大罪型ハーベスト戦で 3
「やっぱり一度タガが外れると人間ていうのはダメだね。完璧さが崩れると、とたんにどうでも良くなる人間の悪い所が出てしまっているよ。もっとも僕は人間のそういう所も愛らしくて好きなんだけれどね、ただ皆勤賞とかだって一度も休まないことに意味があるのであって、たったの一日だけ休んでしまった人には何の賞も意味もない、つまり何を言いたいかというと0回と1回にはそれだけの差があり、大げさに言えば他は誤差に過ぎないということだ。故に僕はこいつを使う事にするよ。僕が嫌いでもない人間の愚かさを行使してね。・・・・・・こい大皿喰らい」
筵は長たらしい言い訳をした後、日本刀型の魔剣、大皿喰らいを呼び出した。
"言い訳とかどうでもいいから"
筵の心の中で大皿喰らいの中性的な声が響く。
「いや、言い訳もしたくなるよ。一年近くずっと使わずにいたのに、ここ最近何かに導かれるように、使わなくてはならない状況が増えているんだからね」
筵は虚空を見つめながら答えた。
「うわ!魔剣かよ。何故かダメージが無い以外なんの取り柄のないやつかと思ったのに」
筵の斜め上の上空にいる憂鬱は憂鬱そうに呟く。
「悪いね。もし良かったら降参してくれてもいいんだよ?」
「まあ確かにー、ダメージが入らない上に魔剣なんて出された日にはすこし酷しいなー」
憂鬱は頭を抑えながらため息を漏らす。諦めたのかと思われたが暫らくすると頭を抑えている手を離して言葉を続ける。
「まあ、やりようはいくらでもあるけどねー」
憂鬱が片手を天に掲げると巨大なシャボン玉の様なものが出現する。
「幻夢 "泡沫の月"。幻に沈みみなさい、つってな」
天に掲げた腕の指を鳴すと、巨大なシャボン玉は弾け、辺りを眩しい光が包みこんだ。
「"泡沫の月"は現実と夢の価値を逆転させる。これを受けたものは現実を夢だと誤認して、同時に夢を現実だと錯覚する。これを喰らったものは、そのものにとっての紛うことなき現実を永遠に真っ当にすることになる。死なないと言ってもやりようはいくらでもあるんだよー」
憂鬱はうつ向いて動かない筵に近づいていく。
「よく、幸せで出たいと思わない夢に閉じ込めたりするけど、あれは受けた人に出るヒントを与えているみたいなもんでしょ?現実とそっくりの夢を与えて夢と現実を入れ替えるのが一番いいんだよ」
「・・・・・・まったくそうだよね。幸せな空間が誰かによって意図的に作られたって知った瞬間、なんだか萎えてしまうからね」
能力にかかっているはずの筵が突然、顔を上げて話しただした。それに驚いた憂鬱はバックステップで一歩下がる。
「あ、あれれ?なんで催眠にかかってないの?」
「確かに、いい技だよ。食らっていたら多分抜け出せないね。でも僕の能力、安定死考は死ぬことにより万全の状態で復活し催眠すらも解ける。そして、僕が気絶したり、何かしらの異常をきたしたら心臓が止まるようになっているんだ。それにより何時でも安定して死ぬことを考えることが出来る」
「へぇ、そ、そうなんだ」
憂鬱は今度は奥の手とばかりに両手をゆっくり上げる。
「こ、降参しまーす」