裏任務でも平常授業 3
筵は入口付近でたむろっていた3名ほどの研究員を適当に縛り上げ、布で口を塞ぎ適当な部屋に放り込んだ。
幸い、その研究員たちは戦いの経験や能力などの無いただの人間だったようで、抵抗されること無く、無力化することが出来た。
”あんたの予想は完全に外れちまいましたね”
「結果オーライでしょ。無事侵入できたし」
筵は抜き足差足というような足捌きで、研究所の実験データが保管されている部屋を求めて歩み出した。
研究所内は明かりが薄くついていて、さすがは悪い科学者が研究をしている研究所と言った感じの重々しい雰囲気があり、研究所内はかなり広いため、巡回をしている研究員と鉢合わせないように注意をしながら進むことを余儀なくされていた。
「それにしても君は強すぎて殺さないで捕まえたい時とか不便だよね。僕の必殺の、首の後ろをトンってやるヤツが無かったら完全に侵入がバレてたよ」
”そんなん知らんし、僕はあんたに使われるだけですよ”
「そのやる気のない感じ、バイト店員かい?」
”あやまれ、バイト店員と僕に”
これが死んでも生き返ることが出来る人間の余裕なのか、筵は寝首搔きと小声で会話しながら散策を続けている。
「話変わるけど君たち人間の姿に変身とかしてくれないの?」
”ほんとーに唐突ですね、僕たちにそんな姿はねーですよ。それに何を期待しているか知りませんが、僕、・・・男ですよ?”
「ええ、そこはもっと、女装して援助交際の真似事をやって財布だけ盗むつもりだったけど、不手際でそれがバレてしまった時みたいな感じでお願いするよ」
そのようなあまり意味の無い雑談をしていると、前の方から研究員と思わしき人物の足音が響く。
それは巡回の研究員らしく、その足音はどんどんと近づいてくるのが分かる、もう一度気絶させるのもいいかもしれないが逃げられる可能性もあるし、漫画の真似をしただけの”首の後ろトン”がそう上手く何度も成功する保障はない。
筵は安全策として、一番近い部屋に入ってやり過ごすことにした。
ゆっくり扉を開けて侵入すると、その部屋は通路とは違い、蛍光灯の明かりがしっかりと点いていて明るかった。
そして部屋の窓際には一つのベットがあり、病室の様になっていて、ベットには12歳ほどの女の子が眠っている。
ドアが開いた音に気づいたのか女の子は少し唸って睡眠と覚醒の間をさまよったあと、目を擦りながら起き上がり薄めで筵を見た。
「あなた、もしかして・・・」
筵は未だにゾンビマスクと小太刀を持っている。騒がれるのは必然であった。
しかし女の子の口から意外な言葉が飛び出した。
「死神さん・・・ですか?」
筵は左手を手刀のような形にしていたが、女の子の言葉を聞くと力を抜いて握った状態に戻す。
”あんたまさか、この子にトンするつもりだったん?”
「目的達成のためなら、誰にだってトンするよ僕は」
ちなみに女の子には寝首搔きの声は聞こえないので、筵が独り言を言っているように聞こえている。
筵は一度咳払いをした後、女の子の寝ているベットに近づいた。
「そうさ、僕があの有名な"半笑いの死神"だよ」
「死神ということは君の命を奪えばいいのかな?」
筵はマスクを被ったまま、できるだけ優しい声で訪ねる。
「えっ?違うんですか」
「いいや、違わないよ。ただ死神も今やサービス業だから、確認を疎かにすると、クレームが来たりするんだよね。だからこちらの情報に間違いが無いか一度確認したいんだ。いいかな?」
「うんいいよ。・・・そうか、死神さんも大変なんだね」
筵は聞き返してきた女の子に対してさらに質問をすると、女の子は頷き快くそれを承諾する。
「まず、君の名前を教えてくれるかな?」
「はい、山上ののみです」
ののみと名乗る女の子は元気よく返事を返してきた。
「ののみちゃんかー、いい名前だね。では、ののみちゃんはどこから身体が悪いのかな?」
「だから来たんでしょ?私もういつ死んでもおかしく無いんだって」
「・・・なるほどね。では何故ここにいるのかな?」
残酷な真実を笑顔で語るののみに対して、少し戸惑った様子を見せる筵だったが、直ぐに次の質問に切り替える。
「お父さんがここで私の病気について研究してるんだって、それで私もここにいろって言われたの」
「・・・・・・なるほど、質問に答えてくれてありがとうね。今日は下見だから、また今度くるよ」
「またねー」
屈託のない笑顔で死神を送り出すののみに対して、筵は背を向けながら手を振り病室を出た。
”どーするんです?僕、なんか、嫌な予感がすんですが”
「まったく同感だね。まだそうと決まった訳では無いけれど、・・・何にせよ真実を掴まないことにはね」
ののみのいた病室を後にした筵は、少し早歩きになりながら足早に研究成果が保管された部屋に向かっていった。




