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武能祭、初日にて・・・ 6

 梨理チームや未来の子供たちの活躍で模擬店がなかなかの繁盛を見せている中、隔離枠というレッテルを貼られた、れん子と(ふち)も一応、店の宣伝をしていた。


 「れん子先輩、わたしたちのこの行為って一体どれだけの意味があるんですか?」


 「私達の仕事は(むしろ)に行き過ぎた暗躍や完全な詐欺行為をさせなかった所で既に終わっているんだよ。だからこれはすでに蛇足の仕事、ただ心のこもっていない宣伝文句を言い続ければいいんだよ」


 淵の質問にれん子は筵持込みの持論を展開して答える。


 流石は筵と同じ教室に1年半も居ただけのことはあり、大分染まってしまっているが、それでも肝心なところは一切染まらずにい続けているのがれん子の凄いところと言える。


 「ちょっと疲れたね。何か買って座ろうか?」


 「そうですね。周りの視線も結構痛かったですし」


 2人の意見は一致して、れん子と淵は飲み物と一つのたこ焼を購入して模擬店が大量に立ち並ぶ道から少しだけ外れた場所にあるベンチに腰掛けた。


 



 「れん子先輩って梨理先輩とは違う意味で凛としている感じで格好いいですよね。しっかりと自分を持っているというか」


 「そう?照れるな〜」


 れん子は自分の頬を照れくさそう指で掻きながらこたえる。


 「でも昔は、人の顔色ばかり伺っていたんけどね、特に日室刀牙(アイツ)の・・・」


 れん子が少しトーンを低めに言った。淵はれん子の過去についてあまり知らなかったが、アイツが日室刀牙のことを指している事はわかった。


 「・・・って思い出したら、少し恥ずかしくなってきたよ。私の黒歴史ってやつだね」


 れん子は自分の過去の行いを思い出して本当に恥ずかしそうな顔をした。


 れん子は入学当初、Zクラスなってしまったあとも、幼馴染みでAクラスだった刀牙に依存して、媚びていた時期があり、その頃は梨理や譜緒流手(フォルテ)とも仲良くしようとはしなかった。


 しかし、そんな中でも刀牙の周りにはかぐややスチュワートなどの女性が集り、刀牙はそんな事は考えていなかったが、れん子は刀牙の近くに自分の居場所が無くなったように感じていた。


 「でもそうだね。筵にあの言葉を言われなかったら、私は今でも日室刀牙(アイツ)に依存していたかもね」


 「・・・なんてと言われたか聞いていいですか?」


 もの悲しげな雰囲気のれん子に淵は真面目な顔で訪ねる。

 

 「いや、単純な感じだよ?ただコンタクトレンズより、眼鏡の方が君らしくて好きだなってね。私、昔からコンタクトレンズが苦手だったんだけど、アイツに気にいられたくて、ずっと付けてたから、それを見破られてたんだね・・・」


 それからしばしの静寂がその場を包んだ。そして十数秒ほどその静寂が続いた後、れん子が口を開いた。


 「ということで、今度は淵ちゃんの黒歴史を発表してもらおうかな〜」


 明るい声のトーンに戻ったれん子は、ほくそ笑みながら淵に迫っていく。


 「か、勘弁してくださいよ」


 淵は嫌がり、両手を前に出して拒否をしたが、れん子の昔話を聞いてしまったという弱みから、折れて、自作の小説を書き溜めているという現在進行形の黒歴史を暴露してしまった。


 




 「いや〜、あそこまで言わなくて良かったのに」


 「もう、れん子先輩、忘れてください」


 休憩を終えたれん子たちは一旦、Zクラスの模擬店に戻るために模擬店の立ち並ぶ道を歩いていた。


 すると道の真ん中に人だかりのようなものが出来ているのに気づいた。


 「あれはなんですかね?」


 「さあ?覗いてみようか」


 淵がれん子に質問すると、これまた筵持込みの野次馬根性を見せたれん子は人だかりをかき分けて一番最前列に出る。


 「なんだこういう事か・・・」


 れん子はそこに現れた光景を見ると、落ち着いた様な冷めた様な声でつぶやいた。




 そこには、日室刀牙と数名のサングラスを掛け黒服を着た男達。そしてその黒服に連れていかれそうになっている長い白髪で赤い目をした少女の姿があった。


 れん子はその少女と知り合いではなかったが、それでも見覚えがあった。その少女はAトーナメントにエントリーされているどこかの支部の代表選手で、どちらもが勝ち進んたら3回戦目に刀牙と当たる予定の人物であった。


 男達は"調整が必要"などと、よく分からない事をいい、無理矢理にその少女を連れ去ろうとしていて、その少女も仕方なくそれに従っているが、目は涙ぐんでいて刀牙に助けを求めている様な雰囲気だった。


 しかし学園同士は不可侵が基本で、ここで行動を起こしたら、学園同士の問題に成りかねないため、刀牙はそれを悔しそうな表情を浮かべながら見送るしかなった。


 


 

 

 「淵ちゃん、さっきの筵ならどうしたと思う?」


 段々と野次馬が退()いていくタイミングでれん子と淵も一緒に、その場を去った。


 そして再びZクラスの模擬店に戻る途中、れん子が淵に訪ねる。


 「さっきのって、日室先輩の奴ですよね。そうですね・・・多分、しっかりとあっさりと判断した上で、自信満々な表情を浮かべながら助けないという事を選択すると思います」


 「だよね〜。筵だもんね〜」


 そう言うと、れん子と淵は笑い合った。


 それから筵がいかに嫌な奴かという話題で楽しく喋りながら、既にソールドアウトしているZクラスのハンバーガー屋に帰っていった。

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