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前夜祭で平常授業 6

 そうこうしている内に時間は過ぎていき、遂に武能祭の前日になっていた。


 武能祭の前夜祭では各地区の代表選手とその関係者を対象にした立食パーティが催される事になっていて、前乗りして来た、いかにも腕に自身のありそうな出場者たちがどんどん会場入りしていた。


 服装はドレスコードのように皆、制服を着ていて、制服を着ていない集団はある意味、悪目立ちしていた。その集団とはもちろんZクラスである。


 そして(むしろ)の妹である(やぐら)(いこい)もこのパーティに参加していているが、ここ最近の傾向で憩は刀牙たちと行動を共にしてしまっている。


 Zクラスのメンバーは少し離れたところのテーブルに大量に置かれている高そうな料理に舌鼓を打っていて、筵と楼はそれを離れた所から眺めながら横並びで会話をしていた。


 「僕達何だか注目されてる?」


 「きっとカップルと思われているのですね。お兄様」


 「いや、僕と楼ちゃんはどう見ても血縁関係がある様にしか見えないと思うよ?」


 漆黒の長い黒髪をお下げの所ではツインテールにして深淵のような黒目を腐らせたその姿は(まさ)しく女性版筵であり、兄妹以外の何者でもなかった。


 「えっ?肉体関係があるようには見えませんか?」


 「うん、カップル=既に肉体関係があるみたいな考えはやめようね。極一部ではあるけれど健全なお付き合いをしている人もいるだろうしさ」


 「しかし、藤居かぐや達は夜な夜なヤリまくっているらしいですよ?」


 「楼ちゃん嘘の情報で僕を惑わすのはやめようね。もしそれが本当だったら憩ちゃんが危なくなる前に()りまくらなくてはいけなくなってしまうよ?」


 筵はそう言うと1回周りを見渡す。


 「でもなんと言うか、日本でも有名な学生能力者が集まっていそう感じだけど誰一人、分からないね」


 「あっ、お兄様、あちらを見てください」


 楼はヤンキーの様な風貌の男の指さす。


 「彼のこと知っているのかい?」


 「いえ知りませんが、あの人はきっと地方での予選で主人公といい勝負をして武能祭で再戦を誓うけれど噛ませ犬みたいにダークホース的な感じの奴にあっさり負けるタイプですよ」


 「ステレオタイプは良くないよ楼ちゃん。ただ1回戦で当たらないことを祈っているよ」


 筵は楼に何時もの半笑いを向けて言った。




 「おう、久しぶりじゃのう?子孫たち」


 突然、尊大口調の可愛らしい声が筵たちの後方から響く。


 振り向くとそこには、いつか現代社会の教科書で見た、本田家の先祖、カトリーナよりさらにボサボサの長い黒髪で、低めの身長でミニスカートの着物を着た女性、本田(ほんでん)古巣(ふるす)の姿があった。


 古巣は享年27歳で既に数十年前に死んでいる。そして今は何らかの能力で幽霊となり、この世界に留まっていて、その証拠として古巣は空中に浮いていて、その姿は普段は本田家の血筋にしか見えない。


 「これはこれは、御先祖様こんなところで出会うとは奇遇ですね。おかわりないですか?」


 「おう、この通り死んでおるが元気じゃ、筵は相変わらず礼儀がいいのう、小遣いをやろうか?」


 古巣は幽霊である事をアピールする様に空中で一回転した後、お婆ちゃんの様なセリフを言った。


 そんな古巣を見た、楼はあからさまに嫌そうな顔をする。


 「それにひきかえ、楼のその態度はなんじゃ?ご挨拶じゃのう」


 「お前がお母様の時に痛い目にあったのにも関わらず、懲りずに私の身体も乗っ取ろうとしたんでしょう?そんな奴に尊敬なんてありませんが?」


 「もう過去の話じゃ、許してくりゃれ」

  

 「お前の能力を寄越せば許しますけど?」


 「おっと、それはダメじゃ?能力を失ったら消えてしまうからのう」


  楼の睨むような視線を受けて、古巣は少しだけ距離をとる。


 「ところで、どうしてご先祖様がこんな所にいるんですか?」


 筵は古巣に質問すると古巣は少し得意気な顔になる。

 

 「それはのう・・・」


 古巣は言葉の語尾を伸ばしながら周りを見渡して人を探している。


 「おう、おったおった。おーい・・・、一星(いっせい)(いおり)!!」


 古巣は少し離れたところにいる数名のグループに声をかける。


 すると、その声に応じて2人の男女が歩いてくる、その男女は目は腐っていないものの黒目と黒髪に特徴があり、筵たちの特徴と酷似していた。


 「古巣様どうしました?・・・・・・ああ、なるほど」


 男の方は1度、古巣に訪ねたが筵たちを見つけるとすぐに状況を把握する。


 「学園中部支部代表の本田(ほんだ)一星です。それでこっちが・・・」


 その見るから好青年らしき男は続いて、妹と思われる女の子の方に自己紹介をふる。


 しかし、女の子の方は嫌そうな顔でなかなか自己紹介をしようとしない、仕方なく一星が話を続ける。


 「こっちは妹の庵、俺は2年で庵は1年、どっちも武能祭に出場する事になっている、実際に逢うのは初めてだな、よろしく」


 一星の爽やかな挨拶が終わり流れで筵たちの番になる。


 「あ〜、僕は本田筵、なんか流れで武能祭に出ることになったんで宜しく、それでこっちが妹の楼、中学3年だから今回は出られないけど自慢の妹だよ。・・・それで恐らくだけど本田(ほんだ)家の本家の人達?」


 筵は何気く質問をした。筵たちの本田(ほんでん)家は元々、本田(ほんだ)家の分家であったが、しかし、いとこ同士であった本田(ほんだ)家の(すみか)本田(ほんでん)家の根城(ねじろ)の元に嫁いだ事で本田(ほんでん)家は本田(ほんだ)家から追出された様な形になっている。


 しかし現状は栖を失った本田(ほんだ)家の影響力は著しく落ち込んでいて、本家が入れ替わったなどと噂されるほどであった。


 「それは馬鹿にしているのですか!それとも本当に知らないのですか!あなた達のせいで兄がどれだけ苦労してきたか分かっているの!!!」


 筵の発言に対して急に怒りを露にする庵はどんどんと筵に迫っていく。


 すると、庵と筵の間に楼が庇うように割って入ってくる。


 「貴女がどこの誰かは知らないけど、お兄様に指1本でも触れたら、能力を残さず奪った後、貴女に恨みのある集団の中に放り込みますよ?」


 「うっ・・・、ど、"どこの誰かは知らないけど"?よくそんな事が言えるわね!!」


 庵は楼の発言に一瞬怯んだものの、すぐに言い返し一触即発の雰囲気になる。



 「こら!庵止めるんだ!」


 

 それは筵が楼の暴走を止めようと口を開こうとした瞬間だった。一足先に一星が自分の妹の肩を抑えた。


 一星に怒られ、しょんぼりしたように落ち込む庵。


 「すまない、今日はこれで失礼させてもらうよ」


 一星はそう言うと落ち込んでいる庵を連れてその場を離れていった。


 「じゃあ、わっちもこれでの〜」


 「待ってくださいご先祖様。こうなる事、分かっていたんじゃないですか?」


 「はて?何のことかのう。わっちはただ自分の作ってしまった気まずい空気に耐えかねて、おいそれと退散するだけじゃぞ。ではまたな〜」


 古巣は一星たちに続いて無責任な言葉を残し、その場を去っていった。 

 

 「全く、失礼なババアと兄妹でしたね」


 「こらこらそんなこと言っちゃダメだよ、それに喧嘩とかもダメだからね」


 筵は優しく楼を叱りつけた。


 「申し訳ありませんお兄様、どうかお仕置きをください」


 楼はさっきまでとは違うデレた声でそう言うと、目を瞑って自分の前髪をかき分けておデコを筵に突き出す。


 筵は少しため息をついた後、楼の綺麗なおデコに痛くない程度にデコピンをした。

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