武能祭、初日にて・・・ 2
抽選会が終わると、それぞれのトーナメントごとに会場が分かれてA、Bそれぞれ2つづつの対戦ステージが用意され、1回戦目が開始されていた。
そして試合は着々と進み、いよいよ筵の試合となった。ちなみに筵の試合は後半の方だったため、今までに学園の関東支部の者達は全員が1回戦を突破している。
筵の試合には、前の文化祭の時と同様に、1回戦とは思えないほどの人が集まっていたが、それはもちろん筵の応援団ということでは無かった。
それどころか共通の敵を持つもの同士として、筵の対戦相手の味方と言ってもいい雰囲気であった。
「これで分かったでしょう?皆、苦労しているってことが。辛いのは自分達だけでは無いんだよ?甘ったれてちゃいけないなー」
「誰に言われても腹が立つ言葉だけど、あんたなんかに言われると特別ムカつくわね」
筵の挑発に対して黒髪の少女が不機嫌そうに答える。
筵の1回戦目の相手は何の因果か、本田家本家の妹の方、本田庵であった。
2人は試合開始前、リングの上に立ち、向かい合いながら話している。
観客席からは筵へのブーイングがいつもの事ながらうるさいくらいに巻き起こっていて、筵はそれを加味して、何やら本田家のせいで苦労していると公言する庵に心理戦を仕掛ける。
「君の"特別"になれて嬉しく思うよ」
「・・・気持ち悪い事を言わないで下さい。それに貴方は少しも辛そうではないじゃないですか?」
「うん、なるほどね・・・、でも"辛い時にこそ笑う"、僕がそんな朝ドラのヒロインの様な心の持ち主の可能性もあるだろ?」
「・・・・・・」
筵の質問に庵は言葉を詰まらせる。
「君たちの言う苦労してきたって言うのは差し詰め、母さんが本家を離れた事で本家が権力を失い掛けているから、それを取り戻すために厳しい修行を強制されてきたとか、もしくは才能が無いから無視されて来たとか、そんな感じだろ?」
「貴方は本当に噂通りなのね・・・」
筵の挑発に見事にハマってしまった庵は怒りに満ちた目で筵を見る。
「日本人のそう言うと、奴隷の鎖自慢みたいな物は、正直聴いていて嫌気が指すよ。そんな所で停滞していたら先へは進めないよ。はあ、これだからゆとりって奴は・・・」
「もういい黙れ!!」
筵に対して完全にキレてしまった庵はダガーの様な物を両手に持ち構えた。
「うわ、筵最低だな。あたしちょっと相手の子応援するわ」
観客席の最前列で試合を観戦していた梨理は筵の言動を聞いて冗談半分に言った。
その場にはZクラス全員の姿があり、ちなみに更にずっと上の方の一般の観客席では本田家御一行と未来の子供たちが試合を観戦している。
「筵選手の特技、"自分を棚に上げる"が見事に決まりましたね。どうですか解説のれん子さん?」
譜緒流手は何故か実況風にれん子に話し掛ける。
「そ、そうですね〜。ここから相手の最強の技を引き出して、体力切れを狙うのが黄金パターンですかね」
れん子は急なフリに少し驚きながらもそれに答える。
「なるほど、恐らく筵選手はあれでフェミニストなので、女の子に直接攻撃とか出来ないため何とか、早く試合を終らせるために必死なのでしょうが、挑発にエッジが利きすぎていて、もはや、その研ぎ澄まされた刃物で何度も執拗に女の子の柔肌を傷付けている印象ですね」
「例えるなら"言葉の快楽殺人犯"と言ったところでしょうか!?」
何だか乗ってきた譜緒流手とれん子の実況はエスカレートする。
「あの、あんまり酷い例えしないでくれないかな?僕だって泣くよ?君達もいい歳した男子高校生の本域の涙見たくないだろ」
その酷い実況に筵自身がツッコミを入れ、それを聞いた梨理は苦笑いを浮かべる。
「このうるさいブーイングの中、流石の地獄耳だな筵の奴、・・・あれ?てか、こう言うのなんて言うんだっけ?周りがうるさくても特定の人の声が聞き取れるってやつ?」
「カクテルパーティー効果だよ梨理ちゃん」
「おう、そうだサンキュー」
梨理の疑問に筵が答える。そして丁度その瞬間レフェリーによって"構え"のコールがある。
「あと筵、・・・負けんじゃねーぞ!!」
梨理が代表して筵に対し檄を飛ばした。それから筵がZクラスのメンバー全員を見渡すと皆、頷いたり、親指を立てたりしていてその言葉がクラスの総意だと分かった。
筵は一度息を大きく吸い込み呼吸を整え、自身も一応サバイバルナイフを構えてレフェリーの次のコールを待った。
「いざ尋常に、始め」
レフェリーのコールにより筵の1回戦目が開始された。