千宮寺新羅の最後の副業 5
「おお!!流石は方翦様だ。これぞ神の御業!!」
1人の信者がそう叫ぶとそれに釣られて他の者達も歓声を上げる。
「あれは・・・ただの能力では?詳細は分かりませんが、相手の精神に干渉するか、あるいは風とかで炎の軌道を操ったとか。何にせよ別に驚く程ではない気がしますが」
「そうですね。何百年も前ならともかくとして、能力者は今となってはそんなに珍しくも何ともないはずなのですからね」
社と新羅は周りの異常とも言える光景に驚きつつも、小声で冷静に話を続ける。
「さっきの以上に理解し難い能力はこの世界に幾つもある筈なのに何なんですがあの反応は・・・」
「本当に何が神の御業なんでしょうか?唯一絶対なる神である栖様とは比べるのもおこがましいほどです」
「はあ・・・いやいや彼女を出す以前に我々の能力でも十分に上を行ってますよ。・・・・・・ああ、ほらもう解散するみたいですよ」
人が死んだ事などあまり気にしていない様子の信者たちが興奮冷めあらぬ中、裏手から出てきた教団員によって丸焼けになった男を回収された事で事態は落ち着きを見せ始める。
それから方翦は壇上の机から、信者達に手を振りつつステージの袖へと消えていった。
そしてその様子を見届けた信者達はゆっくりながらも次々にこの空間を後にしていくのだった。
その後、かなり広い畳の部屋へと流されるがままに辿り着いた新羅と社は、怪しい水を飲みつつ瞑想という名の修行みたいな事に励んでいる周りの人々を横目にただ正座で座っていた。
すると。
「あなた方は見ない顔ですが、新しく入信された方々ですか?」
と30歳程に見える女性が悪目立ちしていた新羅達に声を掛けてくる。
「ええ、そうなんです。私達、西澤茜さんという方に勧められて入信する事を決めたのですが、茜さんが見つからなくて困ってしまっていたのです。彼女はここに来れば合えるみたいな事を言っていたのですが···」
新羅は何食わぬ顔でペラペラと嘘を口にする。
「ちょっ、新羅」
それに驚いた社は新羅の横腹を小突き、新羅の耳元で彼にだけ聞こえるくらいの喋りかける。
「何言ってるんですか。もし何処かに茜さんが居て連れてこられたらそんな嘘1発でバレますよ」
「その時はその時、かっさらって岬さんに届けて依頼完了ですよ」
少し不敵な笑みを浮かべながらこれまた小声で返す新羅。
がしかし、30歳程の女性の答えは微妙なものだった。
「ああ、西澤さんね。彼女は才能に溢れた方だったから方翦様の近くでとても名誉な役職についているわ。だから中々会う事が出来ないでしょうね」
「ほほう、成程成程。才能・・・ですか」
「ええ、そうですね。才能です」
「ちなみにその才能って言うのは強い能力を持っているという事なんですか?それとも能力以外の秀でたものという意味ですか?うーん、例えば頭が良いだとか、手先がとても器用だとか、後はそう・・・顔が整っているとか」
「さあ?どうなんでしょうか?多分神に愛されている的な事だとは思うのですが、私程度では良くは分かりませんね。でもとにかく方翦様には分かるのでしょう」
女性はそう言って微笑む。
そして現在の時刻を確認するために自身の腕時計に目を向けた。
「ああ、いけない。もうこんな時間に。さああなた達も修行に入りましょう。精進を怠れば神の元へと近づく事は叶わず、再生後の新しい世界へも辿り着く事は出来ませんよ。・・・安心してください。私が手取り足取りやり方を教えて差し上げます」
「あ、いえ私達はっ、うぐっ・・・」
「そうですか?ではお言葉に甘えて。丁度、何をすればいいのかわかならなくて困っていた所なのです」
女性の誘いを断ろうとする社の口を手で覆いながら、新羅は何時も営業スマイルで笑いかける。
そしてその後。
「丁度いいです。彼女に色々と教えてもらいましょう」
と社の耳元で囁いた。




