強化合宿で平常授業 6
「やっぱりお二人は人相手には最強ですね」
湖畔はスタンガンを持ったれん子と、少し大きめの石を持った譜緒流手を見ながら言った。
AからFクラスまでのホテルが建ち並ぶ町に来ているれん子チームも、なかなかのメダルを集めていた。
れん子は誰にも気づかれないうちに首元にスタンガンを持っていけるし、譜緒流手は意外と力持ちな上に、敵の攻撃が効かないため一方的に相手をボコボコにすることができる。
「それを言うなら湖畔くんもかなり強いと思うよ。さすが元不良だね」
れん子は町を歩きつつ湖畔に笑いかけると、それを聞いた湖畔は顔を赤らめる。
「もう、れん子先輩やめて下さい。昔のことですから」
そう、湖畔は今は大人しく、可愛らしい顔をしているが中学から入学当時までは不良として名を馳せていた。
Zクラスに入ってから筵と色々あり、更生したのだが、その強さはまだ健在であり、何人かの高クラスの生徒を素手で倒していた。
「いやいや湖畔くん、恥ずかしい事じゃないよ。ギャップ萌えってやつだよこれは、こんな可愛いのに強いなんて」
手を頭の後で組みながら、暇そうに歩いている譜緒流手も湖畔の方を見る。
「そんなんじゃないです、ただの黒歴史ですよ」
湖畔は手で"待って"と言うようなジェスチャーをしながら恥ずかしそうにあたふたとした。
「なんかメイドさんが騒がしくない?」
譜緒流手が行き交っているメイドさんを見ながら呟くと、それを聞いてれん子も、眼鏡を光らせながら周りを見渡す。
「たしかにさっきから急いでるね」
「これ、あれじゃない。メダル隠してるんじゃないの?後をつけてみようよ」
譜緒流手の提案により、メイドさんのあとを追った譜緒流手たちは、案の定、何かを地面に埋めている所を発見した。
しかし、それには少し奇妙な所があった。それに気づいた湖畔疑問を口にする。
「なんだか、穴が深すぎませんか?あれでは誰も見つけられませんよ」
確かに湖畔の言う通り、メイドさんは地面に30センチほどもある穴を掘って、そこに何かを埋めていた。
すると、譜緒流手がれん子の背中を軽く叩く。
「ちょっと、れん子見てきてよ」
「えぇ、またこんな役回り」
れん子は少し抵抗したがいつもの事と諦め、姿を消してメイドさんの元へと向かった。
しばらくして穴を埋め終わったのか、メイドさんはもと来た道を戻って行った。
譜緒流手たちはそれが見えなくなるのを確認すると、れん子のいるであろう穴のあった付近へと向かう。
「れん子どこ?何を埋めてたの?」
譜緒流手が姿を消しているれん子に話しかけると、れん子は急に譜緒流手の隣に姿を表した。
「はいはいここだよ。うーん、口で説明するのが難しいんだけど、例えるなら、ルービックキューブみたいな形のヤツだったよ」
「メダルじゃなくて?」
譜緒流手がれん子に再び質問するとれん子はそれに対して頷く。
「どうしますか?何かを大切なものかも知れませんし、そのままにしますか?」
湖畔がお利口な提案をすると、譜緒流手とれん子が首を横に振る。
「湖畔くん古今東西、地面に埋めるものは如何わしい物か価値がある物って決まってるんだよ」
「如何わしいとかは別として、ルービックキューブの中にメダルが入っているかもだしね」
譜緒流手とれん子はそう言うと、その辺の木の棒で穴を掘り返し始める。一度掘った所なので簡単に30センチ近くまで到達して、ルービックキューブ状の物を回収することができた。
「開きそうに無いですし、何なんですかね?」
湖畔はそのキューブ状の物を見ながら呟く。
それを聞いた譜緒流手も腕を組んで悩んでいる。
「戻した方がいいのか、戻さない方がいいのか。・・・れん子に託す」
「えっ?ええー!!」
譜緒流手はキューブをれん子に無理やり押し付け、それを何の気なしに受け取ってしまったれん子は慌てた様子でオドオドと挙動不審な動きになる。
「おい!そこのお前ら何をしている!」
すると突然、大きな怒鳴り声が響き、れん子たちは一斉に声のした方向を向く。
そこに居たのは、先程ここにキューブを埋めていたメイドさんであり、銃をこちらに向け、すごい剣幕である事から、どうやらそのキューブ状の物はかなり如何わしいものであると推測できた。
そして恐らく、私服のれん子たちを見て能力者では無いと判断し、銃でも応戦できると考えたのだろう。
そのメイドさんを見た瞬間、れん子と湖畔は能力を用いて姿を消した。
「おい、ほかの奴らは何処へ消えた?」
「さあ?でもひとつ分かったよ。さっきのルービックキューブは相当如何わしいものだったんだね」
譜緒流手はそう言うと、メイドに向かって走り出す。するとそれに驚いたメイドは銃を譜緒流手に向けて数発、発砲した。
しかし例の通り、銃弾は譜緒流手の身体を通り抜けていき、譜緒流手は臆することなく、そのまま敵の方へ走っていく。
それにより更に動揺したメイドは、近づいてくる譜緒流手に蹴りを繰り出すが、それも当たり前のようにすり抜けた譜緒流手は、そのすり抜けた足を持ち上あげそのまま突進しメイドを地面に叩きつける。
「ふう。何とか倒したけど、このあとどうしよう」
譜緒流手は立ち上がり気絶しているメイドを見下ろしながら呟いた。