表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/256

前夜祭で平常授業 3

 「さあ皆、模擬店を出す権利は僕が苦労に苦労を重ねて、辛酸や苦汁や泥水を舐めたり、啜ったりしながら、粉骨砕身、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて勝ち取ってきたから、出し物を何にするか決めようか?」


 筵が模擬店の権利を得た翌日の放課後、またいつものように教卓の前に立った筵は、何人かいないZクラスのメンバーに向かって言った。


 Zクラスは現在、筵、淵、湖畔、カトリーナの4人で、他の2年組はそれぞれ諸事情で下校している。


 そんな状態のZクラスで筵の言葉を聞いた淵は溜息をついた。


 「どんだけ恩着せがましいんですか、感謝する気が失せますね」


 「淵ちゃん。君たちに変な気を使わせないための大人の対応だよこれは。・・・って、なんか前に譜緒流手ちゃんにこんな話した気がするね」


 筵はいつもの半笑いで淵に笑い返す。


 「そこまで赤裸々に語れる筵先輩流石です」


 カトリーナは眠そうな目で皮肉混じりに言った。


 「そうだろ、僕ほど、いろんな事が語れちゃう人間はいないと思うよ。僕の辞書に不謹慎とかいう言葉は無いし、"空気"っていう欄はきっと変な汁とかで滲んで解読不能になっているからね」

 

 筵の迷いの無い言葉に、淵とカトリーナは呆れていて、湖畔は有難いお言葉とばかりに筵の言葉に耳を傾けている。


 「そして、今のところで黒く塗りつぶされているとかでは無く、変な汁で滲んでいるという表現をするところから僕の陰湿さが際立つでしょ?」


 「自分の言った隠喩まで自分で説明するとは、かなり上級者ですね。なかなか出来ることではありませんよ」


 本当に言わなくてもいい事を言ってしまう筵に対して、淵も皮肉で返す。


 「そうだよね。淵さんもそう思う?」


 しかし、淵の皮肉は筵信者の湖畔には通じなかったようで言葉通りに受け取られてしまい、同意されてしまう。


 「あ、あの湖畔くん、わたしは皮肉で言っているんだよ?」


 淵は必死に否定したが、それに対して湖畔は可愛らしく首を傾げる。その癒される顔を見ると淵は否定するのがどうでもよくなってしまった。



 


 「それで、そもそもなんで今日決めるんですか?先輩方がいる時でよかったんじゃないですか?」


 「そうは言っても淵ちゃん、武能祭まであと10日だよ。それに僕、武能祭に出る事になって顔合わせとかあって忙しいんだよね」



 ・・・・・・。



 1年生組は絶句してしまっていた。


 「まあ、僕無しで決めてもいいんだけど、れん子ちゃんたちは今日決めてもいいって言ってくれたからね。取り敢えず連絡は取れるようにしているから意見は聞けるよ」


 筵は自分の携帯電話を指さしながら言った。


 「あ、あの、で、出るんですか?武能祭に?」


 「それが条件だったからね。まあ出るだけだから適当な所で降参してもいいし破格の条件だよ?」


 そう言うと筵は淵に微笑みかけたが、淵はうつむき何かをボソッと呟く。


 「淵ちゃん、僕のことは気にしなくていいよ」


 それを流石の地獄耳で聞き取り言葉を返した。


 「そういう事を言っているんじゃないですよ。なんで自分を犠牲にするような真似するんですか!!」


 淵はうつむいた状態から立ち上がり、机を叩く。その表情からは少しの怒りが見て取れる。


 それを見たカトリーナと湖畔は驚いたような顔をしているが(おおむ)ね淵の意見に同意のようであった。


 「・・・・・・んん」


 筵も少し困ったように考え事をする。


 それから皆が押し黙ってZクラスが静寂に包まれる。しばらくその状態が続いた後、筵が口を開いた。


 「僕の唯一の嫌う事は、君達としたい事が出来ないことなんだよ?君達以外の人に中傷されたり、嫌われたりするなんて本当に、"本当"にどうでもいい事なんだ。君達が怒ってくれているのは、きっと僕の為なんだと思うけど、僕の為を思うなら、出来れば思いっ切り楽しんで欲しいんたけど、だめかな?」

 


 


 「だめですね。それでは」

 「無理ですね」

 「ちょっと嫌ですね」


 3人の1年生は一斉に異を唱える。


 「あれ?ここは心動かされてオッケーするところじゃないの?」

  

 筵は表情を崩さなったが、それでも予想外だった様であった。


 それを見て淵が仕方なくしゃべり出す。


 「はあ、百歩譲って、大会に出るのは良いです。でもすぐに降参しようとするのが嫌です。そりゃあ、筵先輩は人に何を言われようが気にしないで、早く模擬店の手伝いをしたいと思っているかも知れませんけど、筵先輩は一応、Zクラスの代表なんですからそんな先輩が馬鹿にされるのは嫌なんですよ。・・・ですから条件があります。それは、どうせあるであろう"裏"って奴を全て打ち砕いて今回こそは優勝してしまうことです」


 淵は先ほどの怒りこそ無かったが、それでもここだけは譲れないと言うような顔だった。


 「淵の言う通りですね。ルールはたしか文化祭の時と一緒なんですよね?なら無双しちゃってくださいよ」


 「ぼくも同意見です。筵先輩の凄いところを全校生徒に見せてやってください」


 カトリーナと湖畔も筵に期待の視線を向ける。


 筵はそんな後輩達の後押しを受けて考えていた。思えば文化祭の時も後輩達にこんな感じに説得されて、1度は優勝すら考えて予選に望んでいた。あの時は反則負けにされてしまったが、今回はまだ手の打ちようがある。


 「はあ、僕って奴は、意外と押しに弱いんだね。・・・分かったよ。今回は僕も本気を出す。君達に嫌われないようにカッコイイところ見せなくてはね」


 筵は真剣に武能祭に取り組む事を宣言して、自己犠牲のような真似をした事についてのけじめをつけた。




 そこから、ようやく会議の内容は出し物を何にするかへと変わり、諸事情で下校しているれん子たちの意見も取り入れ、誰もやらなそうな上、そこまでマイナーでも無い、飲食店と言うことでハンバーガー屋辺りが面白いという事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ