強化合宿で平常授業 5
梨理、淵、カトリーナのチームは海岸沿いを歩きながら、道に落ちているかもしれないメダルを探していた。
「見当たらねーな、もう飽きたぜ」
梨理は海岸沿いの流木に腰掛けながら空を見上げる。
開始から30分、何も見つからないまま、ただただ、海岸沿いを歩いていた梨理たちだったが、ついに飽きが来てしまった。
するとカトリーナも便乗して、梨理の座っている横に腰掛けた。
「うちもギブです」
流木に座り、猫背の状態になったカトリーナはダルそうに海の向こうを遠い目で見つめる。
「おうカトリーナ、このまま終わりまで座ってるか」
「良いですね、あっ、でもゲーム持ってきてないんで1回別荘に帰りませんか?」
「だったらもう、ずっと別荘の中にいるのがベストじゃね?これが"かくれんぼで家に帰っちゃう"作戦だ」
「それ採用しましょう」
梨理とカトリーナが活力のない会話で、誰かのトラウマに引っ掛かりそうな作戦を決行しようとしていると、淵が後ろまで歩いてきて2人を呆れた目で見下ろした。
「お二人共、そんなに頑張らなくてもいいですけど、最初のメダルだけは恥ずかしいですよ」
「安心しろ淵、メダル奪われて0ポイントのやつもいるだろ」
梨理は空を見上げている顔をさらに仰け反らせて淵の方を見る。
すると梨理が砂浜の向こう側、森の中から発せられる光を目撃した。そして、それとほぼ同じタイミングで梨理は淵とカトリーナを両脇に抱えてジャンプした。
森の中の光の正体は火球であったが、いち早く気づいた梨理の機転で難を逃れた。そして、2人を抱えたままの状態の梨理はそのまま森の中へ声をかける。
「おい?誰だ、てめーらは?」
梨理のドスの効いた声がその場に響く。
すると森の中の木々をかき分けて、十数人の男女が姿を現した。制服に刺繍されている紋章を見ると2年のEクラスであるとわかった。
それを見た梨理は失笑する。
「なんだよ束になって?そんな人数であたしらの銀のメダルを狙いに来たのか?残念ながらメダルは1枚しかねーぜ?」
梨理が淵とカトリーナを抱えたまま言い放つ。
「あの、梨理先輩下ろしてください」
「梨理先輩カッコよすぎです」
淵とカトリーナは顔を赤らめながら梨理に下ろすように要求する。
それに対して梨理は2人を抱えている事を忘れていたらしく、2人の言葉で思い出したように2人を解放する。
すると、Eクラス集団のリーダーの男が、少し前に出て梨理たちに向かいあった。
「これも作戦だ。お前たちなど俺一人でも倒せるが、獅子は兎を狩るのにも本気になる。それにこれがあれば、お前など相手にならない」
リーダーの男が耳栓を取りだすと梨理は少し驚いた表情をする。
「おいおい、どうしてそんなの持ってんだ?」
「俺達は最初から狙うヤツを決めてきてるんだよ。これでお前らは手も足も出せないだろ?」
リーダーの男が耳栓をすると他のEクラスの者達もそれにつられて耳栓を装着する。
梨理はその状況を見るとため息をつく。
「淵?お前って何人まで能力を無効化できる?」
「えーっと、5人くらいですかね」
「それで十分だ。お前とカトリーナを狙うヤツはそれで無効化しとけ」
「えっ!梨理先輩は?」
淵が不安そうな顔で梨理の方を見ると、梨理は自信満々な顔で親指を立てて淵にウィンクした。
「梨理先輩、本当に人類ですか?」
「ああ、昔は鬼とか言われてたな」
淵は海岸沿いで倒れている十数人の生徒を見ながら呟く。
そして肝心の梨理はというと、息一つ乱さずに海を見ながら伸びをしてた。
倒れている人からメダルを奪い取っているカトリーナもそんな梨理の後ろ姿に目を向ける。
「たとえEクラスだとしても、この人数の能力者を素手で倒すとか凄すぎですよ」
「そうだな、昔はこの強さと能力のせいでかなり恐れられてたからな。催眠能力持ってる奴とかこえーだけだろ?」
梨理は少し真剣な表情で、昔を思い出している様に物思いにふけっている。
それを見た淵とカトリーナは暗い表情になる。
「あ、あの、すみません。わたし変な事言って・・・」
「ごめんなさい・・・」
梨理に謝りをいれる淵とカトリーナに梨理は笑顔を向けて落ち着けというようなジェスチャーをする。
「たしかに昔は、やさぐれて能力も使いまくりで暴力も振るいまくりだったが、今は違う・・・認めたくねーがあいつに会ってからあたしは変わったんだよ。大切な人にはこの能力はぜってーに使わねー」
梨理はそう言うと淵とカトリーナを近くまで引き寄せて頭を撫でる。2人は照れくさそうにはしているが、それを素直に受け入れる。
まだ午前中の海岸沿いで青春をした梨理たちは、Eクラスのメダルを全て奪うと次のメダルを求めて再び海岸沿いを、歩き出した。