重大発表も平常授業 1
「というわけで僕たちも強化合宿に参加する事になりました」
あの任務の翌日、1時間目の授業の最初の時間を借りて教卓の前に立った筵が、それぞれの席に着席しているメンバーに向かってその事実を伝えた。
「おいおい、まじかよ、どんなセコい手を使ったんだ?」
「まさか筵、理事長先生の家族を誘拐して脅したとか」
「それは無いでしょ。栖さんに感謝だね」
梨理、れん子、譜緒流手の2年生組がそろって筵を信用して無い発言をする。
「僕はどれだけ信用されてないんだろうね。正当な方法で家族なんて誘拐してないよ。あ、でも母さんの力は少し借りたか」
「譜緒流手先輩当たりましたね。流石幼なじみです」
淵は苦笑いをしながら筵の方を眺める。
「あ、あの強化合宿に参加ってもしかして、強化カリキュラムも受けるんですか?」
「いやそれは無いよ湖畔、なにかしら雑務を手伝わされるかもしれないけどね」
不安そうな顔で質問する湖畔に向って、筵が笑いながら答えた。
「それってほとんど遠足って事ですか?」
今度はカトリーナが立ち上がり手を挙げる。
「まあそうなるね」
「よっしゃー!一度、砂浜にパラソル立ててゲームしてみたかったんだよね」
「それは最強のインドアだね。いや最弱のアウトドアかな?」
目を輝かせるカトリーナに相変わらずのニヤケ面で返す、カトリーナの実家は金持ちだが、訳あって家族の前では素の自分を出せないでいるため、相当嬉しいようだった。
「よくあの理事長から許可を取れたな」
聞き覚えのある何かにこもった様な可愛らしい声が教室に響き、皆が筵の席の方を見る。
皆が知らない内に筵の席にはペストマスクをつけ白衣を着た小柄な女性が座っていた。
「あ、あなたは”ハシビロコウ”先生!!」
「蜂鳥だ。なんだそのノリは恒例のやつみたいな感じで言ったけど初めてやられたぞ」
蜂鳥は筵の急な振りに驚きながらも、ツッコミを返す。
「ただでさえ、覚えにくい名前なんだからこういう事、しとかないと忘れられますよ」
「それは誰に対しての配慮だ?メタい発言するんじゃないだろうな?」
「僕達に対してですよ?」
「お前らは覚えておけよ!ごめんな、自習が多くて!」
マスクを被っていて本当の所は分からないが、きっとマスクの下では涙を流しているのだろう。
「筵、めじろ先生が可哀想だよ」
「そうだぜ、ムネナシバチ先生に謝れ」
「え、れん子も乗るの?でも、ハシビロコウの後にめじろでは少し弱いと思うぞ?そして、梨理のは昆虫になってる上にただの悪口でしかない」
蜂鳥はまさに泣きっ面に蜂な状況に、ペストマスクを外して、涙を拭き取ろうとする。
すると、どこに入っていたのかわからないくらいのふわふわの髪の毛と小学生にしか見えない幼い顔が現れ、白衣の裾で涙を拭っている姿がZクラス全員の心を打ち抜いた。
「ちょっと筵、蜂鳥先生泣いちゃったじゃん」
「これだから男子ってダメなんですよね」
「蜂鳥先生大丈夫ですか?」
譜緒流手、カトリーナ、淵は蜂鳥の元に集り、筵を曇った目で見る。
「筵先輩、蜂鳥先生を笑わせて上げてください」
続いて湖畔が筵に対して無茶振りをしてくる。しかし、湖畔の目は先程の3人と違い、キラキラと輝いていて二重のプレッシャーが筵にのしかかる。
「・・・し、仕方ないな。僕の一発ギャグ”テレビでやっていた剣を飲み込む大道芸を見よう見真似で試してみる男”を披露するよ」
その無茶振りを受けた、筵は少し焦りながら持ちネタを披露しようとする。
「やめろ!!グロいことになるオチが見える」
筵のやろうとしている事を察した梨理も焦りながら止めに入る。
「えっ?じゃあ、”指の間をナイフで交互に刺していくやつを見よう見真似で試してみる男”にする?」
「「見よう見真似シリーズは禁止!!」」
筵以外のZクラスの全員の意見の一致により、筵の持つ一発ギャグの殆どが、この日を境に禁止されることになった。