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千宮寺新羅の最後の副業 3

 1時間後。とあるマンション。


 「ここが篠森さんのご友人の住んでいたマンションですか」


 新羅はそう呟くと7階建て程のマンションを見上げ、その後、エントランスの部分の暗証番号を入力する機械を遠目に眺める。


 「どうやって入ります?こういう場合のセオリーならここの住人が帰って来るのを待ってその後について行くとかですけど」


 「テレビドラマとかでよくあるやつですね。ただ・・・」


 辺りにはこのマンションの住人どころか誰一人として歩いていなかった。


 「弱りましたね。出直しますか?」


 無理やり開ける事はいくらでも出来るが、騒ぎになったら面倒である。

 

 社はそう考え新羅に提案する。


 が、しかし。


 「いえ、それよりも周りに人が居ないという事を有効に使いましょう」


 「えっ、ちょ、新羅、やめ」


 抵抗する社を片手で抱え込むと新羅は軽くジャンプする。


 するとまるで無重力かのようにふわっと浮かび上がり、あっという間に目標の階数のベランダにたどり着く。


 「ちょっと、強引すぎません?それにこれ不法侵入じゃないですか?」


 「ははは、何を言いますか?私はこれでも超弩級の犯罪者で国際的なお尋ね者ですよ。今更罪が1つ増えた所でどうって事はありませんよ」


 「・・・」


 「ああ、でもそうですね。社さんはここで待っていてくれた方がいいですかね」


 新羅はニッコリと笑いながら言うが、その言葉を受け、社は不機嫌そうな表情へと変わる。


 「それどう言うことですか?私も立派な・・・いえ、立派ならざる犯罪者ですよ。新羅がどんなに気を効かせたところで、私ももう既に引き返せない所まで来ているんですから」


 「・・・はあ、ええ、そうですね。では入りましょうか」


 諦めた様に呟くと新羅はベランダから鍵のかかった窓に触れる。


 「姿無き愛猫(インビジブルビースト)は窓のあちら側に存在するし、勿論こちら側にも存在する」


 すると。


 ガチャ!という音が響き、部屋の内側の窓の鍵が何かの力で解錠される。


 そうして新羅達はベランダから部屋の中へと入った。


 「なるほど」


 そこはリビングになっていてパッと見ではかなり綺麗に整理されていた。そう、不自然な程に。


 「綺麗な部屋ですね。相当綺麗好きな方なのでしょうかね?」


 「いや違うでしょ。まあおそらくは・・・ですけど」


 少しその部屋を物色し、ほぼ空っぽの冷蔵庫などを覗きながら呟いた社は更に自分の意見を述べていく。


 「少なくとも私なら1日2日家を空けるくらいではここまでは綺麗にしませんね」


 「成程・・・」


 そして、新羅達は依頼主の友人の寝室へと入る。


 「・・・」


 すると、そこもまたかなり綺麗に整理されていて、そこから導き出される事として、少なくとも依頼主の友人は連れ去られたなどの理由で急に失踪した訳ではなく、自分の意思で身辺の整理を済ませ何処かへと消えた可能性が高いということが推理できた。


 それからも部屋を物色した新羅達は下着などの数の減り方などからますます自分達の推理が当たっている事を確信していくと同時にクローゼットに手を掛ける。


 「これはこれは」


 「げっ、悪趣味ですね」


 「まあ、私達が言えた事ではないですがね」


 そこには綺麗に飾られたカルト宗教の装飾と教祖と思われる細身の男性の写真が置かれていて、きっとこの家の主は日やここで祈りを捧げていたであろう事が推測できた。


 「この方、一応は私は存じ上げないのでまあ良かったですね。依頼は続行出来そうです」


 ハーベスト教団と関わりのある団体だと多少動きにくかったが、そう出ないと分かれば完全な探偵モードとして依頼に専念することが出来る。   


 それから新羅達は更に少しの間、部屋を物色する。


 そしてもう調べる所が無くなった所で新羅は再び口を開いた。


 「さあ、では次は潜入捜査ですね」


 「ええ行きましょう」


 そうして2人は部屋を来た時の様に綺麗にした後、再び入ってきた時と同じ手順でこのアパートを後にした。

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