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訪問者たちと平常授業 4

 「ところで(むしろ)兄、お子さんはどうしたんですか?」


 「ああ、彼女らなら、れん子ちゃんたちがそれぞれの子供を預かってくれてるよ」 


 食事を終えた筵と祭はそれぞれ、さっきと同じ位置に腰掛けていた。そして憩は自分の部屋に戻り、栖は夕飯の片付けをしている。


 「じゃあそろそろ、僕の子供たちを連れてきた理由を教えてくれないかな」


 筵は祭に対していつもの半笑いで質問する。


 「ああ、それですか。それは御自分の胸に聞いてみてください。・・・何せ筵兄に頼まれたのですから、私は理由とか知りません。ただこの時期にご自分の子供が未来から来たから、歴史変えないために送ったのかも知れませんし、ほかの理由があるのかも知れません」


 「そういうことか、最初に意味あり気な事を言うから僕が悪いことしたのかと思ったよ。未来の僕が言ったんだったら、今の僕の胸に聞いても何も答えてはくれないでしょう?」


 「筵兄ならあるいわと思ったんですが。・・・はあ」


 「物凄い高評価から普通までの落差でガッカリするの辞めてくれないかな、普通は分からないよ?」


 ガッカリという感じの表情をする祭に対して、半笑いの表情を変えずに筵が答える。

 

 「あぁ、でもそろそろ第七の魔王型ハーベストが出現する予定なのでそれに関係あるのかも知れませんね。なにせ母さんは妊娠されて()られますから」

 

 「また、すごいネタバレだね?でも母さんなら、どんな状態でも余裕だと思うけど?」


 「ええ、そうでしょう。しかし、この世界は以外とクリーンで妊娠中の者に無理はさせない様なんですよ。資料を見た所、第七の魔王型ハーベストを倒したのは・・・んー、流石に言うのは辞めておきますか」


 祭は誰が魔王型ハーベストを倒したのか言うのを渋ったが、筵にはおおよその検討がついていた。


 そもそも魔王型ハーベストとはこの世界に攻めてきたハーベストの中で特に強い者達の総称で、その魔王型ハーベストが出現する度に人類は存続の危機にさらされていた。


 最初の魔王型ハーベストは、人類の4割、次の魔王型ハーベストでは2割という人間を死に追いやった。


 それから魔王型ハーベストの対処に慣れ、だんだんと犠牲者は減っていくのだが第五、第六の魔王型ハーベスト戦では異常な数値が示される。


 "犠牲者0人"


 これは魔王型ハーベストが弱くなったなどの理由ではない。それどころか第六の魔王型ハーベストは今までのどの魔王型よりも強いと言われていた。


 理由はもう分かると思うが、この頃から本田(ほんでん)(すみか)が戦いに参加し始めたのだ。


 栖という最強の能力者の存在により、魔王型ハーベストは人類最大の驚異から、普通のハーベストの出現とそこまで変わらない扱いになっていた。


 「未来から子供を贈られて、その上、魔王型ハーベストが出現して不幸な事ばかり起こるね。僕は不幸系では無いはずだけど」


 筵のその言葉を聞いた祭は、少しドヤ顔になり、わざとらしく咳払いをしてみせる。


 「こほん、いいですか筵兄、"幸福とは新たな不幸をもたらすものであり、不幸とは小さな幸福を気付かせるものである。私たちの感じる小さな幸福を裕福な人間は幸福に感じるのだろうか、感じないとしたらそれは不幸なことではないのか?"だよ」


 「だよ、じゃないよ。なんだいそれはどこかの偉人の言葉かい?」


 「うん、それも未来の偉人だよ〜。私が来た未来よりもさらに遠い未来のね」


 「もし、タイムパトロールとかが居たら、きっと未来著作権法違反とかに引っかかるような所業だね」


 「タイムマシンは未来永劫この星ではつくられる予定はないから大丈夫。だから時を超えることが出来るのは後にも先にも私だけ」


 祭はドヤ顔のまま宣言する。祭と同じような能力の者がいたらほかの人も時を越えることは出来るのだが、まあそんなにぶっ飛んだ能力者は二人は居ないだろう。


 筵は少し考えた後、次の質問をぶつける。


 「未来ってどんなところなのかな?君が来た未来よりさらに遠い方の」


 「ああ、科学はかなり発展しますね。けど人間は全然変わりません。進化もしません。差別も格差も争いも無くなりません」


 「へぇ、まあそうだろうね」


 「"差別は自然の掟なのだから人間が動物である以上、無くならない。動物を越えてしまうという罪と差別を黙認する罪ではどちらが重いのだろうか?"これもまた未来の科学者の言葉です」


 「・・・いい言葉だね」


 「私もそう思います。やはり筵兄と私は似てますね。・・・それでは私はそろそろ帰るとします」


 そう言うと祭は少し名残惜しそうに自身の少し奇抜な腕時計を確認し、ソファから立ち上がった。


 「今回は一体何しに来たんだい?」


 「個人的に筵兄がどんな反応をしたのか急に気になりだしましてね。1ヶ月後の今、こうして馳せ参じました」


 「それはそれは、いい反応を見れたかい?」


 「ええ、筵兄があんなに焦っているのは始めてみました」

 

 筵はそこまで焦った様子を祭に見せていなかったが、それでも祭の知っている筵とは少しギャップがあったのだろう。


 「筵兄から見たら、またすぐに私に会うことになると思いますが、それは多分、今の私よりも昔の私なので、取り敢えずさよならを言わせてください」


 「何だか分からないけど悲しいね」


 「はい、悲しいんですよ時を越えるって言うのは」


 「また、いつでも来ていいよ。祭ちゃんとは話が合いそうだからね」


 「では、お言葉に甘えて」


 そういうと祭は無表情の顔で小さくほくそ笑んだ。


 すると突然"ガチャリ"と家のドアが勢い良く開き、廊下を走りながらリビングに向ってくる足音が聞こえてきた。


 「おや、(やぐら)姉が帰ってきたようですね。では私は殺されない内に帰りますね。それでは」


 祭は自身の能力で姿を消したその瞬間、リビングのドアも開き楼が飛びこんでくる。


 「おらぁ!!人のお兄様を兄呼ばわりとは、どこのふざけた雌だ!?」


 楼はすごい剣幕と勢いでリビングに入ってきた。もし見ず知らずの女性がこの部屋にいたら即座に能力で串刺しだっただろう。


 楼はリビングを一通り見渡した後、筵の方を見た。


 「お兄様、ここにお兄様を兄呼ばわりする女が居ると、憩から連絡があったのですが?」


 上目遣いで聴いてくる楼に対して、筵は祭の事を隠し事なく話した。すると楼は二つ返事でそれを信じてしまい、納得したように内に秘めた怒りのような感情を治める。


 未来から来た妹、なんてものをすぐに信じてしまうあたり、楼の筵に対する狂信ぷりは健在であった。




 「お兄様、折角なので一緒にお風呂に入りませんか?」


 楼は筵の腕にしがみつきながら、再び上目遣いで聞いてくる。


 それを聞いた筵は半笑いのまま楼の頭を撫でた。


 「一緒には入らないよ。もし入って来たら嫌いになっちゃうからね」

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