千宮寺新羅の最後の副業 2
「それでは改めて依頼の内容をお聞きしましょうか?」
「は、はい」
約束の喫茶店にて、新羅は依頼人である女性、篠森岬に問いかける。
「えーっと、確か依頼内容は行方不明のお友達の捜索という事でしたよね」
「え、ええ、そうです・・・」
新羅の問いに何か様子のおかしい岬はその後少しの間黙り、同時にその気まずい沈黙を相殺するように机に置かれたコーヒーを口へと運ぶ。
「新羅・・・」
「ええ分かってます」
その様子から社と新羅は彼女が依頼の細かい内容を言う事を何らかの理由で躊躇っている事を察する。
そして、依頼の内容が友人の捜索である事を考慮に入れると、その躊躇っている理由というのも少し見えて来た。
きっとその友人の失踪には何かヤバイものが関わっているという事なのだろう。
それがハーベストか、あるいは裏社会の事か、はたまた政府なのか。
そこまでは分からなかったが、とにかく詳しい話を聞くには彼女の心配を解く必要があった。
「あー、こほん、そうですね。こう見えても私幾つもの修羅場を潜り抜けて来た腕っぷしも強いタイプの探偵なんですよ。だからどうぞ安心して詳しい内容を聞かせてください」
右腕で力こぶを作るポーズを取りながら新羅は岬へと笑いかける。
「・・・はあ」
その言葉に対して思わず溜息をもらす社。
そして。
「この徳川はこう見えても高レベルの能力者ですので、ある程度危険な依頼でも大丈夫ですよ。ですからどうぞ話して下さい」
「おっと、八代さんそれは・・・」
「これは探偵としての最後の仕事です。私はやり切りたいです」
身分がバレるかもしれない事を考慮し、能力を隠して探偵業をしていたという事もあり、社の発言を止めようとする新羅だったが、逆に社にまっすぐに見つめ返され自分が言葉を詰まらせる。
そして、数秒間見つめ合った後。
「はあ、まあそうですね・・・やりますか」
新羅はそう言って社に笑いかけると続け様に依頼主である岬の方を見る。
「先程の八代さんが言ったように私も八代さんも能力者です。例え、国とか裏社会とかが相手でも1度頼まれればどんな依頼でも完遂してみせますよ。さあ言ってみてください相手は役人ですか?ヤクザですか?あっ、それともまさか変な宗教団体とかですか?」
「えっ?」
最後の"宗教団体"の部分は冗談を込めて発言した新羅だったが、ちょっどその言葉を聞いた岬は"何故分かったのか"と言いたげな表情で新羅の方を見る。
「そ、そうなんです。茜は最近なにかの宗教にハマったっぽくて、変な水とかアクセサリーとか買わされてて・・・だけど私、止めるように言い出せなくて、少し距離を取ってたんです。だけど数週間くらい前にようやく止める様に言おうって決意して茜の家に会いに行ったんです。そうしたら留守でそこから何日も何日も通ったんですけど家に帰ってくる気配がなくて、それに仕事も無断欠勤してるみたいだし・・・」
泣きそうになりながら茜という名の友人との事を語る岬とそれどころでは無い様子の2人。
もちろんこの依頼主の友達がハマっている宗教が必ずしもハーベスト教団という事ではないだろう。
しかし、ハーベスト教団は様々な宗教団体を隠れ蓑にしている為、名前が違っても裏で繋がっている可能性は十分にありえた。
「なるほどなるほど、それはさぞお辛かったでしょう・・・」
新羅は慰めの言葉をかけながら社とアイコンタクトを交わす。
予想外の事に依頼を断ると言う選択に傾いている新羅とそれでも断固として引き受けるべきだとする社。
そして数秒、ほんの僅かな無言のやり取りが終わり結論が出る。
「はあ、まあ、そうですね。・・・ええ、勿論依頼は受けさせて頂きます・・・さあ、詳しい話を聞きましょうか?」
引き受けた仕事には責任を持ち人事を尽くして完遂に務める、そんな仕事人間の顔になった新羅は頼り甲斐のある笑顔で岬に笑いかけた。




