武能祭、初日にて(夜)・・・ 2
「こんな下らないことで、我々を呼ぶのは貴方くらいのものですね」
淵の自宅の前、第8の魔王型ハーベストにして、心を持った機械の少女、宇宙主義は闇の中から姿を表すと呆れたように呟く。
宇宙主義の半分機械音の声を聞いた筵は、振り返って宇宙主義の方を見る。
「とか言いながら、頼んだらすぐに銀河の彼方から駆け付けてくれる"ポリタンたん"みたいな子の事を・・・きっと"萌え"というのだろうね〜」
「いや、どんな言い方!?、というか"ポリタンたん"とはなんですか?先ほどカトリーナにも同じ愛称で呼ばれましたけど」
本田家三女、本田祭曰くタブーテクノロジーの1つと言われている心システム、それを搭載する宇宙主義は筵に対して、機械にしてはなかなかのツッコミをする。
「日本では、機械なのに、友達の数対決で負けそうになって焦ったり、最終的に粘土細工対決で負けて半泣きで帰って行ったりする愛らしい性格の子には名前の後に"たん"と付ける風習があるんだよ?確か起源は鎌倉時代辺りまで遡るんじゃないかな?」
「うぅ・・・って、それ確実に嘘ですよね。我々はこの星の主な歴史は学習済みですよ」
宇宙主義は最初、対決に負けた時のことを思い出して、少しだけ恥ずかしそうな顔をしたがすぐに立て直した。
「まあそれはいいとして、本当に助かったよ。僕にはこんなことを頼める友人はあまり居ないからね。君が友達になってくれて良かったよ」
「貴方と友達になった覚えは有りません。ただ我々に勝った褒美として連絡手段を渡しただけです」
「それはツンデレって奴かい?」
筵の質問に対して宇宙主義は一度、心システム外で解析を試みる。
「ああ、違いますね。これは"心"のコントロールが未熟な故にエラーを起こして行動と言動が伴わなくなっている様ですね」
「いや、ツンデレを心のコントロールが未熟とか分析しないであげてね、怒られるから」
筵は表情を崩さずに宇宙主義の危うい言動を注意する。
「ところで貴方、やはり普通に戦えたのですね?」
宇宙主義は倒れている、Aクラス級の刺客と、変身能力持ちの少女を横目に言った。宇宙主義は筵がサンスティロを使った所から様子を見ていたようでさらに質問を続ける。
「それに最後に使った魔剣の能力は少し興味がありますね。何をしたのですか?」
「あれは言葉通り消えてもらっただけだよ。・・・彼女の能力にね」
筵はそう言うと倒れている刺客たちの方へと歩み寄る。
「ただ能力を封印したんだよ。一連の事件が終ったら戻してあげるつもりだけどね。・・・ああ、ポリたんもこの人達を運ぶのを手伝ってくれないかい?少し理由があってここに放置は出来ないんだよ」
筵に呼ばれた宇宙主義は近寄ってきて、変身能力者の少女の様子を確認しながら筵にさらなる疑問をぶつける。
「それは良いのですが、どうにも喰えませんね。貴方はこの少女のために普通の人間なら致死量の血を差し出して、能力を使った、いったい何がしたいのですか?」
「うん、確かに僕は、一番・・・かどうかは分からないけど、それでもかなり優しいやり方で、彼女を無力化したよ。でもそれは、ただ自分で手を下すことが出来ないからさ。それをしてしまったら、あの子達に顔向け出来なくなってしまう。それが怖いだけだよ」
そう言った筵の顔つきは、清々しい程にいつも通りであった。
そこで一旦、会話は途切れたのだが、この時、宇宙主義は筵の深いか浅いのか分からない沼のような心にさらなる興味を感じた。
「ところで"ポリ子たん"、素朴な疑問なんだけど、なんで心を持った機械を作るのが禁じられているんだい?」
筵は誘拐未遂犯たちを交番の近くの安全な場所に放置したあと、本田家へと帰る途中、宇宙主義に訪ねる。
「なんですか、"ポリ子たん"て、バリエーションを増やさないでください」
「ただのあだ名だよ。好きなのを選んで欲しいな〜、それでどうなんだい?」
「はあ・・・まあそれには"反逆の恐れ"など色々な理由がありますが、そもそも作れなかったというのがあります。いえそれも少し違いますね。作れたとしても、すぐに自害してしまうんです。我々は心を持っても自害しなかった唯一の例ということですね」
「ふーん、凄いんだね。ではなぜ、そこまでして心を持った機械が必要なんだい?」
筵の質問に驚いたような表情を浮かべる宇宙主義だったが、少し考えた後、今度は少し馬鹿にしたような笑顔になる。
「あれ?そんな事も知らないんですか。ああ、そうか、ただの学生なんですものね、貴方は」
「ポリ子たん頼むよ。教えてくたら僕の事を下の名前で読んでいいからさ」
「なんですかその交換条件!?何様ですか?」
「だってずっと僕の事を貴方って呼ぶから、下の名前で呼ぶタイミング見失ったのかなと思ったんだけど」
「なに言ってるんですか、そんなの簡単ですよ。・・・・・・む、んん、むっ・・・む、むしっ、・・っん・・・ああもう、意識したら出来なくなったんですけど」
「流石はしゅぎしゅぎ、人気取りにくるね」
筵は宇宙主義の様子を、子供が少し離れたところで遊んでいるのを見ている親のような微笑ましい心境で眺めた。
「何故、心を持った機械を作りたいのかという質問でしたよね?それは能力は心に宿るからです。心を持った機械を作ることで同時に能力を持った機械を作ることも可能になるんです。現に我々は身体は完全に機械にも関わらず能力を所持しています」
宇宙主義は仕切り直して筵の質問に答える。
「なるほど、機械に心をもたせるってのも凄いけど、能力者を人工的に作るとは、これまた凄い話しだね」
「そこはそんなに驚くようなことではないですよ。何故なら、この星でも機械ではないにしろ、人工的に能力者を作ろうとする動きがある様ですからね」
宇宙主義は首を傾げながら、この星でもおそらく、権力者しか知らない位の情報を筵に伝える。
その情報を得た筵は何故だか、世界の英雄の顔が思い浮かんでしまった。
「それはそれは、普通に考えたらいい話なんだけど、何故だろう、なんだか凄く、嫌な予感がするね」