テロ事件でも平常授業 4
「妹さんの心配はしなくていいんですか?」
跪いている筵に湖畔が問いかける。しかし筵は質問に答えられるような精神状態では無く、その質問には筵に変わって譜緒流手が答えた。
「憩なら大丈夫だよ。何せ憩は栖さんと父親の根城さんのいいとこ取りだからね。栖さんの才能と根城さんの正義感、その二つを兼ね備えた世界で最も面倒臭い存在だからね」
一同は再び1階に視線を戻した。
「それからどうするんだ?お嬢ちゃん。人質の命もかかってるんだぞ?」
テロリストのリーダーが部下達に指示を出すと、部下達は人質に掌を向ける。おそらく部下達、全員能力者なのだろう。
それを見た憩は一歩ひいて額の汗を拭う。
「な、なに卑怯だぞ。貴様ら」
憩は棒読みで何処か嬉しそうな表情を浮かべていて、どうやら自分の思い描くヒーロー像を演じているようだった。
「こうなったら奥の手を使うしかない」
憩はどこかのヒーローの様なポーズを取り能力を発動させた。すると具体的に何処が変わったかは分からないが、憩に何かしらの変化があった様に感じられた。
「はあー!!」
そして再び能力を発動させると、その場にいた全ての人質が一瞬にして消え去り、筵たちのいる2階に現れた。
一瞬なにが起こったか分からなかったテロリストたちは固まっていたが、ふと我に返り今度は憩に掌を向ける。
「なんだてめー、能力者だったのか!これは・・・瞬間移動能力か」
「これはね。でもそれが私の能力じゃないよ」
憩は腕を組み仁王立ちをしながら、堂々とした態度で立っている。
焦ったテロリストの内の1人が能力を発動させて、火球を呼び出して憩に向けて放った。
火球が近づく事に全く同様せずに仁王立ちを続けている憩。
敵の攻撃が直撃する寸前に、憩の周りから大量の水の様なものが現れ、盾の様になり火球から憩を守った。
そして、その水は次に龍の様な形に変化して火球を放った男に襲いかかり、そのまま水圧で壁に叩きつけるとその男は動かなくなっていた。
その事に唖然とするテロリスト集団だったが、続いて部下の1人が次は雷の能力を発動させる。
すると憩の周りから水が引いて、今度は地面から避雷針のようなもの出現し、雷はそちらの方へ吸い込まれていった。
雷が収まると、憩はゆっくりとテロリストたちに向かって歩き出し、それと同時に憩の周りに数個の先の尖った鋭利な鉄の塊が現れ敵に向かって射出される。
そして、その猛スピードで飛来する鉄の塊によってその場にいたテロリストの半数が吹き飛ばされてしまった。
「目には目をそれじゃあダメだよ。目には失明するほどの光を与えるのが私の能力。そう私の能力、後出し英雄は相手に強い能力に変化する能力だ!!」
ドヤ顔の憩は怯えているテロリストにさらに迫る。
「さらに、今、自分が置かれている状況を打開できる能力に変化する能力も持っている。最初の人質を助けたのはそれだよ。さあ観念しなさい」
「ふ、ふざけるな!!」
テロリストのリーダーは激怒し、能力を発動させ黒い剣の様なものを作り出す。
「これは高重力の剣だ!!真っ二つにしてやるよ」
テロリストのリーダーは憩に斬り掛かろうと猛スピードで特攻していて、それに対して憩は小さく笑いながら、再び仁王立ちで敵の攻撃を待ち構えている。
その瞬間、その男は姿を現した。現してしまった。
「□□□□□□□□□」
聖剣を呼び出したその男は、強烈な峰打ちでテロリストのリーダーの腹部を斬り、一撃で気絶させた。
その様子を2階から見ていた筵は手を震わせながらうつ向いている。
「あっ、あいつは・・・・」
筵が言葉を詰まらせていると、淵が代わりに代弁する。
「あれは日室先輩ですね。あ〜あ、憩さん顔を赤くしてますよ」
「ぐうはぁ!!」
筵は血を吐いて倒れる。それを見てれん子が驚いた様な表情をする。
「これは何時でも吐血することが出来るという、筵の特技の1つ」
「なんですか。その無駄な特技は」
れん子の説明に対して淵がツッコミを入れる。
しばらくすると、筵の身体は光に包まれて復活したのだが倒れたまま動かない。
それから、復活と死亡を何回も繰り返す。
「ああ、死にたい。死ねない事がこんな苦しいなんて」
「ここは先人に習って考えるのを止めるしかないんじゃないですか?というか、さっきから眩しいんでやめて下さい」
淵の容赦ないツッコミで復活時の発光は収まった。