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武能祭、2日目にて・・・ 4

 「すまねえ、(むしろ)、あたしらが居ながら・・・」


 (ふち)を抱えて歩いて会場を出てきた筵に梨理が駆け寄ってくる。梨理たちは手分けして淵を探していた様でその場に居たのは梨理1人であった。


 「いや、ただ自分の愚かさに腹を立てているだけだよ。僕がちゃんとしていれば淵ちゃんに怪我をさせることも無かった筈なのにね」

 

 筵は梨理に向かって、何時もの半笑いを無理やりに作って見せた。


 「・・・まあ、無事だったらいいじゃねーか、とにかく避難しようぜ、な?」


 筵がいつも通りでないことに、何となく気づいた梨理が提案する。


 「梨理ちゃん、悪いけど淵ちゃんを預かってくれないかな?」


 「・・・何する気だよ?」


 梨理は先程までとは違い、少し喧嘩腰のような口調で質問する。


 「少し八つ当りにでも行こうと思ってね。実に僕らしい行動だろ?自分の愚かさを棚に上げて、責任転嫁して、・・・そしてさっさと、このはた迷惑な茶番を終わらせてくるよ。彼らには出来ない方法でね」


 暴走している人を止める方法なんてものは、ドラマ的に語りかけてご都合主義にも意識を取り戻させるか、殺してしまうかの二択ぐらいだろう。


 そして筵の言っている彼らにはできない方法とは、後者であると梨理には想像がついた。


 そしてその答えに至った梨理は、今度は見て一瞬で分かるくらいに怒りを顕にする。


 「テメーは」


 最初小声で怒りを貯めるように呟く。


 「テメーは、そうじゃねーだろーが!!テメーは最初にあった時から小物で、クズで、不謹慎で、でも最高にクールなやつだったろうが!!」


 梨理は、中学の時の事を思い出しながら、感情のこもった声で怒鳴り、筵に迫る。


 「すぅ・・・はあ・・・でも、もしそれでも行くつもりなら、淵をここに捨てていけ」


 梨理は少し深呼吸した後、今度は少し落ちていたような声で言い、地面を指差しながら言葉を続ける。


 「もしお前が淵をここに置き去りにしても、あたしはちゃんと避難所まで担いで行くよ、だがお前が淵を捨てた事を一生忘れねーからな」


 梨理は真剣な眼差しで筵を見る。


 そして少しの間、おたがいに根競べのように黙って見つめ合う。しばしの沈黙の後、先に折れた筵がため息をついた。


 「・・・・・・はあ、そう言われてしまったら、お手上げだね。折角、英雄になれそうだったのに」


 「バーカ、暴走してる奴を問答無用で殺して、英雄になんてなれる訳ねーだろ、・・・・・・それに"六等星の男"って知ってっか?あれで六等星は地球から遠いだけで、もしかしたら太陽より大きく、明るく何かを照らしているかもしれない的な事、言ってただろ?なんつーか、そういうことなんじゃねーの?」


 梨理はそう言った後、照れくさそうに自分の頬を指で搔く。


 「あれは確か、六等星と一等星を対比してた気がするけど?ちなみに僕は宇宙人を手術する話が好きだな」

  

 「バカヤロウー、なに、懐かしのアニメトークにシフトしようとしてんだ。はあ、まあいいや、分かったらとにかく行くぞ、罰として淵はずっとお前が持ってろ」


 


 「ああ、この重みを骨身に刻んでおくよ・・・・・・と言った矢先何だけど、これは、許してくれるよね?」


 筵は梨理の後ろ側を顎で指差す。そこには大量のハーベストが大挙として押し寄せていた。


 「もう間違えないよ梨理ちゃん。だから淵ちゃんを連れて先に行っててくれるかい?」


 「はあ・・・まあ、しょうがねーな。今回だけは許してやるよ。淵をよこしな」


 梨理はそう言うと筵から淵を受け取り、軽々と抱きかかえると、人一人を持っているとは思えないくらいのスピードで走って避難所の方に消えていく。


 



 「このハーベスト達を倒しても、公言出来ないから世間的には何の評価にもならないんだろうね〜。・・・でもまあいいか、僕はこの過ぎた力を大好きな子達だけの為に振るう。そしてそれ以外の人の為になんて、使ってやるものかと、そう誓うよ」


 筵は目を閉じて自分に向かって、誓いを立てるように言った。


 そして、右手に日本刀型の魔剣、大皿喰らい、左手に小太刀型の魔剣、寝首掻きを呼び出す。


 準備を整えた筵はハーベストの群れの方を確認する。その群れは見た感じ数十体は居るように思えた。


 筵は一度ため息をつくと、両手の剣を構えてハーベストの群れに向かって行く。





 筵が大皿喰らいに生命力を送ると黒いオーラの様なものが刀の周りに現れ、それを少し離れたハーベストに向かって振るうと黒い斬撃の様な衝撃波が、ハーベストを斬り裂いた。


 続けて左手に持っていた寝首掻きを、筵のいる場所から一番近くに居るハーベストに向かって、ナイフ投げの要領で投げつける。


 見た目は大きな身体にちょこんと小太刀が刺さっているだけにも関わらず、ハーベストは慟哭し、その場に倒れ動けなくなった。


 そして、寝首掻きはハーベストの身体を刺さっている状態から消えたと思うと、再び筵の手元に現れる。


 「さあ、何処からでもかかって来い・・・ってね」


 筵は自分を囲む様に立っているハーベストたちに向かって呟いた。

 



 それから数分後、筵の周りにはハーベストの骸が大量に散らばっていた。


 筵は返り血で汚れた身体を、能力により一度死んだ後、復活すること綺麗にすると、まだ騒動が収まっていない様子のAグループの会場に背を向けて大切な人の待つ、避難所の方へと歩き出した。

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