訪問者たちと平常授業 2
筵がZクラスに入ると三人の少女が筵よりも先には登校していた。
それは二人の見知った少女と一人の見知らぬ少女だった。
「筵先輩えらいことになりましたよ」
見知った二人の少女のうちの一人、おさげ髪の少女、鈍空淵が筵のもとに駆け寄ってくる。
いつも落ち着いている淵が今日はいつに無く焦っている感じであった。
すると、もう一人の顔見知り、瓶底眼鏡をかけた少女、四ノ宮れん子が説明を始める。
「この子、私の娘みたいなんだよね。なんか未来から来たんだって」
れん子は見知らぬ少女の頭を撫でながら言った。
本来ならそんな事を直ぐには信じないだろうが、筵にはこの案件に関する心当たりがあった。それもほんの十分ほど前に。
おそらくこの子が祭の言った贈り物なのだろう。
筵は見知らぬ少女をよく観察する。その少女は12歳ほどでお洒落なピンクの眼鏡と漆黒の黒髪を持っていて、嫌な予感しか感じなかった。
そして、淵もその少女が未来から来たという言葉には半信半疑なものの、その少女の容姿から筵と同じ感想を抱いていた。
「この子、未来から来たとか言ってますけど、本当なのか嘘発見機を内蔵してるその耳で聞いて見てください」
「淵ちゃん、残念ながらこの子が言っていることは本当だと思う。僕はついさっきこの子を未来から連れてきた犯人に会っ・・・てしまったよ」
「そんなの信じられません。そんなタイムマシンみたいなもの有り得ません」
「本田家の三女で、まだ産まれてない僕の妹って名乗ってたよ」
「納得しました。この子の言ってることは本当のようですね」
淵は筵の説明を聞くと、すぐに未来から来たという話に納得する。
本田栖という人物の遺伝子の優秀さは楼や憩を見れば確定的に明らかで、その中には時間を超えることが出来る者がいてもおかしくないと淵は考えたのだろう。
「祭ちゃん、とんでもないのを届けてくれたね」
筵も流石に焦ったのか困ったような声で独り言を呟く。
そこから少しの静寂が訪れる、筵以外の者にとってそれはただの静寂だったが筵にとっては地獄のような時間だった。
するとZクラスのドアが音を立てて、行き良いよく開いた。
「みんなおはよう」
長い黒髪と幼児体型の黒猫を思わせる少女、筒崎譜緒流手がそこに立っていた。
何にせよ筵は静寂を打ち破ってくれた譜緒流手に感謝した。譜緒流手の手に引かれている、これまた知らない少女を見るまでは。
譜緒流手の手に引かれていたのは、12歳ほどの長い黒髪と幼児体型、そして腐った目を持つ少女であった。
その容姿は正しくあれであった。
「いやあ、この子オレの娘なんだって、未来から来たらしい」
譜緒流手は自分の頭を触りながら筵たちに笑顔を向ける。
譜緒流手のその嬉しそうな顔を見た淵は、筵にゴミを見るような視線を向けた。
「淵ちゃん、なんだいその目は、まだ僕が犯人と決まったわけでは無いでしょう?証拠を提示してもらわないと」
「証拠って最早、あの子達を見れば分かるでしょう?DNA鑑定するまでも無いですよ。どうしたらあんな二人の容姿を足して二で割ったような子供が出来るんですか?」
「いや!1パーセントでも確率がある限り僕はそれを信じる」
「筵先輩が無実の確率低いですね!?潔いいのか往生際が悪いのかどっちなんですか?」
「往生しても往生際が悪い、それが僕の能力であり僕自身を現した言葉と言っても差し支えがないからね」
筵の言葉に淵はため息を漏らす。
「はあ、でもあちらの先輩方はどうして、未来から来たなんて話を何の疑いもなく信じてるんですかね?」
「子供の言ったことを無条件で信じてあげる、きっとそれが母の愛なんだよ」
「父親はどうするんですか?」
「えっ?何か言ったかい、淵ちゃん?」
「最低なところで主人公性発揮しないでください」
筵と淵が少し小声で会話をしていると、先程のデシャブの様に再び行き良いよく教室のドアが開けられた。
そこには鋭い目と歯を持つ凛々しい見た目の少女、天喰梨理が立っていた。誰かを肩車しながら。
肩車している人の顔は見えなかったものの、もう大体予想はついていた。
梨理は少ししゃがんでこの子がドアの上の部分に当たらないように配慮して教室内に入ってくる。
梨理が肩車していたのは、やはり例の通り、鋭い目と歯を持った黒髪の少年で、梨理と誰かさんを足して二で割ったような容姿であった。
「まだ、分からないからね。君たちちょっとそこ座って」
筵は教卓に立ち、教卓の前の机に12歳ほどの少年少女を着席させ、その隣にそれぞれの母親を付けた。
そして淵は筵の横に立っている配置となった。
すると、れん子の娘と思わしき子が手を挙げる。
「パパ、何でこんなことしてるの?」
れん子の娘の言葉を聞いた淵は筵の方を見る。
「今、この子普通にパパって言いましたよね。会議終了ですよね」
淵がジト目で筵の方を見ながら言ったが筵がそれに答えるより先にれん子、譜緒流手、梨理がざわざわとし始めた。
「えっ、えぇ?どいうこと?」
「まさか、うちの子もそうなの?」
「よく見たら・・・いやそんな事ありえねえぜ」
三人とも誰との子供なのかとかは全く考えていなかったのか急に慌てだした。
「みんな、まだ分からないからね。未来ではパパの意味合いが違うのかもしれないし、もしかしたら未来の僕が見ず知らずのこの子にお金を渡してパパと呼ばせているのかも」
「いやそっちの方だめでしょ!?というか少なくともれん子先輩の娘は確定してるんですから見ず知らずでは無いでしょう?」
必死で言い訳する筵に淵が突っ込む。すると今度は譜緒流手の娘が発言する。
「そんな分けないでしょお父?馬鹿なの?」
譜緒流手の娘は気だるそうに肘をつきながら言った。
「でも父さんが焦っているなんて珍しいな」
今度は梨理の息子が他の子供たちに向かって言ったが他の子たちがそれを無視し咳払いをした。すると梨理の息子はハッとした様に前を向き直す。
「そんな事よりも先に名前を聞いた方がいいと思いますが、ごめんね一人づつ名前教えてくれるかな?」
淵がそれぞれの子供たちにお願いすると、れん子の娘、譜緒流手の娘、梨理の息子の順に自己紹介を始めた。
「本田安住です」
「本田愛巣〜」
「本田アジトだ」
自己紹介が終わり、淵は"ありがとう"とそれぞれの子供に言うと筵を、再びゴミを見る目で見た。
「なにか、気づいたことは?」
「・・・・・・ああ分かった、全員名前が"あ"で始まってるね!!」
「違うでしょうが!!苗字ですよ苗字。全員本田家じゃないですか!!」
淵の筵に対する全力のツッコミは教室内から廊下にわたり響き渡り、クラス内に一時の静寂を訪れさせた。
それからしばらく話し合うと、子供たちの説明からそれぞれ違う、言わばパラレルワールドから来たということが証言され、ひとまず騒ぎは収まり、子供同伴ではあるものの何とか今日も平常授業に勤しむことが出来たのだった。