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武術大会で平常授業 1

 翌日、学園の会議室。


 この学園の生徒会長であり学友騎士団の一員でもあるスチュワート グレイスフィールドは、附属中学の生徒会の名簿を確認していた。


 「中学校の生徒会長、この"本田(ほんだ)(さくら)"さんとは、どんな子なのか知っていますか?」


 スチュワートは他の生徒会メンバーに問いかける。


 「会長、これは桜ではなく(やぐら)です。」


 副会長らしき男子が彼女の間違いを指摘するとスチュワートは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。


 「に、似たような漢字が多いのが悪いのですよ。紛らわしいですね」


 スチュワートは自分の間違いを、漢字が多いからと言うことにすると、再び名簿に目を落とす。


 「本田(ほんだ)(やぐら)さん・・・私なんだか嫌な予感がしてきましたわ?」


 額に手を当てたスチュワートは自身の頭に過った、恐らく正解であるその予想について考え、苦笑いを浮かべる。


 そして、スチュワートの頭に過った予想は、どうやら生徒会全員の予想と一致していたらしく、皆、複雑な顔をしている。


 「いやいや、もし、そうだとしても、あの男の妹である前に世界最強の能力者の娘です。きっと立派な方のはずです。そんなに気をはる必要はありません」


 スチュワートは自分に言い聞かすように生徒会のメンバーに語りかけた。


 その時、会議室のドアが突然開かれ、ペストマスクを被った小柄な女性、納屋蜂鳥が現れた。


 「おい、中学の生徒会を連れてきたぞ」


 高校の生徒会メンバーは皆、緊張した様子でそれを見守っていた


 蜂鳥の言葉に招かれて附属中学の生徒会が会議室に入ってくる。先頭とその斜め後ろに立っている少女以外は、蜂鳥の異様な姿に呆気にとられていて、落ち着きがない様子だった。


 すると先頭に立っている少女が一歩前に踏み出した。



 「附属中学、生徒会会長の"本田(ほんでん)やぐら"です。今回はお招きいただき、有難うございます。」



 スチュワートの勘は的中してしまった。


 長い黒髪を後ろの下の方でツインテールにして、本田筵の目をそのままコピーしたような腐りきった暗黒の黒目を持つ楼の容姿は、本田筵がもし女性だったらこうなるだろう、と言う例を見ているようだった。


 続いて楼の斜め後ろにいる少女も挨拶を始める。


 「生徒会副会長の姫川紅來莉子(くくりこ)と申します。・・・ほら、あなたたちも挨拶をなさい」


 髪を縦ロールにカールさせた気品の溢れる少女、姫川紅來莉子(くくりこ)は楼についでに自己紹介をすると、育ちの良いお姫様のような雰囲気を纏ったその少女は、蜂鳥に呆気にとられていた、ほか中学の生徒会メンバーたちに自己紹介を促した。


 それから高校の生徒会メンバーも簡単な挨拶を交わしてそれぞれ席についた。






 「楼様のフットレストがないとはどう言うことだ、おい」


 「い、いや、高校生の先輩の前で失礼だと思いまして・・・」


 紅來莉子は中学生徒会の役員に向かって怒鳴り、中学生徒会の男子生徒はビックリしながらもそれに答える。


 先ほどのお姫様のような気品溢れる様子は、一体なんだったのだろうか、紅來莉子の化けの皮は一瞬で剥がれた。


 「紅來莉子、かまわないから早く会議を始めますよ」


 「や、楼様、なんと寛大な、し、しかしそれでは私の気が収まりません。そうだ、私をフットレストとしてお使い下さい」


 「・・・貴女がフットレストになりたいということですか?」


 「はい、その通りです~、どうかお使い下さい」


 そう言って紅來莉子は楼の足元で踞った。その表情はとても穏やかで幸福に満ちていた。しかし、それは一向に使われる様子はなかった。


 「貴女がフットレストになりたいと言ったから、そうさせてあげただけで、こんな気持ち悪いもの使う趣味はありませんよ」


 「さ、流石すぎます、楼しゃま~」


 楼のドSな言葉に恍惚な笑みを浮かべる紅來莉子。


 「すみません、では会議を始めましょう」


 楼は紅來莉子を放置して会議を進めるため資料を開く、しかしそれには呆気に取られていたスチュワートも流石に待ったをかける。


 「流石にこれでは、ちゃんと椅子に座って貰わないとかわいそうです」


 「はあ?こっちはご褒美タイム中なんだよ。素人が口挟んでんじゃねーぞ」


 紅來莉子は突然、ため口になりドスの効いた声でスチュワートの提案を断る。


 それを受け、楼は"はあ"と一回ため息つき、足元で丸まっている紅來莉子にかかと落としをキメた。


 「紅來莉子、席に座りなさい、迷惑してますよ」


 「有難うございまずぅ」


 紅來莉子はしばらく恍惚とした後、楼の隣に座り、会議が始まった。




 文化祭の合同開催のための会議が始まると楼と紅來莉子はまるで別人のように堂々とした意見を述べ、数時間かかると思われていた会議は45分ほどで終了した。


 「流石、生徒会長になられるだけありますね、あのお兄さんとは違うようです」


 最初に色々あったものの楼が本当に優秀であることを確信したスチュワートが微笑を浮かべながら言い、スチュワートのその発言に高校の生徒会から小さい笑い声が上がる。


 しかし、その様子を見ていた中学の生徒会はそわそわと落ち着かない様子で、楼と紅來莉子の方をしきりに気にし始める。


 「それは一体どういう意味で言ってるのでしょうか?」


 高校側の態度に対して、何故か、紅來莉子が淡々とした声と怖い表情で反論する。


 紅來莉子の言葉に少し驚いた様子を見せる高校の生徒会メンバー。


 「やめなさい、紅來莉子。高校生の先輩方は昨日のハーベストとの戦闘できっとお疲れなのですよ。そうでなかったら、例え、愚兄だとしても肉親のいる前で、その家族をバカにするような品格のない発言、あのグレイスフィールド家の方がするわけがないでしょう?」


 楼は冷静に紅來莉子を諭す。その様子を見て中学生の生徒会からは安堵のため息が漏れた。


 「も、申し訳ありません楼様。皆さんも申し訳ありませんでした」


 紅來莉子は楼と高校の生徒会の人たちに謝罪をした。


 「い、いえ、私もごめんなさい失言でした」


 それからスチュワートも楼に謝罪をして会議は終了となった。






 会議が終わり、中学、高校の生徒会のメンバーが皆、退出したがスチュワートは会議室の鍵を締めるため部屋に一人残っていた。


 「はあ、なんだか昨日より疲れたかもしれませわ」


 スチュワートは本田楼と言う人物を思い出しながら呟いた。


 優秀であることは間違いないが、なにかまだ本質を隠している気がした。




 噂をすれば影という言葉があるが、今回がまさしくそれだった。数回のノックの後、会議室の扉がゆっくりと開き、本田楼が姿を表す。


 「なにか忘れ物ですか?」


 スチュワートが椅子から立ち上がりながら、優しく声を掛ける。


 「ええ、一つ疑問がありましてね」


 楼は手を後ろにして会議室の鍵を閉めた。


 そして。


 「何で、お前程度の奴がお兄様をバカにしてんだ!!?」


 楼は発言とともに能力を発動させ、それとほぼ同じくらいのタイミングで楼の能力で現れた鎖がスチュワートの胸の辺りを貫いていた。


 「なっ・・・なにを」


 本当なら即死してもおかしくないが、死ぬどころか痛みすら感じなかった。ただ一つおかしいことは、指一本動かせなくなっていたことでだった。


 楼はゆっくりとスチュワートの方へ歩いていく。


 「その鎖の外傷で死ぬことはありません。・・・私の能力、ただ一人の操演(オールテイマー)は鎖で繋いだモノの所有権を得ること、こんな風に」


 楼はそう言って、指を一瞬だけ動かすとスチュワートは自分の手で自分の首を絞め始める。


 「ど、・・どういうつもりですか」


 スチュワートは首を絞められている状態で何とか声を絞り出す。


 「お前は会議の時、許されない罪を犯した。お前程度の雑魚がお兄様をバカにするなどあってはならない」


 スチュワートは楼の隠れた本質を理解した。


 楼は極度のブラコンだったのだと。


 しかし、だとしたら気がかりなことがあった。


 「あ、あなたも愚兄と言っていたと思うのですが?」


 「ああ、そのことに関しては、後程、全裸で土下座して許しを乞う覚悟です。あなたもしますか?」


 「くっ・・・・・・」


 楼は迷いのない真っ直ぐな、しかし、歪みきった目でスチュワートを見ている。


 その時、会議室のドアをノックする音が響く。


 「楼様、どうかなさいましたか?」


 紅來莉子が不安そうな声で訪ねてくる。


 「今、この女を絞めているところよ、紅來莉子」


 「なるほど、では私が見張っているので、ごゆっくりどうぞ」


 ありのままを語った楼に対してノータイムで共犯者になる紅來莉子。


 やはり、この二人はおかしい、そう確信したスチュワートは多少強引だが能力を使って切り抜けようと試みる。


 しかし、能力が発動することは無かった。


 「モノの所有権を奪う能力だと言ったでしょ?能力だってその例外ではないわ。へぇー、なかなかいい能力を持っているじゃないですか?私のコレクションに加えるのもいいですね」


 楼はスチュワートから奪った能力を使い、手の中で電気のようなものを発生させる。


 「私になにをさせる気ですか?」


 パシャ。


 楼は携帯のカメラで胸の辺りに鎖をつながれ繋がれ、自分で自分の首を絞めているスチュワートの写真を撮った。


 「それをどうする気ですか?」


 怒りと不安を合わせたような表情のスチュワートが質問する。


 だが楼は少しの間、スチュワートの質問を無視し、しばらく携帯の操作に集中した後、その画面をスチュワートにも見せる。


 そのメールには宛て先のところに"お兄様"と書かれていて、先ほどの写真が添付されていた。


 「貴女の処遇はお兄様に決めてもらいます」


 楼はそう言ってメールを送信した。




 「本田筵のために、何故そこまでするのですか?」


 体の自由も奪われ、能力も奪われている中、そのような質問をしてきたスチュワートに少し感心したのか、楼は正直に口を開く。


 「今の私を構成するもの全て、お兄様から頂いたものだからですよ。・・・私がこれからの人生でお兄様のためにさせて頂くこと全ては、そのあまりにも大きな恩に対する利子の返済に過ぎない行為なのですから」


 そう言って楼は笑い、それから1分もしないうちにメールが返ってくる。


 そして、そのメールを見た楼は少し考えた後、能力を解除した。


 体の自由が戻ったスチュワートは咳き込みながら、楼の方を睨む。


 「お兄様に感謝することですね」


 楼は再び携帯のメールを見せながら言った。そこには"放してあげて"という文が"お兄様"から届いていた。


 それから楼は体を反転させてドアに向かって行き、鍵を開けた。


 「次は能力だけでなく、"聖剣"も奪いますから」


 楼はそう言い残し、会議室を後にした。


 そして、会議室に残されたスチュワートは、ただただ、廊下から微かに聞こえる、楼と紅來莉子の話し声を呆然としながら聞いていることしか出来なかった。

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