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宇宙主義と平常授業 5

 筵の提案したお題、粘土細工の評価基準のオリジナリティーというものは膨大なデータを所有するだけでは到底手に入れることの出来ないものであった。


 それどころか膨大な知識故にオリジナリティーは狭まってしまって、意外とプライドの高そうな宇宙主義(コスモポリタン)の性格上、似たようなものが知識の中にあることをオリジナリティーとは呼ばないと思われた。


 それに加えてテーマが愛、筵の見立てでは宇宙主義は確かに心と呼ばれるモノを所持しているものの、それは人間で言ったら少し感情表現が苦手な人ほどだと考えられた。


 そしてその答えは当たっていたようで、宇宙主義はこのテーマにかなり苦しめられている風に見受けられた。


 しかしながら、このテーマに苦しんでいるのは宇宙主義だけでは無かった。


 このお題を設定した筵自身もかなり苦悩していた。評価基準の方はともかくとしてテーマの愛、これは筵にとってかなりの難問であった。


 



 もともと本田筵とは自己愛の塊であった。彼は自己愛こそが真実の愛でそれ以外は偽物の愛だと思っていた。そしてそれは今でも基本的には変わらなかった。

 

 例えば自分がどんな人間だろうと、自分が私怨で人を殺そうと自分だけは自分を嫌いにならないだろう。"ああ、なんてしょうがない奴なんだ"と愛着すらわくかもしれない。


 だが同時に自分の持つ自己愛が多くの人にとって、よく思われないものであることも理解していた。

  

 ある偉人の言葉に"他人を自分だと思って愛せ"みたいなモノがある。しかし筵には他人を自分だと思うことは決して出来なかった。


 しかし世の中はうわ言のように愛を語り、真実の愛を偽装して、君のためなら死ねるなどと、一つしかない命を賭ける。無限の命を持つのならともかく、なぜそんな事が簡単に言えるのか分からなかった。


 そもそもどこに惚れたらそれは真実の愛という事になるのだろうか?


 外見で惚れたなら面食いだと言われ、性格で選んだならそれは自分にとって都合のいい人を選んでいるだけなのかもしれない。それに人が人に見せる性格なんてものは、人に見せられるように作ってきた仮面だ。いわゆる外面である。外の(めん)に惚れたと言う事ではどちらも変わらない。


 それにそれらは時間とともに変わっていく。真実の愛は生モノで賞味期限があると言うことも出来るが、遠くない将来、腐るモノを大切にする気は起きなかった。


 しかし真実の愛というものに対する憧れは持ち続けていた。それは決して手に入らないものを妬む憧憬(どうけい)であったが、得てして真実というモノは何の苦労もなく本物という椅子に居座っている。そんなものよりは憧憬の末に至った筵の59点の答えの方が価値があったのかも知れなかった。


 その答え、妥協点が今のZクラスの形、大切なものを保護すべき対象として、あるいは自分の子供のように思って愛する事だった。


 この方法は思いのほか上手く機能して、その子たちの為に如何(いか)なる苦労をする事もいとわなくなりつつあった。しかし数週間前にその機能を脅かす存在が現れた。それが未来の子供たちだった。





 「そうかこの為に送ってきたのか・・・」


 筵は小声でため息混じりに呟いた。


 そして同時に子供たちをこの時代に送った未来の自分自身に対して恨みにも似た感情が湧いてくる。

 

 「考えを改めろって言いたいのかな?未来の僕は」


 筵はまだ袋からすら出していない粘土を見下ろししばらく考える。


 今のままの愛し方ではいつか全てを失う事になる。そう警告している様に思われた。


 筵は意を決したように一度大きく息を吸う。


 「変えようと思って、考え方をすぐ変えられるような出来た人間では無いけれど、そうだね・・・それでも形から入るのは得意な方だから、・・・ここから始めていく事にするよ」


 筵は表情こそ変えなかったが。その他の人物には何か大きなものが変わったように思えた。


 


 それから数十分後、勝負は決着し、その結果、地球は宇宙主義の侵略を免れる事となった。

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