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前夜祭で平常授業 2

 「なるほど、模擬店を出したいということですか?」


 「ええ、そうなりますね。確か武能祭の時は学園は休みなので僕達も当然休みになる筈ですよね?」


 筵は授業が終わった放課後、理事長室を訪れ、この学園の理事長である三十代前半程の厳しそうな女性の元へ、直談判に来ていた。


 「なるほど、しかしそれは認められません」


 「・・・・・・よろしければ何が認められないのかお聞かせ願えませんか?」


 「こちらとしては理由などいくらでもでっち上げることは出来るのですよ?理由を聞いても何にもならないと思われますが」


 理事長は筵の提案をことごとく却下した。


 しかし、それは単なる嫌がらせ等ではなく、駆け引きであった。理事長としては筵相手にそのような態度を取り続けると天敵である本田(すみか)を召喚されてしまい、結局、筵の意見が通ってしまう。


 理事長は筵に対して強化合宿の時同様、依頼したいことがあったのだが、筵に依頼をするのでは無く交換条件としたかったのであった。


 「はあ、止めましょうよ理事長。僕と理事長の仲じゃないですか」


 「私とあなたがどんな仲だというのですか?」


 「僕達は腹に一物抱えた者同士じゃ無いですか、隠し事は無しで腹を割って話しましょうよ」


 「何を言いたいのですか貴方は?」


 理事長の不信感を持った顔に筵はいつもの半笑いで笑い返す。


 「僕に何か依頼したいことがあるのでしょう?良いですよ今回は受けてあげますから言ってみてください」


 ・・・・・・・。


 「はあ、やはり貴方という人は・・・」


 理事長は諦めたように深くため息をつき依頼内容を伝える。


 「武能祭のルールは文化祭の時の武芸大会と一緒なのは知って居ますか?」


 「それは今知りましたが、まさか僕に参加して欲しいということではないですよね?」


 筵の言葉に理事長は一度息を飲み、少しの間が開く。


 「怖いくらいの洞察力ですね。・・・ええ、その通りです。貴方に武能祭の代表選手の1人として出場して欲しいのです」


 理事長は驚くような提案をしてきた。しかし筵には引っかかる事があった。


 「そうですか、しかし、僕は文化祭の時の武芸大会では反則負けにされてしまった記憶があるのですが?」


 「ええ、あの時はこちらもバタバタしてまして、しかし今回は貴方の能力が反則にならない様に最善を尽くします。貴方には大会を盛り上げて欲しいのです。この条件を呑むのであれば模擬店の件を許可しましょう」


 理事長は両肘を机の上に置き、口元で指を組み提案した。


 筵はそんな理事長の様子を全てを見通しているかのような目で見る。


 「なるほど、まあいいでしょう。その条件お受けします」


 筵は理事長の提案した条件に同意した。そして理事長室を"失礼しました"という挨拶を残して足早に去っていった。


 



 時刻は午後7時程の理事長室、学園の生徒達は全員帰宅していて現在は理事長のみがやり残した仕事をするために残っている状態となっていた。


 「今、宜しいですか?理事長さん」


 理事長は出来れば二度と聞きたくない、その天敵の声を聞いて机の上にあるパソコンから目を離し、前を見る。


 「栖さん。あなたがここに来ているということは、息子さんからなにか聞きましたか?」


 理事長は目の前にいる、黒髪に糸目の女子高生にも見える女性、本田筵の母親にして世界最強の能力者、本田栖に向かって返事を返す。


 「いえ、筵からは何も聞いていませんよ。ただ2年前から常に目をかける事にしているんです。そうしたら学園の長ともあろう方が生徒を利用して何かを企んでいるようなのでこうして、駆けつけたんです」


 栖は落ち着いた声と穏やかな表情で話しを続ける。


 理事長はそれを明らかに動揺した様子で聞いていた。


 「そ、それで要求はなんなのですか?」


 「いえいえ、貴方は今日、筵に対して言った言葉を全うすればいいだけの事ですよ?筵が反則負けにならない様に最善をつくという言葉をね」


 「・・・どういう事ですか?」


 「はあ、貴女のやろうとしていることなど分かりきっています。せいぜい筵に何人かの強敵を倒させてから反則負けさせることに同意して、この学園の他の生徒を有利にさせるつもりなのでしょう?こんなことは筵も最初から気づいていますよ」


 「・・・・・・」


 「ですが筵もそろそろ本気を出してもいい頃合だと私も考えてまして、ですから貴女には貴女の言葉通り、最善を尽くして貰いたいのですよ」


 栖は言葉を失っている理事長に向かって話し続けた。


 「それではよろしくお願いしますね」


 栖はそう言い残すと理事長室から出ていこうとする。


 「ま、待ちなさい。例え私が主張したとしても他の8校の理事長に言われたらどうしようもありません」


 理事長は椅子から急いで立ち上がりながら言った。


 「その時はその時で仕方ないですが、貴女に最上級の努力が無いと私が感じたらどうなるか分かりますよね?」

 

 栖は糸目を少し開きその中のブラックホールのような邪悪に腐った目を理事長に向ける。そして退出しようとしてドア付近にいた栖は再び理事長に近づいていく。


 「私は、今、怒っているのですよ?普通に与えられるべき権利を餌に人の息子に下らない道化を演じさせる。そんな事をされて怒らない親がいると思いますか?」


 栖が理事長から2mほどの位置に来ると理事長も恐怖で一歩下がる。


 すると、栖の手元に光が集まっていき杖の様なものを形作っていく。


 そしてその杖の下の部分で床を軽く叩いた。


 少し鈍い音が理事長室に響いたと思った瞬間、気づくと理事長室には理事長と栖の向かい合っているライン上以外の所に様々な姿のハーベストが敷き詰められるように召喚されていた。


 「な、何が目的なのですか?」


 理事長が抵抗する為に能力を発動させようとすると、理事長の真横に位置する2人の刀を持ったハーベストが首元に刀を持っていく。


 「栖様への無礼」


 「決して許さず」


 2人の、と言うよりその一対のハーベストは理事長を静止させた。

 

 「栖様、栖様?コイツやっちゃっていいの?」


 続いてビックリ箱で飛び出てくるような単純な顔を持ったハーベストが能力で手を拳銃に変身させて理事長に向ける。


 「お前達、その位にしておけ命令以上の行動は慎むんだ」


 青い炎を纏った骸骨の様なハーベストが先走るほかのハーベストを止める。


 「でもコイツがよー、筵様を利用しようとしたんだろ、ならぶっ殺すしかねーだろ?」


 アーマーをつけた厳つい体つきのハーベストが先ほどの青い炎を纏った骸骨のハーベストの肩を押しのけながら言った。


 その他のハーベストたちも次第にざわざわとしだして理事長室はうるさいくらいの雑踏に包まれる。




 「貴方達、少し静かにしなさい」




 それは(まさ)しく、鶴の一声。栖のその穏やかな声で全てのハーベストは一斉に押し黙って静かになる。


 「私の世界の民が、うるさくてすみませんね」


 「こんな所で能力を発動させてどういう事なのですか?しかもそれを使って」


 理事長は栖の持つ杖を指さしながら言った。


 「貴女に私が本気であることを伝えたいと思いましてね。外を見てみてください」


 栖の言葉を受けて理事長は恐る恐る、窓を開けて外を見る。


 そこには巨大な触手と体を持つ、言うなればクトゥルフ神話の神話生物の様なハーベストが空に浮かんでいた。


 「彼女は私の世界に存在する魔王型ハーベスト級のハーベストの1人です。そしてこの部屋だけでなく、この学園全体に私の国民が召喚されています。どうですか、私の本気は伝わりましたか?」


 理事長は栖の言葉を聞いて力なく壁にもたれ掛かる、理事長は日本で2位、世界で7位の能力者だった。しかし7位と1位には埋めようのない大きな差があることを今、再確認していた。それどころかおそらく世界2位と栖にも同じくらい大きな差が存在していて、理事長は改めて本田栖と言う能力者の恐ろしさを感じていた。


 そして結局、理事長は栖の要求を素直に呑むしか無かった。

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