結界内で平常授業 3
結界を張られてから3日がたったが状況は改善することが無く、島に閉じ込められて出られない状態が続いていた。
幸い、海や山でも食材をとること出来るので意外と快適に過ごすことが出来ているが、町の方は流石に殺伐とした雰囲気をかもし出していた。
ちなみに筵の父親の根城は、結界が張られる1日前に、違う仕事があるため島を出てしまっている。その際、筵は楼の事を任され、憩は恐らくあの男に任せたのだろう。
連絡をとろうにも、基本的には電波は届かない。
しかし、譜緒流手のお手柄による恩恵なのか、時々、電波がつながる時はある。とは言ってもすぐにまた圏外に戻ってしまう訳なのだが。
そして、あの捕まえていたメイドは本部に引き渡していた。食材が不足している現状、反逆者を引き取ってくれるか不安ではあったが、他のハーベスト信者のメイドは結界を張った時に意識不明になってしまったため、貴重な証人と言うことらしい。
島での暮らしは、楼が大量に取った食材のおかげで、1日三食とは行かないが普通に過ごせる位の蓄えはある。
別荘内でダラダラとしているZクラスの生徒は、イージーモードのサバイバル生活をバカンスの延長として過ごしていた。
「暇だな、筵〜」
譜緒流手はリビングでテーブルに突っ伏しながら話しかける。
時刻は3時過ぎほどで、他の者達は自室に居るとか食べ物を確保しに行っているとかでリビングには筵と譜緒流手のみとなっている。
「そうだね、譜緒流手ちゃん。このまま一ヶ月はさすがに気持ち的にキツイかもね」
筵はこの島の地図に何やらメモを書き入れながら答える。すると譜緒流手は起き上がり筵の方を見る。
「結界を何とかする方法は無いの?」
「それならあのメイドさんが吐いた情報によると、この島の至るところにあるキューブを全て破壊すればいいらしいよ。でも全部破壊しないと意味無いんだってさ」
「で、いまはいくつ見つかってるの?」
「確か、4個くらい」
筵は地図を譜緒流手に見せながら言った。その地図にはキューブの見つかった場所がメモされている。
「何個ある見込み?」
「20個以上は光の柱が出たらしいから少なくとも後、16は有るんじゃない?」
筵の言葉を聞くと譜緒流手は力なく崩れ落ちる。
「全部壊すのと一ヶ月たつのどっちが早いんだこれ?」
「分からないけど、なるべく早く出られるのを祈りたいね」
筵は元気なくテーブルに突っ伏している譜緒流手を元気づけながら窓の外に意識を向ける。
「□□□□□□□□!」
「□□□□□□□□!!」
すると外から何やら言い争っている声が聞こえてきた。
それに気づいた筵と譜緒流手は顔を見合って、別荘から外に出た。
そこでは、D、E、Fクラスの代表の様な奴らがそれぞれ2人づつくらい別荘の前に訪れていて、森から食材を集めてきていた梨理、紅來莉子と言い争っていた。
「あたしらは食料の分配貰ってないんだぜ?これ以上何をどうしろってんだ?」
梨理が呆れたような顔で言うと、Dクラスの生徒が代表して話し出す。
「そもそもそれが、おかしいだろ!何で分配を貰わなくても生活できるんだ。スーパーの食品を取ったのはお前らの仕業じゃないのか!」
「ほらよく見ろよ、森で食材を取ってきてんだよ。海もそこにあるだろ食材ならいくらでもあるはずだぜ?」
梨理はDクラス代表の追求に少しも動じないで答える。
「おいおい筵、あのDクラスのやつ当たってるけど」
「多分、確たる証拠は無いんじゃないかな?僕たちが分配を必要としてないっていうのと、スーパーの商品が無くなったって言うのから考察しただけでしょ」
筵は譜緒流手の疑問に答えながら梨理と紅來莉子の近くまで行く。
「君たち?それで要件は何かな?」
筵はそう言いながら各クラス代表を吟味するように見る。そして梨理は筵が来たのを確認すると、Zクラス側の発言者の枠を筵に譲った。
「お、俺達は上のクラスの奴らに食材を搾取されて、海も占領されてる。それなのにお前らが食材を持ってるのがムカつくんだよ」
「ムカつくからなんなのかな?」
「・・・しょ、食材を返せって言ってんだよ!お前らなんだろ取ったのは?」
Dクラス側の代表は少し戸惑いながら自信無さげに言った。いくら忌み嫌っているZクラス相手とはいえ、命に関わるもを取り上げる事に抵抗があったのだろう。それに筵の思った通り彼らは確たる証拠があって来たわけではなかったようだ。
「返せって何を?魚を海に?キノコを森に?」
「スーパーの食材のことだよ」
「それこそ分からないな、何か証拠はあるのかい?」
「・・・くっ」
筵が証拠の提示を要求すると代表は言葉を失う。
「それに海が占領されてても、森もあるでしょ。こんな感じで取ってくれば良いんじゃない?」
筵が首を傾げながら梨理と紅來莉子が持ってきた食材を指差す。すると譜緒流手が腕を引き耳打ちする。
「奴らは、お前も紅來莉子ちゃんも居ないんだから、どれが食べれるかとか分からないだろ、特に南の島は毒があるの多いし。毒見も命懸けなんだよきっと」
「ああ、なるほどね」
筵は譜緒流手に"ありがとう"と言うと再びD、E、Fクラスの代表を見る。
「残念だけど食材はあげられないな。だけどここにいる紅來莉子ちゃんは植物のスペシャリストだから、ここまで食材を持ってくれば鑑定してあげられるよ?いいよね紅來莉子ちゃん?」
筵は紅來莉子の顔を見ながら確認をとる。
「まあ、筵様が言うのならば仕方ありません。ただし一度教えた物は二度と教えませんよ」
紅來莉子はしぶしぶそれに同意する。
「これで文句は無いだろ?それとも力ずくで奪うつもりかい?」
筵の言葉にDクラス代表は悔しそうな顔をする。
恐らくスーパーの犯人は確実にZクラスだと考えていたのだろう、しかし今、機嫌を損ねたら食べれる食材を教えてもらえなくなるかもしれない、そのため、低クラスの代表たちはそれ以上追求できなくなってしまった。
「・・・くっ、分かったそれでいい。お前ら帰るぞ」
D、E、Fクラス代表はそう言うと、とぼとぼと元来た道を戻っていった。