トリプル(ブッキング)デートで休日を 2
「ところで安住ちゃん、なにかやりたい事はあるかい?」
筵は喫茶店を出て適当に道を歩きながら、安住に訪ねる。
まだ半壊している学園のある街とは違い、待ち合わせしたこの街では周りにゲームセンターやボウリング場など様々存在していた。
「ボウリングとかスポーツとか、ゲームとかは嫌いですね」
「へえ、苦手なの?」
「いや、そうではなく私の能力はそういうのを詰まらなくしてしまう能力でして・・・」
安住は少し哀しそうな顔で言った後、辺りを見渡して道にポイ捨てされている空き缶を手に取る。
そして、20m程遠くにあるゴミ箱に向けて空き缶を投げた。そのゴミ箱は空き缶が一個分入る穴が空いているタイプで、尚且つ、安住の投げた位置からは斜めになっていて普通に考えたら入るわけがなかった。
しかし、空き缶は吸い込まれるようにゴミ箱の穴に向かって行って見事にカップインした。
「これが私の能力、絶対正解です。すべての物事に対して無慈悲な正解を出して、それを実行するまでの一連の流れを作り出します」
そういうと安住は再びうつむく。
きっと友達同士では能力故に、勝負事を避けてきたのだろう。
能力を使わないと自分で決めていても他人にとって、能力を使ったのかどうかなんて分らない。
するとれん子はそっと安住の肩を叩いた。
「そういうことなら、今日これからしようよ。これでも私たちは安住の両親みたいだからね」
れん子は安住にほほ笑みかけると、筵も逆の肩を叩いた。
「そうだね。子供なんだからもっと甘えていいんじゃないかな?」
「・・・はい、では、お言葉に甘えて」
高校生の時の両親に囲まれた安住は嬉しそうな顔で微笑んだ。
「いやあ、そんなに喜んでもらえるなんて、未来の僕は相当ダメな親みたいだね」
「ダメとかじゃなくて、パパは仕事が忙しいから・・・」
安住は必死に手を振って否定する。
「筵が仕事で忙しいとか世も末だね」
「ああ、僕もそう思うよ」
筵はれん子の問いかけに対して同調しつつ、ボウリングやゲームセンターの入っている複合施設に入っていった。
「楽しかったかな、安住ちゃん?」
「・・・ええ、まあ」
筵、れん子、安住の3人はボウリングを終えて同じ施設の階の違う場所にあるゲームセンターに向かっていた。
絶対正解を使用しなかった安住の成績は、80点位だったが本人はとても満足そうにしていたようだった。
因みに筵もれん子も100点に届くか届かないか位の成績であった。
筵たちはエレベーターを降りてゲームセンターの中に入っていくと、ゲームセンター特有の様々なゲームの音が混ざりあった騒々しいが嫌いになれない、そんな騒音が鳴り響いていた。
「さあ、安住ちゃんどれをする?」
「どれをすると言われましても、私がいた時代のものとは大分違っていてよくわかりません」
未来の世界から来た安住にとって、この時代のゲームセンターには違和感があったのかもしれない。
それを聞いたれん子は腕組みをしながら考え事をする。
「うーん、クイズゲームは物凄いジェネレーションギャップがあるだろうし、音ゲーは初見では難しいだろうから、レースゲームとか?」
れん子はレースゲームの台を指さしながら言った。
れん子のチョイスしたレースゲームは、ほとんどブレーキとアクセル、とハンドリングのみで操作できるゲームでギアなどの要素が無いため子供や素人でも簡単に遊ぶことが出来ることで有名だった。
「良いんじゃないかな、あれなら簡単に出来ると思うよ」
筵はれん子の提案に同意して、同時に安住の方を見た。
「私はよくわからないのでパパたちに任せます」
安住は選択を筵に一任したことにより、レースゲームをする事になった。
筵たちはレースゲームの席に座ると100円を入れ、キャラクターを選択してゲームが開始された。
このゲームはオンラインで世界の同じ時間このゲームをしている人と自動的に対戦する事になっている。
筵達の作った部屋に自動的に全世界の人達が入ってきて、参加上限の16人はあっという間に集まった。
そして筵たちは、その中の一人のスコアがすば抜けているのを発見した。
「これはなかなかのやり込み具合だね」
「これは1位は無理そうかな?」
筵はいつもの半笑いをしていて、れん子も苦笑いをしている。
そんなことを話していると、レーススタートのカウントダウンが始まり、一斉にスタートをきった。
最初の方はミスもなく、皆、団子になりながらレースをしていたのだが、中盤に差し掛かると、あのやり込みプレーヤーが不審な動きを始めた。
違うプレーヤーを邪魔したり、コースアウトさせたりし始めたのである。
「おや、僕もやられてしまったよ」
「私も~」
筵とれん子のキャラクターもそのやり込みプレーヤーによってリタイアさせられてしまった。
筵とれん子はさほど悔しそうにしてはいなかったのだが、2人がやられてしまった状況を見た安住はムッとした表情になっていた。
半数以上がリタイアした状態でレースは後半に差し掛かっていた。今度はやり込みプレーヤーが安住のキャラクターに攻撃を仕掛けていたが、安住はそれを難無くかわした。
筵とれん子がやられた辺りから安住のキャラクターの動きが明らかに良くなっていて、れん子はともかく筵はその動きの理由に気づいていた。
その理由とはもちろん、絶対正解である。
安住は例えゲームであろうとも、尊敬する父親に攻撃を仕掛けた奴が許せなかったのだろう。
今度は安住のキャラクターがやり込みプレーヤーのキャラクターに攻撃を仕掛けると、いとも簡単にそのプレイヤーはコースアウトして、そのまま安住は一位でゴールしてしまった。
ゲームが終わり、安住は申し訳なさそうな顔で筵の方を見た。
すると筵は優しく安住の頭を撫でる。
「その顔が、僕やれん子ちゃんに対してのものなら、後ろめたさを感じる必要は無いよ。でも自分自身がやって後悔しているのならこれからはしちゃダメだよ?今回はどっちかな?」
「・・・前者です」
その安住の言葉を聞いた筵は、再び優しく笑いかける。
「それならよし。いいかい自分の能力は何時でも自分の為に使っていいんだよ。だけど使ってしまったことで自分が後悔しないように気をつけようね」
「・・・はい」
筵の言葉に安住は小さく頷いた。
「へえ〜、筵、お父さんみたいだね」
「そうさ、なぜなら僕はきっと安住ちゃんの父親その者だからね」
筵は半笑いで言うと、一行はレースゲームの近くを離れてゲームセンターの奥に入っていき、それからしばらく違うゲームなどで遊んだ。
そうしていると時刻は正午近くになり、梨理との約束の時間が近づいて来たため、筵は次の約束の地へと向かっていった。