強化合宿で平常授業 1
10月上旬、強化合宿当日
10月にもなると気候は肌寒くなって来て、人々は段々と厚着をするようになっていた。こんな時期に暖かいところに行って海に入るというのは最高の贅沢になるだろう。
この合宿は学園側が飛行機を数台と南の島をまるまる一つ貸し切って行われる、毎年恒例のものであり、その間ハーベストからの関東地方の防衛は完全に民間に委託されることとなっている。
目的としては実力の向上が6割、息抜きが4割くらいの割合で1週間の間に様々なイベント等も企画されている。
こう言った学園ではクラスごとに待遇が分かれることが多々あるが、そのシステムはこの学園でもそれなりには取り入れられていて、Aクラスはファーストクラス、B、Cクラスはビジネスクラス、その他はエコノミークラスと言った風な感じで、島のホテルもクラスによって設備が変わってくる。
Zクラスも何とかエコノミークラスで飛行機には乗れたのだが、一体どんなホテルをあてがわれるのか先が思いやられた。
「Zクラスの皆さんのホテルはこちらです」
学園側が島を貸し切るにあたって、雇われた数百人単位のメイドさんのうちの1人によって、Zクラス一行はホテルが密集する町のようになっているエリアから遠く離れた所にある、ボロボロの別荘の様な場所へと連れてこられていた。
筵は壁に植物のつるが巻きついているボロボロな別荘を顎に手を当てながら見回す。
「これはこれは、実に予想通りの展開だね」
筵が関心しながら言うと、譜緒流手もため息をつきながら呟く。
「この状況が予想通りって、どんだけ百戦錬磨なんだよオレ達」
譜緒流手はため息をもらした後、そのままお手伝いの女性に質問する。
「これはいわゆる、自分たちで掃除してくださいって奴ですよね?」
「はい、理解が早くて助かります」
メイドさんは無表情のまま別荘の入口の近くを指差す。そこには箒やバケツ、雑巾などの掃除用具が置かれていた。
「では、お掃除頑張ってください」
メイドさんはそう言い残して、元来た道を戻っていった。それをただ見送った一同は掃除用具の方へ歩いていく。
「あのメイドさん掃除してくれないんだね」
「メイドさんにあるまじき行為だよね」
譜緒流手と筵が愚痴をこぼした。そんな2人をれん子が説得する。
「まあまあ二人とも、メイドさんも違う仕事が有るんじゃない?」
「違うよれん子ちゃん。僕は掃除を手伝って欲しかったんじゃなくて掃除しているメイドさんが見たかったんだよ」
筵はさぞ当たり前であるかのように言った。
「そんなんどーでもいいからよー。さっさと掃除しちまおうぜ」
梨理がダルそうな顔で箒をもち筵に向けて投げつけて、筵はそれを受け取る。
「何なら僕が1人で掃除するよ?」
「はあ?何白けること言ってんだよ。それに1週間もあるんだから1日くらい問題ねーだろ」
梨理は今度は自分の分の箒を持つと別荘の中に入っていった。
「梨理先輩、男前ですよね」
淵も掃除用具を選びながら筵に話しかける。
「そうだね、僕が女子なら惚れてるね」
「そこは男のまま惚れてもいいのでは?」
淵は自分の掃除用具として雑巾とハタキを選択して筵と一緒に別荘に入っていく。
中は思った通り汚く、至るところに蜘蛛巣が張っており、床などは埃まみれだが、床が抜けているとかではないためキチンと掃除をすれば使えるようにはなるだろう。
しかし、筵たちのあとに続き入ってきたカトリーナはその光景を見て戦意を喪失ししゃがみ込む。
「なんですかこれ、うちの部屋よりも汚い。でもこの位ならギリギリ暮らせるかも」
「掃除が面倒くさいからって、埃の中に住むことを考えるなんてやるね」
「ふふふ、筵先輩、うちは普段からかなり高濃度のハウスダストに身を置いていますから」
カトリーナが自慢にならない自慢を言うと、一緒に入ってきた湖畔が埃に負けて可愛らしいクシャミをしながら指で涙を拭う。
「くしょん・・・カトリーナさんすごいね。ぼく、埃を吸うとすぐに、くしゃみが出ちゃうんだよね。・・・くしょん」
湖畔の可愛らしいクシャミを聞いた筵とカトリーナは、お互いの顔を確認し頷く。そして座っていたカトリーナは立ち上がった。
「ゴミ共、すぐに片付けてやるぜー!!」
「ゴミ共、すぐに片付けてやるぜー!!」
筵とカトリーナはやられてしまった湖畔の意趣返し、汚れ殲滅戦を開始した。