強化合宿で平常授業 2
「筵、お前卑怯だぞ。疲れたら死んでリセットとか」
梨理は綺麗になった別荘のリビングのような場所のソファーに腰掛けながら呟く。
「能力だから仕方ないよ。それに疲れてる君達を後目に遊んだりしないよ」
「そーゆー問題じゃねーよ。あたしたちはヘトヘトなのにお前だけ元気なのが腹立つ」
リビング内を見渡すと筵以外の生徒がぐったりとしている。
外はもう暗くなっていてどちらにしろ、今から海に行けるような状態でも時間帯でもない。
さらにZクラスはこれから食事も自分たちで作らなくては、ならなかった。
よってこれから、AからFクラスのホテルが建ち並んでいる町のような所まで行き、食品を買ってこなければならない。
「じゃあ僕が夕食の買出しに行ってくるから皆は休んでて、ベタにカレーライスでいいのよね?」
筵が財布を持って別荘出ていこうとすると、筵以外の全員は流石に筵に7人分の食品の買出しを任せるのが忍びなくなったのか、顔を見合わせて、息を飲み、じゃんけんを始めた。
「まさか負けてしまうとは、うち明日は筋肉痛ですよ」
「まあまあ」
じゃんけんに負けて、筵に付き合うことになったのはカトリーナと湖畔だった。
筵たちは懐中電灯で海岸沿いを照らしながら、20分ほど歩き、他のクラスのホテルがある町まで着いた。
この町には、学園の生徒たちが自由時間を過ごすための娯楽施設や買い物のできる施設が建てられている。
強化合宿の日程では、初日と3日後の特別レクリエーションと最終日以外の4日間の中から2日間休みを取ることが出来るため、その時に使われる物である。
筵たちはそんな施設の中の小規模なスーパーマーケットに入った。中にはお菓子などを買いに来た生徒がチラホラいる程度で閑古鳥が鳴いている。
他の生徒達はしっかりと朝食と夕食が用意されている上に、コンビニも町の中にある為、あまりこの時間には人がいないのであろう。
しかしながら、カレーライスの食材をカゴに入れながら店内を巡っていた筵たちは、同じく野菜や肉などを買っている集団を発見する。
それは、かぐやとスチュワート、それとリマであった。
「君たちAクラスには高級料理があるんじゃないのかな?」
筵は自分たちの量よりは少ないものの、同じような食材の入ったかぐやのカゴを見て言った。
「いちいち鼻につく言い方するわね」
「いやいや、ごめんごめん。きっと日室刀牙くんが何かの理由で夕食を食べ損なったから作ってあげようって言う奴だと推測させてもらうよ」
筵はかごの中の食材がせいぜい2人分くらいである事から予想を立てたのだが、それを聞いたかぐやは本気で引いたと言うような顔をする。
「その推理力、本気で気持ち悪いんだけど」
「いや悪いね。でも推理力が高いと分かりたくもない事も分かってしまうから大変なんだよ?」
「そんなの知らないわよ」
かぐやは筵の顔を睨み、筵はいつもの半笑いを崩さずにかぐやを見ている。
すると遠くから幼い少女の声が響く、筵はその少女の声に聞き覚えがあり、それは段々と近づいてくる。
「かぐやー、ルーあったぞ。・・・ってあれ?お兄ちゃん?」
それは筵の妹、憩であった。
筵がガラにもなく動揺しているのを見て、かぐやがほくそ笑み、憩を自分の近くに引き寄せて抱きついた。
「憩ちゃんも刀牙にカレー作ってあげようねー」
「おう、任せておけ!」
かぐやの問に憩はドヤ顔で腰に手を当てながら答える。
「かはっ!!」
その光景を見た筵は吐血しながら湖畔とカトリーナの方へ倒れ込み、それを2人が支える。
「おのれ日室刀牙、再び憩ちゃんをその毒牙にかけようというのか」
筵は今際の際の時のように息絶え絶えといった感じで呟く。
「筵先輩の方が世の中的には数百倍毒だと思いますけど、しっかりしてください」
「カトリーナさん、それ以上言うと筵先輩がまた、死んでは生き返るという輪廻転生を繰り返しちゃいますよ」
「ああ、あの眩しいヤツね。じゃあ止めとこう、眩しいから」
Zクラスでは日常茶飯事のようなそのやり取りを見たかぐやたちは言葉を失っていた。かぐや自身もこんなにダメージを与えられるとは思っていなかったのだろう。
そんな中、筵は湖畔に耳打ちすると、湖畔は少し戸惑いながら口を開らく。
「きょ、今日はこの位にしておいてやる。お、覚えてろよ」
湖畔が顔を真っ赤にしながら言い放ち、カトリーナと共に筵に肩を貸しながらその場を立ち去った。
食材を買い終わり別荘へと帰る途中。湖畔とカトリーナはそれぞれ一つずつのビニール袋を持ち、筵は二つのビニール袋を持っている。
筵も段々と精神的ダメージに強くなったのか元気を取り戻していた。
「筵先輩、うち、さっき"筵先輩の方が世の中的には数百倍毒"って言いましたけど、あくまで世の中的にはですよ?うちは筵先輩の方が誠実だと思いますし、多分みんなもうちと同じ意見だと思います」
カトリーナは少し心配そうな顔で横を歩いている筵を見上げる。
それを聞いた筵は優しい笑顔をカトリーナに向けた。
「カトリーナちゃんが、そう思ってくれるなら世の中なんてどうでもいいね」
筵の言葉にカトリーナは小さく頷き、それからは何も語らなかった。
しばらく歩くと自分たちで掃除した別荘が見えてくる。別荘の中からは暖かい光と話声が漏れていて、冬でも無いのに少しだけ震えるような恋しさを感じられた。
そして月並みだが、筵はここが自分の帰る場所であるのだと感じ、同時に何があっても守り通すと再び心に誓った。