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裏任務でも平常授業 5

 理事長との電話を終えた筵は爆弾をセットするためにカバンの中を再び確認する。


 爆弾について全くの素人の筵だが、とりあえず時限爆弾と手榴弾の違いくらいは分かったので時限爆弾を研究所の適当な場所に設置するという方法で爆破を行う事にした。


 「そこで何をしている?」


 薄暗かった部屋の電気が付き、入り口の方から擦れた中年男性のような声が響く。


 筵が振り向くと、白衣を着た白髪混じりの恐らくこの研究所の所長と思われる人物がドアの前に立っていて、その周りには黒服を着たボディガードのような5人の男が、所長らしき人物を守るようにして囲っていた。


 「正義の味方ごっこ?」


 ゾンビマスクを被り片手に爆弾、もう片方の手には小太刀を持った明らかにヤバイ人物が言い放つ。


 「な、何言ってんだ、お前?」


 「いやいや、能力者を大量に殺したマッドサイエンティストを、成敗するために来たんだから間違いでは無いよ」


 寝首搔きを閉まった筵は手榴弾のピンに手をかける。


 「自爆する気か?やめておけ」


 所長は片手を上げると黒服集団は拳銃を筵に向ける。


 「僕にその脅しは効かないんだよね」


 筵は何の躊躇もなく手榴弾のピンを抜き、敵に向かって投げつける。


 それに驚いた黒服達は、所長の指示を待たずに、筵と手榴弾に向かって銃を乱射する。弾丸の何発かが筵の身体に直撃し、もう何発かは実験データが詰まった機械へ、そして、その中の1発が筵が投げた手榴弾に命中する。


 その部屋の空間が一瞬、白い光に包まれ、爆炎と衝撃が筵と所長と黒服たちに襲いかかる。


 衝撃が収まると、そこには倒れて動かなくなっている黒服集団と辛うじて意識がある様子の所長、そして例によって無傷の状態の筵がいた。


 「残念だけど、君の(たくら)みは阻止させてもらったよ」


 筵は黒服の銃撃と手榴弾の爆発で見事に壊れた機械を見ながら言った。


 満身創痍の状態の所長は、無傷の状態の筵を見て当たり前のように驚いていたが、それは筵が無傷な事に対してでは無かった。


 「お、お前はまさか本田筵か?」


 その言葉に少し驚いた筵はマスクを取る。


 「驚いたね。僕はそんなに有名ではないはずなんだけど」


 筵はハーベスト戦には参加しないので普通に生活していたら、まずお目にかかることは無いはずであった。


 「私は肉体強化と回復能力について研究をしている。最初はお前の事を調べたいと思っていた」


 「最初は?」


 筵は壊れた機械に寄っかかりながら質問を返す。


 「お前の情報を得るために学園のデータをハッキングして調べた。お、お前が裏口輪廻(ヘテロドキシー)を所持しているというのは本当か?」


 所長は慌てた様子で筵にすがるように這いずりながら近づく。


 「金もいくらでも払う、今まで私がした事の罪は命をもって償う。だから娘を、娘の命を助けてやってくれ」


 間髪入れずに所長は話を続ける。


 「娘は難病でもう長く無い、治療法も現在見つかっていない。今までの研究成果ももう無い、図図しいことは承知しているがどうか娘だけは・・・」


 「何か勘違いしてませんか?確かに僕は本田筵ですけど、裏口輪廻(ヘテロドキシー)なんてものは知りませんよ?」


 首を傾げながら言う筵に所長は絶望の表情を向ける。


 「し、しかし、学園のデータベースには記載が」


 「それは、あくまで推測でしょう?あの人たち、僕がその裏口輪廻(ヘテロドキシー)とやらを隠し持ってるって疑ってるんですよ。それに・・・」


 筵は少し間を置いてから話を続ける。


 「たとえ持っていたとしても、犯罪者の最後の頼みなんて聞く趣味はないですよ」


 筵は這いつくばっている研究所所長を横目にその部屋を出た。部屋を出て少しすると、その部屋からむせび泣く声が聞こえてきて、筵は少し早歩きになった。







 ”でも、まさか本当に助けねーとは驚きですね”


 全てを終えた帰り道、寝首搔きが研究所であったことを振り返り言った。


 あの後、研究所の至るところに時限爆弾をセットし、ののみを外に連れ出した後、研究所を爆破させた。


 その後、派遣されてきた学園側の人物と鉢合わせ無いように、ののみを受け渡して筵の任務は終了した。


 「あれは罠だね」


 ”罠っつーと?”


 「学園側が僕が裏口輪廻(ヘテロドキシー)を所持してるのか試そうとしたんだ」


 筵は確信を持った顔で言った。


 「そもそも、こんな任務を僕に依頼すること自体が変だね。前回の裏任務は、相手が死の魔術師と言われるほどの能力者だったから僕に依頼するのも頷けたけど、今回のは誰でも出来る、それどころか能力者である必要すらなかった。」


 ”つーことは、学園とグルだったつーことですか?”


 「それも違うね。恐らく学園側が一方的に利用したんだろう。学園のセキュリティは彼らにハッキング出来るほど甘く無いはずだよ。あえて緩めておいたんだ」

 

 ”なるほど、あの状況で救う手段を持っている人なら、普通は女の子を助けちまいますもんね”


 「おいおい、なんだい?その、僕が普通の精神を持ってないみたいな言い方は?」


 "違げーんですか?"


 「・・・まあ違わないけど。恐らく罠で無くても助けたか分からないからね」


 筵は星空を見上げながら少し悲しげな表情を浮かべる。


 「今日出会ったばかりの子の為に、100人分の命を払うのは割に合わないよ。たとえ無限の命を持っているとしてもね」


 筵は自分の判断について間違っているとは思っていなかった。しかし、言いようのない切なさと後味の悪さに(さいな)まれながら帰路につくことになった。

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