崩壊都市で・・・ 3
筵と刀牙はかぐやたちから死角になっている場所へと移動し、1mほど離れた場所でお互いに向かい合った。
「日室くん、君に言いたいことは沢山あるけれど、まずは僕の妹、憩ちゃんについて聞きたい。君は憩ちゃんをどういう存在として見ているんだい?」
筵はいつもの半笑いで刀牙の方を真っ直ぐに見ながらたずねる。
憩が筵の妹である事は刀牙も知っているため、動揺せずに筵の質問に答えていく。
「□□□□□□□」
「守るべき存在かい?まだ出会って間も無い子のことをどうしてそんなに思えんだい?」
「□□□□□□□」
「大切なのは時間ではないか、じゃあ何を持って守りたいと思うのかな、顔かい?性格かい?それとも境遇かな?まさか何となくとか言うんじゃないよね?」
筵の指摘に刀牙は言葉を詰まらせる、それに構わず筵は言葉を続ける。
「まあ理由は何だっていいと思っているよ。ただその人のためにどこまで出来るかが問題なんだ。僕は無限の命を持っているから、その無限の中から何個かは人のために使ってもいいと思っている。要約すると僕は守るべき者のことを命を掛けて守ることが出来る。じゃあ、君はどうかな?もちろん君に僕と同じく命をかけてでも守れとは言わない、なにせ君には選ばれし英雄に相応しい力がある、その力があれば一々命をかける必要なんて無いと思う。ただ近くに居ないと守るべき者を守れないよね?」
この時、筵は刀牙がリマを追って天使型ハーベストの世界へ行ってしまったことと、島で刀牙たちと一緒に行動していた憩を置いていったことを考えていた。
しかし、筵の過保護過ぎるやり方は、裏を返せば守る対象を対等な存在と考えていない、仲間として信じる事をしないという事でもあった。
「□□□□□□□□□」
「戦場に連れていく方が危ないか・・・食料の奪い合いを起こしかねないあの島も充分に危ない気もするけれど、まあ兄である僕の元に送るのがいいと考えたのは間違った判断では無いと思うよ。そうやって君は今までも正解を出し続けて貪欲にも世界と仲間をすべて救ってきたんだろうね。・・・でもだからこそ、もしもの話をしよう」
筵は自身の首にかかっていた奇妙な形のネックレスを取って刀牙に見せる。
「これは裏口輪廻、百人の命と引換に1人の人間をあらゆる状態から回復させることが出来る。もちろん死人すらも蘇る。もし君が居ながら、憩ちゃんや藤居さんが死ぬ事があったらこれを君に貸す。だから君がその手で百人の命を集めるんだ。その位の覚悟はしていてもらわないと困る。そうでなければ、君の歩む正しき茨の道を認めることは出来ない」
様々な苦難に直面し、多くのピンチを経験しながらも、それら全てを乗り越えて来た日室刀牙という英雄は、恐らくこれからも同じ様に全てを救って行くのだろう。
全てを守る男と守るべき者のみを守る男。二人の相反する生き方をする最上位と最下位は己の正義を貫いている面で一緒だった。
しかしお互いの正義は、けして相容れない。
二人はけしてお互いのやり方を認めないだろう。筵が刀牙のやり方に疑問を持っている様に逆もまた同様であった。
暫しの沈黙の後、決意を固めた表情の刀牙が筵に対して啖呵をきる。
「□□□□□□□□□□」
刀牙の堂々とした言葉に筵は根拠の無い安心感を覚えてしまった。それは同じ男としては嫉妬心と劣等感を覚えざるをえない程のものであった。
「必要無いか。確かに君には不要かも知れないね。・・・なるほど・・・では僕は、いつまでも世界が、君を中心に回り続けることを祈っているよ」
刀牙に対して背を向けた筵は、そんな捨て台詞を残して、その場を去ろうとする。
刀牙は筵の、普段よりも少し小さい後ろ姿に向かって最後に疑問を投げかける。
その疑問を聞いた筵は、一度軽く笑ったあと、顔だけで振り返った。
「いいや何も無い。でも失ってからでは遅い気がするんだ」