前夜祭で平常授業 5
「思えば君と出会ったのも丁度一年前だったね」
それは武能祭の顔合わせの後、そしてZクラスで行う模擬店の準備の手伝いを行った、さらにその後のこと、住んでいる人間以外は極普通な一軒家へと帰る道すがら、筵は小さく独り言の様にをつぶやいた。
しかし、それはもちろん独り言では無く、筵の中に住まう魔剣の一人に話しかけていた。
"そうだったか?よく覚えてないが"
筵の脳に中性的な声を持つ何者かが返事を返す。
それの名前は大皿喰らい、本田筵の愛刀にして生命力を喰らう魔剣、そして筵曰く、"友達"であった。
「僕はよく覚えているよ。何せ君を見つけてから、僕の成すべき事が見えてきたんだからね」
"成すべきこと?あの女達に魔剣や聖剣を与えることか?"
「そうなるね、まあそれも、なかなかに手を拱いている所なんだけどね」
筵のその言葉を最後にしばし会話が途切れる、気まずさの無い沈黙の中、薄暗い道を歩いていた筵は郷愁に似たモノを感じていた。
そしてそれは"友達"も同じだった様で大皿喰らいが再び脳に直接語りかけてくる。
"そう言えば、去年の武能祭で使用された俺をこの学園に運び入れる時だったな"
主語のないその言葉は、ツンデレな魔剣の照れ隠しなのか、プライドなのかは分からないが、大皿喰らいが出会った時の状況について言っている事は理解出来た。
去年の武能祭、中部地方で行われた際の準々決勝で使用された魔剣、それが大皿喰らいであった。窮地に立たされた使用者の男は大皿喰らいによって、生命力を大量に吸われ勝ちたいという願いのみを実行する傀儡となっていた。
そんな暴走状態を止めたのが、その時の対戦相手であった日室刀牙だった。
そして例の如く、平々凡々に予定調和に傷つき倒れそうになりながらも刀牙は戦いに勝利し、操られていた男までも救った。
そして残された魔剣、大皿喰らいは研究素材として、この学園に引き取られる予定だったのだが、運び入れる際に紛失し、偶然か必然か筵の元に巡った来たという訳である。
「1年越しに武能祭に再挑戦する意気込みはあるかい?」
"何を言っている、俺を使う気なんて無いんだろ?"
「まあそうだね、多くの人に僕がハーベストと戦える力を持っている事を知られたら困るからね。僕はまだZクラスを離れるわけにはいかないんだ、せめてあの子達に道を示すまでは」
"・・・ふん、好きにすればいい"
そこから一瞬の間を開けて大皿喰らいは話を続ける。
"ただ一つだけ忠告するなら、隠し通すのもいいが、俺達を使うタイミングを見誤るなよ。でなければ大切なものを失う事になる。そして失敗して裏口輪廻を一度でも使ったら、もう二度と元の関係には戻れなくなる、例えお前だとしてもな"
「・・・忠告ありがとう、まさに持つべきものは友だね」
筵は大皿喰らいに感謝の言葉を伝える。その言葉に対して無言の返答を返す大皿喰らい。
11月の夜、寒空の中、奇妙な友人関係の2人はそこから何もしゃべる事は無く、自宅まであと少しの帰路を、ほんの少しだけゆっくり歩いた。




