トリプル(ブッキング)デートで休日を 3
「おせーぞ筵何やってんだ。ここはお前の奢りだからな。・・・・・・ほら、アジトこいつの奢りだから好きなの頼んでいいぞ」
筵が梨理たちとの待ち合わせ場所であるファミレスに着くと、梨理とアジトは既に店内の席に隣あって座っていた。
その二人の容姿は非常に似ていて、誰が見ても血縁関係がある事は明らかであった。
梨理はアジトの肩に手を回した状態でアジトに見せるようにメニューを見ていて、やられているアジトは少し恥ずかしそうにしていた。
「梨理ちゃん、意外と子供にベタベタするタイプなんだね」
「はあ?何言ってんだてめぇ?別に普通だろ」
筵の問に対して梨理はさぞ当たり前のような顔で返してくる。
その梨理の返答を聞いた筵は、梨理に一方的に肩を組まれて恥ずかしそうな顔をしているアジトの方を向いた。
すると、アジトは恥ずかしそうな表情のまま数回首を横に振った。
どうやら、未来の世界での梨理はいわゆる親バカのようである。
「そうだね普通だね。でも時には、普通じゃ無い事も大切だと思うよ?」
「お、俺もそう思うよ。母さん取り敢えず離して」
筵の言葉に便乗したアジトは梨理の腕を振りほどいた。
「アジトが反抗期に・・・・・・」
梨理はアジトに腕を解かれたことに思いのほかショックを受けている様であった。しばらくそのショック状態が続いた後、梨理は仕切り直してメニューを見返す。
「こうなったらヤケ食いだ、この一番高いのをいただくぜ」
そう言うと梨理はメニューの一番高いのステーキを指さす。
それからアジトと筵もメニューを決めてそれぞれ注文した。
「それにしても梨理ちゃん?見た目はそっくりにしろアジトを家に連れて帰って両親の反応はどうだったの?」
「ああそれか?父さんの隠し子だと疑われて人悶着あったけど大丈夫だったぜ?」
「うん、それは大丈夫とは言わないと思う」
おそらく昨日、長い歴史を持つ天喰神社は、神主である梨理の父親、天喰獅子の不倫というあらぬ疑いで、存続の危機を迎えていたのだろう。
筵がそんなことを考えていると少し遠くの席で言い争っている、というか一方的に絡んでいる様な声が聞こえてきた。
そちらを見ると12歳から14歳ほどの男女4人のグループに酒瓶を持って酔った様子の中年の男が絡んでいた。
「てめぇら、さっきからうるさいんだよ。他の客の迷惑も考えろ!!」
中年の男は男女のグループを怒鳴りつけた。
確かに、先程からそのグループの声が少しうるさいということは筵たちも感じてはいた。
男女のグループは大きな声で喋っていた事に関しては反省して、いちを中年の男に対して、気持ちがこもっているか、いないのか微妙な位の謝りを入れた。
「はあ?全然気持ちがこもってねえな!!それに謝んのは俺にだけじゃねえだろ?一人一人に謝って回れ!」
中年の男は男女のグループの机を勢いよく叩きながら再び怒鳴りつけた。
いつの間にかその騒動は店員も巻き込んで収集がつかない状況になっていた。
それを横目で見ていたアジトは苦笑いを浮かべる。
「うわぁ、ああいう人って本当に居るんだ」
「時々いるよな、正論を言っているから何言ってもいいって思っている奴。アジトちょっと待ってろ、あたしが取っちめて来てやる」
梨理はアジトの好感度を勝ち取るため、立ち上がろうとする。
すると、筵は"はあ"とため息を着くと梨理が立ち上がろうとするのを止め、少し大きめの声、具体的には騒動の渦中の中年に聞こえるくらいの声で梨理たちに向けて話し始める。
「正論を振りかざした性悪っていうのは何処にでも居るんだよ。言っていることが正しくても、それを言っている人の心が正しくないなんてよくある話だね。そういう人は結局、絶対的に有利な立場から人のことを罵りたいだけなんだよ。人を叩く目的で正論振りかざすのは、人を轢き殺すために車を運転するようなものだと言うのにね」
筵の少し大きめの声はファミレス全体に響き渡り、ファミレス全体がしんとする。
そして筵の挑発にも似た、言葉を耳にした中年男性は、怒りの矛先を男女のグループから筵に変えて、筵たちの席の前まで千鳥足で近づいてくる。
「おい、てめぇ?なんか文句あんのか、俺はお前らの為に言ってやったんだぞ?」
「それはすみません。しかし、言いたいことくらい自分で言えるので大丈夫です。どうぞ席にお戻りください」
筵の更なる挑発に、酔っている顔をさらに赤くすると持っていた酒瓶を振りかぶり筵に向かって殴りかかろうとする。
筵は殴られることが分かったが、自分の能力故にあまり焦らずに、腕で受けようと片腕を構えた。
その瞬間、筵の前にアジトが飛びたして、筵がしようとしていたのと同様に酒瓶を腕で受ける。
すると酒瓶がアジトの腕に当たった瞬間、硝子の筈の酒瓶がまるで薄い氷であるかのように粉々に砕け散った。
「もう危ないことしたらダメでしょ?」
筵は騒動が一段落した後、危険な行動をしたアジトを優しく叱りつける。
「おい筵助けてもらっておいて、何だその態度は」
梨理はアジトに抱きつきつつ筵に対して、遺憾の意を表明する。
「うん、確にそれもそうだね。アジト助けてくれてありがとう。・・・でもね、流石の僕もヒヤッとしたよ。心臓が止まって死んでしまうかと思ったよ?・・・・・・それでさっきのが君の能力なのかい?」
「ああ、俺の能力、恒久耐久実験はモノの耐久力を操る能力で、自分の触れているモノの耐久を、自由に操作できる。さっきのは酒瓶の耐久力を極限まで低くして脆くしたんだ」
能力について説明したアジトは話を続ける。
「それと俺もごめん。父さんの能力は知っているのについ体が動いてしまって」
アジトは申し訳なさそうに謝罪する。
そんなアジトの様子を見た筵は小さくほくそ笑み、何かいい事を言うために口を開こうとする。
「ホントに優しい子に育って、あたしはうれしいぞ〜」
梨理はさらに強くアジトに抱きつきながら言った。
筵のいいセリフは一人の親バカによって阻止され、この後二度と言うチャンスは訪れなかった。