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前夜祭で平常授業 4

 「いやいやなかなかに珍しいメンバーが集まったね」


 (むしろ)はお通夜みたいな空気の中、気にせずにいつもの半笑いでそこにいる全員に話しかける。


 この会議室では武能祭出場者である海堂順三、スチュワートグレイスフィールド、藤居かぐや、名雲(ひじり)、そして本田(ほんでん)筵が一同に介していて、その他には理事長とZクラスの担任でもある納屋蜂鳥、それと恐らくAクラスの担当教師であろう人が、この場に同席していた。

そわ

 そしてもちろん、この学園の英雄である所の日室刀牙(とうが)も武能祭に出場するのだが、訳あって遅刻している状態であった。


 「ところで日室くんはどうしたんだろうね?もしかしてまたフラグでも回収しているのかな〜、彼も結構難儀だよね、きっとどこかでしらない女の子を助けているんだね〜」


 「あんた、本当に五月蝿いんだけど、少しは静かに出来ないの?」


 筵の減らず口に対して、かぐやが普段よりも2オクターブほど低い声で言った。


 「いやいやゴメンね。僕としては早いところ教室に戻って模擬店の手伝いをしたいのに、待たされてしまって、苛立ちを隠しきれなかったんだよ。もう17になるのにこんなではいけないね〜」


 筵はあまり苛立っている様子の無い顔でかぐやに言葉を返す。


 すると、つまらなそうに椅子にもたれかかって頭の後ろで手を組んでいた聖は大きく溜息をついた。


 「はあ、そこの男はまあどうでもいいがよぉ、俺も早くやって帰りてぇんだけど」


 聖は噂通りの他人を全く寄せ付けなそうな様子だった。


 「名雲、確かにこの状況、悪いのは日室ではあるが少しは忍耐力を鍛えたらどうだ?」


 海堂は重低音の声で堂々とした感じに語り、聖と睨み合うような状態になる。その状態を見るに2人はかなり仲が悪いのだと推測できた。


 「海堂くんも名雲くんも、もっと仲良く出来ないのですか?」


 そんな2人の仲裁に入るスチュワート。


 「そうですよ、僕達はこれから共に戦う仲間なんだから、生徒会長の言う通り、表向きだけでも仲良くしましょうよ」


 筵はスチュワートの言葉に便乗するように半笑いで説得に参加する。


 「生徒会長の言う通りとはなんですか!言う通りとは、私は表向きだけでもなんて言ってませんわ」


 「行間を読んだんですが?得意なんですよ行間を読むの」


 筵はスチュワートの抗議に対して不思議そうに答える。


 「あんたはもっと空気を読むのを得意になったらどう?」


 かぐやはそんな筵に対して、またしても厳しい意見をぶつけてくる。


 「これは上手い返しをされてしまったね。そうだな〜じゃあ僕は"鯖"でも読もうかな〜、・・・えーとそれでは蜂鳥先生は14、理事長は36で」


 蜂鳥と理事長を名指しして2人に何かの数字を当てはめる。


 「その数字がもしも年齢のことを指しているのだとしたら怒らなければなりませんね」


 顔は笑っているながらも怒っている様子の理事長。


 「いいえ、この数字は今まで振ってきた男の数ですよ?さすが理事長は百戦錬磨だもんな〜」


 筵はそんな理事長に対してお世辞の言葉を述べる。


 「ここに来て空気を読むのか、筵」


 続いてペストマスクの様なマスクで篭った声の蜂鳥は筵に対して、ツッコミを入れた。そんな蜂鳥の声の感じから察するにマスクの下はおそらく苦笑いを浮かべていると予想できた。

 



 「わかりました。日室くんには後日私から伝えておきますから始めましょう」


 理事長はその場をおさめる為に提案する。


 そして、それぞれの選定理由や大会のルール、その他諸々などについて詳しく説明していき、彼此(かれこれ)、30分くらいでその説明は終了した。


 「それではなにか質問はありますか?」


 理事長がその場の全員に対して質問する。


 一瞬だけ、シーンとして、誰も質問なんてないと思われたのだが、思い出した様に聖が筵を横目で見る。


 「ところで、こいつは一体誰なんだよ?」


 「あれ?僕は確か皆勤賞な上に、悪い意味ですごい有名なんだけど知らないのかい?」


 「興味ねーな」


 「へ〜、僕は君のこと良く知っているけどね。なんでも最近、丸くなった様じゃないか?なにか運命的な出会いでもあったのかな?」


 筵は聖に質問を仕返す。


 「はあ、アイツは関係ねえよ」


 「ふーん、でも僕は個人的に、君が彼女を助けてくれたことには感謝しているんだよ?」


 「・・・お前、ののみの事知ってんのか?」


 「ええ、まあね。匙を投げた人間の一人さ、それもまだ充分に使い道のある匙をね。だから気になっていたんだけど収まるところに収まって良かったと思っているよ。・・・ねえ、理事長?」


 筵は理事長を横目で見ると理事長は目を逸らす。


 「まあ、もうこのくらいでいいでしょう。皆さんの健闘を祈っています」


 理事長は焦るように解散を促した。


 


 それから、それぞれが退出しだし、筵も会議室を出ようとすると珍しくかぐやによって呼び止められてしまった。


 「あんた、目的は何なの?」


 「いやいや、ただの交換条件だよ。僕が大会に出ることが模擬店を出すための条件だったのさ。だから最初は早々に負ける予定だったんだけどね」


 「予定・・・だった?」


 「そう、文化祭の時と一緒で後輩に可愛い駄々を捏ねられてしまって今回は本気で優勝を狙いに行く事にしたんだよ。日室くんにも伝えておいてほしいな」


 筵はそう言うとかぐやに背を向けて退出して行った。


 会議室に残されたかぐやはと言うと、筵の本気を出すという発言に言いようの無い不安感と少しの恐怖を感じて、数秒その場で硬直してしまっていた。

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