞っていてその蝶が、もう一人の不良に当たると、消えてなくなり、代わりに不良が衝撃で吹き飛ばされる。
先程から巻き起こる理解不能な現象に、殴りかかった不良は恐怖から尻餅をつく。
「お前、一体何者なんだ!?」
「だからさっき言ったでしょ?ワタシは星宮蝶蝶、"呪いの被害者"だって」
蝶蝶はため息混じりに言った。そして再び地面を蹴ると、光の蝶を生み出され、蝶蝶の指に止まると、今度は消えることなく、光の蝶はそこにとどまり続ける。
「ワタシの呪いは、胡蝶よ華よ、出来事を夢に変えてしまう呪い。そして、夢に変えた出来事は一度、蝶の形でひらひらと舞って、触れたものにその出来事により与えられるはずだった現実を与える」
蝶蝶はそう言うと、光の蝶が乗っている指を軽く振り、それと同時に光の蝶は飛び立ち、不良の少し前の地面に止まった。
そして光の蝶が姿を消すと、そこに微かに靴の跡が残る。
それを見た、不良はさらに恐怖を倍増させた。そしてその様子を、確認した蝶蝶は"ハッと"我に返る。
「いや〜、ワタシとした事が仲間を見つけた喜びで、無駄な話をしてしまったよ。ごめんごめん」
蝶蝶は不良に謝りをいれた後、恐れおののいている、そいつらに背を向けて、夜の闇に消えていった。