結界内で平常授業 4
「すまない筵、憩ちゃんをここで預かってくれないか?」
閉じ込められてから7日目のこと、ペストマスクを付けたZクラスの担任教師、納屋蜂鳥は筵の妹である憩を連れて、別荘に訪れていた。
蜂鳥は合宿中は訓練の教官をしていて、結界を張られてからも対応策を考えるなどの仕事があったため、一度、安全確認に来たっきり、この別荘を訪れていなかった。
筵たちは2人を迎え入れると、憩と中学生組、それと高一組を自室に送り、蜂鳥をリビングの席に勧めた。
筵と蜂鳥は対面の席に座り、梨理と譜緒流手はソファーにれん子は筵の隣に座った。
「蜂鳥先生、さっそく憩ちゃんがここに来なければいけなかった理由を教えてください」
筵は半笑いを崩さずに、それでいて目の奥に怖いものを秘めたような雰囲気でたずねる。
蜂鳥は一回深いため息をつくと、ペストマスクを脱ぎ、年齢よりも一回りは若く見える素顔を晒し、事情を語り出した。
「ちょうど昨日、学園のある都市と電話が繋がったんだ。それによると向こうでは私たちが閉じ込められてから、ずっとハーベストの襲撃が続いているらしくてな。学園の生徒、不在中に警備を頼んだ民間の能力者たちも満身創痍の状態とのことで、増援を送ることになったんだ」
蜂鳥の説明を聞いた梨理は座っているソファーの上で前のめりになった。
「ちょっと待ってくれよ、蜂鳥先生。出られる方法なんて無いんじゃなかったのかよ」
「いや方法は最初からあったんだ。理事長の持っている秘宝を使えば何時でも帰れる」
「秘宝ってのは何だ?」
「理事長の持つ秘宝、双子の魂石は一対のイヤリングで片方を持って使うと、もう片方のイヤリングの近くに瞬間移動出来る」
蜂鳥が梨理の質問に答える。すると続いて譜緒流手が首をかしげる。
「憩を預かるのはもちろんいいですけど、さっきの話と憩を預かるの、どう繋がるんですか?」
譜緒流手が不思議そうに聞くと、その質問には蜂鳥の代わりに筵が答えた。
「考えるに、憩ちゃんの面倒を見ていた日室ハーレムの人たちはみんな招集されたんでしょう?何人学園に送れるかは分からないですけど」
「・・・その通りだ筵。送れるのは最大で10人。学友騎士団の中から精鋭を送ったら憩ちゃんの面倒を見ていた者がいなくなってしまったんだ」
筵の予想に対して蜂鳥が答える。すると筵はテーブルに肘をつけ指でこめかみを抑えながら、難しい顔をする。
その筵の表情を見た蜂鳥は申し訳なさそうに下を向く。
「すまない。ただでさえ、Zクラス全員の事を任せているのに、さらに重荷を背負わせてしまった」
「蜂鳥先生、僕はなにも憩ちゃんを養うのが大変だと思っているわけでは無いんですよ?ただ父さんは日室刀牙を信用して憩ちゃんを任せたはずですよね」
筵はため息混じりにそう言うと、続けて最後に付け加えるように誰にも聞こえないくらいの声で呟く。
「・・・・・・本当に一回忠告しておかないといけないかな」
そこにいた全員が、最後の部分を聞き取れなかったが、筵が怒っていると言うことは理解出来た。
「ま、まあ、許してやってくれ。理事長命令で拒否は出来なかったんだ」
蜂鳥は筵の様子に少し驚きながら説得する。
「まあまあ、これで日室刀牙から憩ちゃんを取り戻したと思えばいいんじゃない?」
れん子は椅子から立ち上がると筵の肩を軽く叩く。
れん子の言葉から彼女らに気を遣わせてしまったことに気づいた筵は浅く深呼吸をしいつもの半笑いを取り戻す。
「それもそうだね。これからは二度と悪い虫が付かないようにしなくては」
「そうそう、これからは気をつけろ」
筵とれん子はお互いに笑いながら親指を立てあう。そして、その会話を聞いていた他の者達も安堵したようなため息をもらした。
「ああ、蜂鳥先生。ご飯食べていきますか?」
元気を取り戻した様子の筵は蜂鳥に訪ねる。
「では、頂いていこうかな」
蜂鳥もその言葉に甘えて夕食を共に取ることになった。