武能祭、初日にて・・・ 1
とうとう武能祭当日になった。
最初、武能祭の出場者は朝礼などを行う舞台と席のみのホールに集められ、最前列に座らされた。そして関係者などはその後、更にその後ろや二階席には一般の見学者が座っていた。
流石に筵達の通う学園関東支部で行われるため、一般の見学者も殆どはこの学園の生徒達だった。
最初に開会の言葉などが読まれて、それが終わるといよいよトーナメント表のクジが引かれ、対戦相手が決まることになっている。
クジの引き方は、A、Bと書かれた箱のどちらか一方からクジを引き、AのトーナメントかBのトーナメントに位置づけされる。
ちなみに同じ学園の者達はAとBを同じ数だけ引くため1回戦で当たってしまうことは有り得るが、どちらか一方のトーナメントに全員が固まることは有り得ない。
北海道支部からどんどんとクジを引いていき、ついに関東支部が近づいてきた。
「なんだが緊張するね、藤井さん?」
筵は計らずも隣の席になってしまっているかぐやに向って話しかける。
かぐやは筵側に若干背を向けて視線も筵側ではない方の斜め前を向いている。
筵たちは、あいうえお順に座っていてかぐやのもう片方の隣はまたしても空席になっていた。
「なんであんた、普通に私に話しかけられるの?」
「さあ?別に好意を持たれたいとか思ってないからかな?」
「・・・・・・はあ」
かぐやは筵に背を向けたまま頬杖をついて考え事をする。
「私って何でこんなにあんたの事が嫌いなのかしらね?」
「おっと、それを僕に訪ねるのかい?うーん・・・でもまあ、やっぱり生理的に無理なんじゃないかな?それじゃなかったら、空気が止めない所とか?ああ、あとは人の心を読め過ぎる所とかも割とキツいんじゃない?その他にも話してて相手の神経を逆撫でするとか・・・・・・」
「ああもういいわ、限りがない。・・・・・・でもあえて、もう一つ付け足すならその3枚目みたいな態度なのかしらね」
かぐやは遠い目で舞台でクジを引いている人を見ながら呟いた。しかし、かぐやのその遠い目は舞台上よりも遥か遠くを見ているようだった。
「学園関東支部、本田筵」
「はい」
呼び掛けに対して返事をした筵は階段を上がり舞台に上がって行く。それと同時に反対側の階段からかぐやが降りるのが見えた。
筵がクジの前まで来るとホームとは思えないくらいに関係者席の後ろの方からブーイングが巻き起こった。
物体こそ飛んで来ないものの、このうるさい状況で司会のような人の声すら届かない状態になってしまっている。
そんな中、筵がBの箱からクジを引いた。
「これは僕らしい数字が出たね」
筵が引いた数字は44番、"死"を連想させる最も筵にあった数字であった。
まだ対戦相手の名前の無い44の欄に筵の名前が書かれる。
「皆さん正粛にお願いします」
しかしそれでも筵に対するブーイングは収まらず司会の人が困った様な表情を浮かべている。
筵は"はあ"と溜息をつき司会の人が持っているマイクを受け取る。
筵がマイクを持った事で"何を言うつもりなのか"と耳を傾ける人もいてすこしだけブーイングが治まる。
「えー、こほん。学園関東支部の本田筵です。この大会に出場するのは僕の夢でした。思えば最強の能力者の誉れ高き僕の母もこの大会で優勝しています。今回は偶然が重なったとはいえ、長年の夢であった武能祭に出場できた事をとても光栄に思っています。そして勿論、僕が出場枠を一つ使ってしまったことによって、武能祭出場の夢を断たれた奴ら・・・じゃなくて、方々もいると思います。僕はそんな下々の・・・ではなく有象無象・・・でもないなー、えーっと、とにかくそういう人たちと共に戦っている気持ちで本戦に望むつもりですので、皆さんも僕の試合を指を加えて・・・じゃなくて、暖かい目で見ていてください。・・・ご静聴、有難うございました」
筵が演説を終えると開場は静まり返っていた。その状況の中、筵はマイクを司会の人に返して先ほどかぐやが退場していた方の階段に向う。
数秒後、後ろの方の席からは先ほどの1.5倍のブーイングが鳴り響いたが、筵は何食わぬで、それどころか少し清々しい顔で舞台上から下りていく。
それからブーイングが治まるまでの数分間、開会式は中断を余儀なくされた。