結界内で平常授業 5
その日の深夜、筵は楼と共に島の中心に来ていた。
「お兄様の真の力を見せていただけるのですね」
楼は感激と言った感じに目をキラキラと輝かせている。
「緊急にやらなくてはならない事があってね。この結界が邪魔になったんだよ」
筵がそう言うと手の付近に禍々しいオーラが集まり、万年筆の様な形に変わった。この万年筆のおかしな所は上の方が巨大なダニの様な形になっていることだった。
「これは何ですかお兄様?」
「これは魔剣だよ楼ちゃん、民刀 サンスティロ。使用者の血を使うことで能力者の使う能力と同等の事象をおこせる」
筵が説明してサンスティロを構えると巨大なダニの前足が筵の手をガッチリと掴み、口の針の部分で筵の手首を突き刺し血を吸っていく。
ダニの身体がパンパンになるまで膨れ上がると、筵は何やら適当に模様を空中に書き始めた。すると、その模様は空中に留まり続けている。
「この形にはなんの意味も無いよ。必要なのは大量の血とどんな能力を発動させたいかというイメージのみなんだ。この結界を何とかするには後4人分くらいの血が必要だね」
筵の身体からサンスティロが血を一気に吸い尽くすと、筵の身体は光に包まれ再生する。
「お兄様、大丈夫なのですか?」
「ああ、僕の能力を知っているだろ。血なんていくらでも払えるよ」
筵は心配する楼の頭をサンスティロを持っていない方の手で撫でると楼は飼い犬のようにうっとりとした顔をする。
そんな事をやっている内に筵は四人分の血をサンスティロに与え準備は完了していた。
「楼ちゃんあれを」
「はい、どうぞお兄様」
楼は筵に結界を発動させたあのキューブを一つ手渡す。
このキューブは譜緒流手がメイドから奪ったものではなく。筵が7日間徹夜して見つけたものであった。
「しかしお兄様、これで一体何をするのですか?」
「今回の事例に適した能力が有るんだよ」
筵はサンスティロを持っていない方の手にキューブを乗せて、サンスティロの先端をキューブ押し付けた。
「今からやるのは"相関崩し"って言ってね。対象と関連が強いモノに対して辿って攻撃を行うことが出来るんだ。まあ、わかり易く言うとこれを楼ちゃんに使うとすると、楼ちゃんの相関図を辿って僕に攻撃出来るってことなんだ。・・・そしてこのキューブは一つ一つが密接に関係しながら強力な結界を形作っている。つまりこのキューブから島の全てのキューブに同時に攻撃をすることが出来るってことだね」
筵は説明を終えると、筵は目を瞑りキューブの相関を辿り、島の全てのキューブを把握する。
すると空中の血が雲散霧消し夜の空へと溶けていった。それと同時に筵の手の上のキューブが黒い炎に包まれる。
恐らく島の全てのキューブにこれと同じ現象が起こったのだろう。筵の手の上のキューブが燃え尽きる頃には島の真上の魔法陣と、島の周りを覆っていた光の膜は消え去っていた。
楼は辺りの状況を見渡すと筵の方を尊敬の眼差しで見る。
「流石ですお兄様。感服致しました」
「ああ、ありがとう。でもまだ、やらなくてはならない事がある」
筵の言葉に楼は首をかしげる。
「今から、学園まで戻って日室刀牙と話し合わないといけないからね」
「あいつ?ああ、憩を誑かした男ですね。なるほど、では私もお供しますお兄様」
楼は筵の腕に抱きつき言った。
「楼ちゃんが来てくれると正直助かるよ。では行こうか、結界が無くなれば双子の魂石が無くても瞬間移動出来るからね」
筵はそう言うと再びサンスティロを構え、巨大なダニは再び筵の手首に針を刺した。