訪問者たちと平常授業 1
数日間に渡るボランティア生活を終えた学園の生徒達は、Zクラスと同様に平常授業に勤しんでいた。
まだ家や建物は崩壊しているところはあるものの、道路や交通機関は完全に回復していて普段通りとは行かないが、街の住人は仕事や学校に通えるようになっていた。
季節は10月の後半、いよいよもって肌寒くなり、厚着をする人も段々と増えていて寒がりな者はすでにコートを着ているほどであった。
早朝、学園の近くのごく普通の一軒家から出てきた、黒髪、中肉中背の腐った目をした男子高校生、本田筵は学園に登校するために家を後にしていた。
ごく普通の一軒家であったはずの本田家も、ハーベストの襲撃で周りの家が被害を受けている中、一軒だけ無傷の状態で残っているこの状況では異彩を放っていて、ようやく世界最強の能力者が住んでいる感が出ていた。
筵はそんな事を考えながら、学園に向かってしばらく歩いていると本田家程ではないものの、多少の倒壊で済んでいる家とその家をのぞき込んでいる少女を発見する。
本来、筵はこのような事は完全にスルーしてフラグをへし折るのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
その少女は深淵の様な黒目、漆黒の黒髪で驚くほど大きなアホ毛を持ったダウナー系で他人とは思えない程の親近感があった。
「ああ、君?その家に何か用事とか?」
筵がその少女に声を掛けると、少女は家をのぞき込んだままの態勢でその質問に答える。
「この家ではなく、本田さん家を探しています。きっとこんな惨状でも倒壊していないのが本田さん家の筈なので」
「家ならこの道を真っ直ぐ行ったところだけど?」
筵が少女にその事実を伝えると少女は驚き筵の方を見る。
「なんと筵兄でしたか!?まさか出会ってしまうとは」
「もしかして本田家の本家の人かな?でも確か、父さんと母さんが従兄弟同士で結婚するにあたって本家からは勘当されて、それ以来連絡とってないって言ってたけど?写真とかで知ってた的な感じ?」
筵は他人とは思えなかったその少女を、本田家の本家の人であると確信して訪ねた。
ちなみに筵の母親である栖は本家の人間で、父親の根城は分家の人間であり、栖が分家の本田家に嫁いだ事で苗字が本田に変わっている。
「違いますよ筵兄。私は本田家三女、本田祭ですよ!!」
本田家の三女と名乗るその少女は腰に手を当てて堂々とした様子だった。
嘘に敏感な筵だったが、祭が嘘をついているようには思えず、しばしの間、あごに手を当てて考え事をする。
それを見た祭は自身の能力を発動させて、一瞬にして姿を消し1秒程たって再び姿を現すと服がさっきまでの私服ではなく、学園の中等部の制服に変わっていた。
「信じてもらえないかもしれないけど、私、中学三年の本田祭です」
祭はスクールバッグを肩にかけ直しながら、どや顔混じりに筵の顔を見上げる。
「いやいや、国民的アニメの名シーンみたいに言われても知らないものは知らないからね?そもそも一度も合ったことないし」
「・・・そうですか」
祭は少しガッカリすると再び消えて、また私服の状態で姿を現した。
「でも、その能力は母さんの遺伝子をしっかり受け継いでいそうだね?」
「ええ、この能力、第四軸瞬間移動は好きな時間の好きな場所に瞬間移動出来る能力です。それによってこの時代に来ました。最初は今日の時点から数えて2日後に筵兄にあったんですけど"一昨日来やがれ"と言われましてね」
「うん、それは嘘だよね?アメリカンジョークの奴だよね」
「やはりバレましたか。筵兄には嘘がつけませんね」
「それは誰でも分かると思うよ。・・・それで何の為に未来から来たの?」
筵の言葉を聞いた祭は驚きといった表情を見せる。こんなに早く未来から来たことを信じてくれるとは思わなかったのだろう。
「え〜っと、メインの理由とサブの理由がありますがどちらから聞きたいですか?」
「そうだね。取り敢えずメインの方から聞こうかな」
「なるほど、筵兄は好きなものは最初に食べる派ですか?いいでしょう。メインの目的は、筵兄にお届けモノがあったんです。それはまたあとで届くようにしておいたので楽しみにしていてください」
そう言って意味深な笑みを浮かる祭ら続いてサブの理由を語り始める。
「サブの方は産まれたばかりの傘下兄を見に来たんです。ちょうどこの年に産まれた筈ですからね」
祭の発言に一瞬の黙り込む筵。そして、その微妙な筵の様子に祭は首を傾げる。
「祭ちゃん。恐らく僕の弟に当たるであろうその子はまだ母さんのお腹の中だよ」
「あちゃー、そうでしたか、私やっちゃいましたね」
あまりやっちゃった感のない様子で小さく笑う祭。
「まあ、いいか切り替えて行こう・・・と言うことで私は折角なので傘下兄が産まれた日に行って”猿みたい”というコメントを残してから帰ります。それでは贈り物・・・大事にしてくださいね」
祭はそう言い残すと能力で一瞬にして姿を消してしまう。
残された筵はため息をもらし、少し嫌な予感はするものの、仕方無しに学校へと向かう第1歩を踏み出した。