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武能祭、2日目にて・・・ 3

 Aグループの騒動はついにBグループの方まで飛び火して、サイレンのような音と共に、Bグループの会場にも避難を促す放送が流れた。


 (むしろ)たちの試合より、Aグループの会場が気になっていた観客は、その放送を聞くとぞろぞろと避難を開始した。


 


 「そんじゃあ、あたしらも避難すっか」


 「そうだね。みんな行くよ〜」


 「こういう時は頭を低くするんだっけ?」


 その放送を聞くとZクラスの2年生組が立ち上がり、いそいそと避難口に向かっていく。


 「えっ!?筵先輩はまだ戦ってますよ」


 (ふち)はその行動に驚き、筵の方を指差しながら言った。


 すると譜緒流手(フォルテ)が淵の肩を軽く叩く。


 「大丈夫だよ。筵はオレ達が普通に避難しようとしたら、"そうして欲しかったけど、いざ、簡単に居なくなられると哀しいね"とか半笑いで言った後、それでも普通に送り出すだろうから」


 「そこまで、言われてしまったら、もはや何も言うことが無いね。流石は譜緒流手ちゃん」


 譜緒流手の言葉に淵では無く、地獄耳を持つ筵がリング上から答える。


 「まあね、何年一緒だと思ってんの」


 筵と譜緒流手はお互いに親指を立てアイコンタクトを交わす。


 「という事だから淵ちゃん。ここは僕に任せて先に行って。大丈夫だよ僕は帰る場所があるからね。必ず後で追い掛けるから」


 「あの人、死亡フラグ乱立してるけど大丈夫ですか!?」


 筵は続いて淵に対して声をかけ、しっかりとツッコミをもらう。


 「まあ、筵先輩なら大丈夫だよ」


 「ほら淵も行くよ」


 続いて湖畔(こはん)とカトリーナはそう言うと、渋っている淵の背中を押して連れ去っていった。


 それからZクラスのメンバーは出口に向かって少し急ぎ目で向かった。


 淵は出口の前で一度、心配そうな顔で振り向いたが、暫くするとれん子たちを追って消えていった。



 

 「とうとう僕と君だけになってしまったけど、最後まで続けるんだよね?」


 「ああ、すまないが続けさせてもらう」


 一星は日本刀を再び構えると、能力で自身を強化していく。


 「戦士の変速機構(ソルジャーズハイ)、参ノ太刀・・・」


 能力により段々と体に纏う鎧の範囲が増える。


 「肆ノ太刀・・・」


 この段階で一星の体には少し丸みがかった全身鎧、もしくは変身スーツのようなものを纏った状態になる。


 そして、その丸みがかった鎧はさらに変形して先程よりも、シャープで所々が尖ったような印象に変わっていく。


 「戦士の変速機構(ソルジャーズハイ)(つい)ノ太刀・・・」


 一星のその言葉を最後に変身は終了したようで、鎧にそれ以上の変化は起こらなかった。


 「終ノ太刀という事はそれが最終形態という事でいいんだよね?」


 「ああ、制御可能なのはここまでだ。律義に待っていてもらってた様で悪いな」


 「いやいや、僕も変身の途中に攻撃するほど野暮ではないよ。それに僕の勝利条件は君の全ての秘策という秘策を受けてなお、無傷で立っていることだと認識しているからね」


 筵はゴツゴツとした見た目の割りに少し動きやすそうな全身鎧の一星を指さす。


 「では、行かせてもらうぞ」


 一星は"突き"を繰り出すような構えで日本刀を筵に向けると日本刀が光輝き出す。


 「これは、斬ったものを完全に滅する、故に骸は残らない。君でも復活できないだろう。・・・恨まないでくれよ」


 「殺されて恨まない奴もいないだろう?・・・でも何時でもいいよ。本田くん」


 一瞬の沈黙の後、鋭い光の閃光が筵の身体を貫き同時に筵の身体は光となって消え、気づくとリング上には一星が一人のみになっていた。





 「兄さーん!!」


 「筵先輩!!」


 一星しか居なくなっていたBグループの会場に少女たちの声が響く、2人の少女はそれぞれ、対面の入口から入ってきていて、どちらも走ってきた様で息絶え絶えであった。


 片方は一星の妹、(いおり)。もう片方は筵の後輩である。淵であった。


 一星は庵の姿を確認すると、庵が無事だった嬉しさと、筵を完全に殺してしまったことへの後悔でその場に跪く。


 安堵と後悔で何も考えられなかった一星はその場で能力を解除すると鎧が消えていく。


 「何してるんですか兄さん、後ろです!!」


 庵はそんな一星の様子に慌てたように声を荒らげる。


 一星も庵の声で周り見渡そうとするが、時すでに遅しであった。


 一星の能力をといた後の、守るものの無い首に、何者かがサバイバルナイフをあてがう。


 「これは参ったね。・・・いや、素直に参りました・・・かな?」


 一星は、そのサバイバルナイフを持った何者かの方を向かずに清々しい雰囲気で負けを宣言する。


 「良い戦いだったよ。でもまあ、色んな意味でワンサイドゲームだったから悪い試合だったのかな」


 筵は一星の首にあてがっているサバイバルナイフをしまうと、淵の方を向き親指を立てる。


 それを見た淵は、一度安堵したように笑い、続けて状態を説明する。


 「筵先輩大変です。Aグループの日室先輩の対戦相手の能力が暴走して、パニック状態なんです」


 「もしかしてその子、人工能力者とかじゃないよね?」


 「えっ!?何で知ってるんですか・・・・・・。まあ今はいいです。とにかくその子のワープホールを開いてハーベストを召喚して戦う能力だったらしいんですけど、暴走のせいでハーベストが大量に呼出されて大変なんです。筵先輩いいから早く・・・っ!!」


 ドオン!!


 淵が筵にも逃げるように呼び掛けようとした時、淵のいる場所の近くに何かが降ってきて爆音が響く。


 それは、おそらくAグループの会場からやってきたと思われるハーベストであった。そして、落ちてきた衝撃により、巻き起こった突風に煽られ淵は身動き取れなくなる。


 そのハーベストは迷うこと無く淵に向かっていく。



 しかしこの時、"出来れば淵に魔剣の事を知られたくない、知られずに助けたい"という思いが筵の心の中に零コンマ数秒のロスを生んでしまった。


 それは今まで完璧に近いくらいストイックに守ってきた、ただ一つの誓いにおいて、筵の仕出かした初めてと言える明確な失敗であった。


 「淵ちゃん!!」


 筵は普段はあまり出さない位に声を荒げながら、同時に日本刀型の魔剣、大皿喰らいを呼び出して淵の元まで急いだ。


 ハーベストの攻撃と、筵の攻撃がほぼ同時に行われて、その場に砂煙が立ち込める。



 そしてその砂煙が収まると筵が淵を(かか)えた状態で出てくる。淵には目立った外傷は無いが、身体を壁などにぶつけた衝撃で気絶しているようだった。


 筵は淵を(かか)え俯いた状態のまま、一星たちに挨拶無く淵の入って来た入口から去っていき、一星たちは筵の魔剣と今までと違う真剣な表情に驚いて、ただ見送るしかなかった。

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