裏任務でも平常授業 1
文化祭、天使襲撃から2週間程がたち、9月ももう下旬にも差し掛かっていた。
十月の初め頃には学園の恒例行事、南の島での強化合宿が始まろうとしていたが、そんなものはZクラスには関係がなく、当たり前のように学園での平常授業に勤しむことになる。
珍しく本田筵のいないZクラス内でも丁度、南の島での強化合宿についての話で盛り上がっていた。
「オレ達も南の島行きたくね?他のクラスの奴らが地獄の特訓をしてるのを横目に海で泳ぎたくね?」
筒崎譜緒流手はイヤホンを片方の耳に付けながら机に突っ伏した。
「譜緒流手先輩、なんだか筵先輩みたいですよ」
姿勢よく文庫本を読んでいた鈍空淵が苦笑いで答えた。
「はい!筵菌タッチ!!」
「ぎゃああ!!」
譜緒流手は前の席で雑誌を読んでいる四ノ宮れん子の背中にタッチし、筵菌を貰ったれん子は断末魔の叫びを上げた。
「ちなみに、筵菌をもらうと、若くして成功したスポーツ選手や俳優に対して強いルサンチマンを感じるようになります」
「小さい!!けど嫌だ」
譜緒流手の筵菌の設定にれん子が突っ込みをいれる。
「あと、確か何回でも死ねるが故に、やがて他人の死すら軽んじるようになるな」
「そっちは深刻だね!!いやいや、筵はそういう事は考えないでしょ」
自分の机の上と両脇の地べたに、山積みされた漫画を読んでいる天喰梨理も冗談で筵菌についての解説をして、突っ込みをもらった。
「強化合宿って、毎年恒例の行事なんだよね?」
「そうだよ、お姉ちゃんが言ってた。・・・ほら、湖畔くんそっちに敵が行ったよ」
椎名湖畔とカトリーナ グレイスフィールドも、携帯ゲーム機でハーベストを狩るゲームをしながら、強化合宿について噂をしている。
「お、ハーベストハンターやってんの?次入れてくれ」
梨理は湖畔とカトリーナに混ざるためにゲームを取り出そうと自分の鞄を探るが見当たらなかった。
「やっちまった、ゲーム忘れたわ」
「それなら、筵先輩の借りればいいんじゃないですか?」
梨理はカトリーナの提案を受け入れて、筵のカバンを勝手に探る。
「なんだこりゃ?」
梨理は筵のカバンの中に髑髏などの付いた異様な形のネックレスのようなものを発見した。
「何ですそれは、趣味悪いですね」
「まあまあ淵ちゃん、筵も男なんだから髑髏とか好きなんだよ、きっと」
淵の辛辣な言葉に対して、れん子がフォローをいれる。
「へぇー、いらねーや」
梨理は乱雑にネックレスをカバンに投げ入れ、ゲームを取り出し湖畔とカトリーナに混ざっていった。
学園、理事長室
「本田筵、あなたをここに呼んだのは、ある任務を銘じるためです」
理事長席に座った厳しそうな20歳後半から30歳前半ほどの女性が筵に話しかける。
「またですか?」
筵は意味なく意味あり気な表情で理事長に答える。
「またって、1回しかやったこと無いでしょう?」
「まあその通りなのですが、その1回でZクラスに対して不利な政策は行わないと、約束して下さいましたよね」
「ええ、そうですね。しかし、あなたは任務に失敗しました」
「半分半分ではないですかね?確かに”秘宝”と言うのは見つかりませんでしたが、学園の対抗勢力はキッチリ潰しましたよ」
理事長の追求に対して、筵はお手上げのようなジェスチャーをした。
「その”秘宝”、裏口輪廻も貴方が着服したのでは無いでしょうね」
「まさか、そもそも、それは一体どういうものなのですか?」
「・・・・・・もし持っているのなら、すぐにこちらに受け渡しなさい」
「持っていたらそうさせてもらいます」
理事長は筵の質問に答えずに疑いの目を向けながら言い、筵もそれに曖昧な返事を返す。
「では、本題ですが・・・」
「ちょっと待ってください」
理事長の言葉を筵が遮る。
筵の脳裏には裏任務の件で理事長室に呼ばれた時から、ある交換条件が浮かんでいた。
「そもそも、僕には暗い過去があるダークヒーローのような裏任務とか向いてないんですよね。暗い過去とかないですし。でもまあ、前回の任務の半分が失敗したと言うのは確かですから、僕の要求も受けると言う交換条件では如何ですか?」
「貴方という人は・・・・・・で、その交換条件とはなんですか?」
理事長は少し怒りのこもった声で聞く。
「ええ、簡単な事です。僕達Zクラスも、強化合宿の行われる南の島に遠足として参加すると言うのはどうでしょう?」