復興都市で平常授業
刀牙によって敗北に近い感情を与えられてしまった筵は、少し複雑な気持ちを心に抱きながら楼の元に戻った。
「いやー、試合に負けて、勝負にも負けて、その上、格でも負けた感じだったよ。惨敗ってやつだね。それでも悔い改めはしないけど」
筵がいつもの半笑いで言った。すると楼は苦虫をかみ潰したような顔をする。
「・・・私は、私だけは、どんな時でもお兄様の味方ですから」
筵は自分の代わりに悔しそうな顔をしてくれている楼の頭を軽く撫でると、近くに居たかぐやに声を掛ける。
「さっきも言った通り、あと十数時間で増援が来ると思うから頑張ってね。僕達はもう一度あの島に帰って、何事も無かったように寝床に入らないといけないからね。いわばこれは夢遊病だね」
「とてもアグレッシブで迷惑な夢遊病ね」
「おいおい、僕に対しては言っていいけど、楼ちゃんには駄目でしょ?楼ちゃんがあのハーベストを倒したんだよ?」
筵の言葉にかぐやは複雑な顔をしたものの、確かに楼が居なければ全員が無事でいられた保証は無い。そのためかぐやはしぶしぶ楼に対して感謝の言葉を口にする。
「まあ、あ、ありがとう・・・」
「貴女に感謝されても嬉しくありません。キモイだけです。・・・さあ、お兄様、こんなの無視して帰りましょう」
楼は感謝を口にするかぐやを鼻で笑ったあと、かぐやに背を向けながら、筵の手を引き何処かへと向かった。
そんな二人の後方では、しばらくかぐやの抗議の声が聞こえていた。
数日後、学園のある街は凄まじい速度で復興が進められていた。
あれから筵たちが島に戻り少したつと、AからFクラスのホテルがある町の方で結界が崩壊している事が話題になっていた。よって急遽、全員が招集され、上のクラスから順に飛行機に乗り、刀牙たちの増援に行くこととなった。
いつもの通りZクラスは一番最後の飛行機で帰ることとなり、学園のある街についた頃には襲撃も収まっていた。
そして現在、学園の生徒達は瓦礫撤去のボランティアに強制参加させられていた。それは平常授業の一環であるためZクラスも、もちろんその例外では無かった。
10月とはいえ、いい秋晴れといい運動のせいで、南の島ほどではないにしろ、全員が少しの暑さを感じていた。
「僕、ボランティアや募金って嫌いなんだよね」
筵は眩しい秋の日差しを見ながら呟く。
「凄いところに切り込むね。もしネット上で呟いてたら炎上してたよ」
筵の近くで同じく瓦礫撤去をしていた譜緒流手が苦笑いを浮かべる。
「いや嫌いと言うか、ボランティアや募金をしていい事した気になっている奴が嫌い。それだったら面接で言うためだけに数回ボランティアをする大学生や自分のステータスになるから募金をする海外のセレブの方が好感が持てるね」
「要するに無償で何かする人の気持ちが分からないってだけでしょ?もしくは信用出来ない」
「僕は正直な人間が好きなんだよ。ボランティアが好きなんじゃなくて人の為に無償でいい事をしている優越感に浸れるのが好きって素直に言って欲しいね。ただボランティアや募金自体は全く、完全に、100%の確率で悪いものでは無いし、そういう人がいないと成り立たないから良いんだけどね」
「やらない人より、どんな理由であれ、やった人の方がいいってやつか?お年寄りに席譲る問題とかの?」
「その通り、ただ汗をかいて必死に仕事をしていると、ほんの一瞬、その刹那、僕みたいな奴でもやりがいを感じる事があるから・・・ゾッとするよね」
「いや、ゾッとするのかい。そこは自分の内にいた善人に驚きながらも少しホッコリしろよ」
譜緒流手が苦笑いでツッコミを入れると、そこの近くをれん子と梨理が通りかかった。
するとホッコリと言う単語だけ聞き取ったのか、梨理は瓦礫を指さす。
「ほら筵、瓦礫の中でも懸命に生きている野花だぞ。ホッコリするだろ。ついでにあたしは全くしない」
梨理の指さした先には一輪の野花が瓦礫と瓦礫の間に出来た隙間に咲いていた。
「私は好きだけどな、こういうの」
梨理と一緒に歩いていたれん子も足を止めてしゃがみこみ花を見つめる。
「れん子ちゃんは感受性が豊かだからね。きっと肉食動物と草食動物の友情とか、全く知らない高校球児たちの苦労秘話とかを見てもホッコリするんだろうね」
「するする、よくわかったね」
筵の問いにれん子は当たり前であるかのように答える。すると梨理も筵に続いてれん子に質問する。
「瓦礫の中の花とか、戦場のピア二ストとか、届くはずの無かった手紙とか、光無き深海の光とか言葉だけで感動するんじゃねーの?」
「いや、確かに感動ちゃうかもだけど・・・というか最後のチョウチンアンコウだよね?近づいたらバクっと行かれるよね?」
そのような下らない話をしながら作業をしているとやがて時間は過ぎて解散の時間となった。
作業の進み具合的には、あと3日くらいで作業が終わると予測されていて、暫くは強制ボランティア生活が続きそうであった。