武術大会で平常授業 2
月日は経ち、現在はすでに文化祭の前日であった。
一週間前までは何一つ決まっていなかったにも関わらず、一旦やることが決まると、準備はスムーズに進み、丸1日残して全ての準備を終えてしまった。
そして、何もやることの無くなったZクラスのメンバーは、おもいおもいの方法で時間を潰している。
淵は読書をしているし、カトリーナは引かれたダンボールの上で本意気の居眠りをしている。梨理はカトリーナの持参したゲームに夢中になっていて、れん子と湖畔の2名は自分の能力を用いて、バレないように他のクラスの様子を見に行っていた。
そして筵と譜緒流手は老夫婦の様にまったりとしながら雑談に花を咲かせていた。
「ねえ、今、思ったんだけど静岡の形って、天地をひっくり返したら北海道に似てない?」
「なに、下らないことで静岡に未曾有の大災害を引き起こしてくれての?」
暇なときによくある、思い浮かんだことをすぐ口に出してしまう謎の症状を発症してしまった筵に対して譜緒流手が突っ込みを入れる。
「あとさあ、ラブジュースってあるでしょ?」
「導入の時点で、かなり最低なんですけど」
「昔、それのことを南の島とかで恋人とかが飲むストローがハート型の飲み物だと思ってたんだよね」
「そういう着地するんだ、下ネタかと思ったよ。いやこれ下ネタか?」
筵と譜緒流手がそんな下らない雑談をしていると、その内容にに対して図らずも反応せざるを得なかった淵が、本を読んでいる手を一旦止めて、筵たちの方を向く。
「どんな会話してるんですか先輩方・・・・・・ああ、そう言えば、お2人はかなり昔から一緒なんでしたっけ?」
淵は男子の幼馴染同士のような会話を指してそう尋ねる。
「小学校の時からだよ、それで梨理ちゃんは中学の時でれん子ちゃんが高校からかな」
「なるほど、でも筵先輩の小学校の時ってどんなだったのか気になりますね」
そう言って含み笑いを浮かべる淵。
「筵はほとんど今と変わらないと思うよ」
「へえー、こんな小学生いたら最悪ですね」
譜緒流手は筵に変わって淵の質問に答えると、2人は微笑ましく笑い合う。
「それで、どういった感じで知り合ったんですか?」
淵は笑ったままのテンションで続いての質問をする。
しかし、その質問を受けた譜緒流手は少しだけ真面目な表情に変わり、数秒の間沈黙する。
「・・・まあ簡単に言えば、いじめられてるのを助けられたって感じかな。子供の頃はよくあっただろ、名前で人のこといじるやつ。オレなんてキラキラネームだからモロだったわけよ。そしたらコイツがクラス会で自分の名前使ったラップ披露してな、いじりの対象が全部、筵にいった」
「ラップって小学生の発想ではないですね」
譜緒流手の話に対して淵は優しい笑みを漏らす。
「なんなら、披露しようか?」
「いや、こういうのは嫌がっている奴にやらせるから面白いわけで、自分からやろうとしてる奴にやらせても、白けるだけだろ」
何の恥ずかしげもなく、自分から黒歴史を明らかにしようとする筵の暴挙を譜緒流手が止め、それから暫く、淵を含めた3人で思い出話に花を咲かせた。
「ただいま」
「いま戻りました」
「おかえり、何か成果はあったかい?」
他のクラスの散策を終えて帰ってきたれん子と湖畔を、迎え入れた筵はそのように尋ねる。
「お化け屋敷をやるクラスは他にもいくつかあったよ、それも私たちと違って結構大掛かりな感じ」
れん子は自分の得てきた情報について皆に伝える。そして、それを聞いた筵は何回かうなずき、続いて湖畔にも同じ様に尋ねる。
「湖畔は何か面白いもの見つけたかい?」
「はい、毎年恒例の武術大会と言うのがあるらしいですね。筵先輩も出場されるんですか?」
「ん?僕が出るわけないだろ?もし僕が出たら、まあルールにもよるけれど、簡単に優勝してしまいかねないよ。もしそうなったら他のクラスのヤツらのモチベーションが下がってしまうからね」
「・・・でも、名前があったような気がしたんですけど」
自身の記憶を呼び覚ましながら、湖畔は不思議そうに首を傾げる。
すると、教室のドアがすごい勢いで開き、納屋蜂鳥が教室に飛び込んできた。
全力疾走してきたのか、かなり呼吸が乱れていて、それに加えマスクを付けているということも重なり、かなり辛そうな様子であった。
「筵、ちょっと来い!大変な事になってるぞ」
「あらら、僕の名前がありますね」
武術大会のトーナメント表が張り出された掲示板の前まで連れてこられた筵は、トーナメント表に自分の名前が書かれていることを確認する。
「やはり、お前が入れたわけではないのだな」
「夢遊病とかでは無い限りは違いますね。外してもらうことは出来ないんですか?」
「聞いてみたのだが、不戦敗にする事しかできないらしい。恐らく、不戦敗になったお前を笑い者にするのが目的なのだろう」
「別に僕は構いませんよ。それでも」
「・・・・・・すまない、こんな事になって」
蜂鳥は筵に謝罪し、それから彼女はそのまま職員室の方へ、筵は教室の方へと帰っていった。
Zクラスは、常に命懸けであるハーベストとの戦闘に参加しなくてもいい上、ある程度の待遇が保証されているためか、学園中から甚く嫌われていて、1週間前の一件といい、今回といい、こうした下らないことの対象にされる事が多々あった。
だが筵は口が達者であった為か、実際に相対しての嫌がらせは少なく、彼に対してのそれは今回のように間接的に仕掛けてくることが圧倒的に多かった。
教室に着いた筵は、その事件についてみんなに話し、不戦敗になる旨を伝えると、れん子、譜緒流手、梨理の3人は渋々ながら納得したというような様子であった。
1年半もZクラスにいると、こうした事にも慣れっこになり、一々、構っていたら埒があかなかった。
しかし、淵、湖畔、カトリーナの1年組は、まだ、Zクラスに入って半年ほどであり、幸か不幸か、未だにこういった理不尽に対して、その都度、憤りを覚える感性を備えていた。
そんな状況を見た筵は腕を組み少々考えた後、仕方が無く、この3人を納得させるために説得を始めた。




