魔王再臨と平常授業 16
「はあはあ・・・、流石に疲れちゃったよ」
2体の魔王型ハーベストによる壮絶な戦いは、あれから10分程で終わりを迎え、恐怖の王は傷付き地面へと墜落した。
だがしかし、メリーの方も流石に元気にピンピンしているという訳には行かず、最終的には残った力を振り絞って、背中に生やしたボロボロの翼を羽ばたかせながら筵達の元へと舞い降りてくる。
「お疲れ様でした」
「はあ・・・いやいや、向こうも流石に同格って感じだったよ。復活したばかりでなかったらヤバかったかもね」
顔こそ笑顔のままであったが、同時に筵にはメリーが冗談では無く、心からその言葉を言ったのだと理解出来た。
そして地面に着地しメリーが座り込んだのを確認した後、筵は新羅の方を見る。
「メリーさんが頑張ってくれただけなので僕がこんな事を言うのは大変に痴がましいんですが。・・・こほん、あー、さ、抵抗は止めて大人しく捕まりなさい」
「・・・ふふ」
「?」
「ああ、いえいえ。・・・ただしかしながら、それは出来かねます。それに・・・」
意味深な事を言いながら新羅は軽く手を上げる。
「!?・・・くっ日室君!!」
「□□□!」
新羅の挙動に違和感を覚えた筵はメリーが疲れ切ってしまっている事を確認した後、刀牙に声をかけ共に新羅の元へと走る。
さらに同じ轍を踏まない為、新羅へと近づいて行く過程で手に持ったサバイバルナイフを一旦鞘に収める。
そして。
「来い大皿喰らい」
とそれから躊躇すること無く、魔剣大皿喰らいを手元に呼び出す。
「□、□□□」
「今は気にしないでくれ、というか出来れば永遠に気にしないでくれると助かるね」
「□□□」
1年ほど前に大皿喰らいを使った人物と戦い、それが今、行方不明になっている事を知っている刀牙はやや動揺していたが"理由は後で聞く"と割り切り再び新羅の方を見る。
「素晴らしい判断です。ただちょっとだけ遅かったですね。姿無き愛猫最終形態!」
筵と刀牙によって左右から同時に攻撃を仕掛けられた新羅はビジネススマイルを浮かべながらそう言い放つ。
そして更なる進化を遂げた姿無き愛猫によって2人の斬撃は空中で受け止められてしまう。
また、その力の衝突によって起こった風圧で巻き上げられた砂煙により最終形態の姿が一瞬だけ薄らと浮かび上がり、それは何となく人型をとっていた様にも見えた。
がしかし、そんな風に思ったの束の間、筵と刀牙は掴まれた刀をそのまま利用され左右の壁に向かって放り投げられてしまい、そのまま壁に激突させられる。
「こう言うのを手に入れる時は弱らせてからと相場が決まっているものですからね。ただ私個人には恐怖の王を倒せる程の実力は無い。其方の魔王型の方には本当に感謝しなくてはなりません」
新羅はそう言いつつ、ゆっくりと恐怖の王の元に近づいて行く。
そして新羅が手を振り下ろした瞬間、無数の何かが虫の息の恐怖の王へと刺さり、その痛みで恐怖の王は叫び声を上げる。
「くっ」
と、不味い状況である事を察し、1度死んで直ぐに復活を遂げた筵は再び攻撃を仕掛けようとする、が時すでに遅しであった。
恐らく新羅によってエネルギーを吸収されてしまっているであろう恐怖の王は一瞬にして身体中がしわくちゃになり、遂には骨と皮に成り果てる。
その意味を筵、更には痛みに耐えながら再び立ち上がった刀牙も何となく理解することが出来てしまった。
そして一仕事終えた後のような顔で新羅は筵と刀牙を交互に見た後、演説でもする様に喋り始める。
「神とはいったい何か?・・・ある者は完璧な力と慈愛の心を併せ持った存在であると言い、またある者は存在して欲しいと思った時にだけ居ればいい者だと言った。人の数だけ神という物は存在するのだからこれはごく当たり前の事です。だから"神よ"と叫び人を殺し、"神よ"と祈り生を懇願する。こんな事もよくある事なのです・・・・・だが、それは実に愚かだ。ハーベストという脅威があるにもかかわらず未だに人類は1つ纏まれずにいる。だから私が不遜ながらその神の地位に就き、導こうじゃないか。そう、この天候を操る能力、"槍ガ降レドモ"の力によって」
と、語りを終えた新羅はゆっくりと片腕を天高く伸ばし、指を打ち鳴らす。
「5th case、"杞憂"」
すると一瞬だけ強い光がその場を駆け巡り、それによって思わず目を瞑ってしまった刀牙達。
「□□□・・・」
それからコンマ数秒、何が起こったのかイマイチ理解出来ぬまま、ゆっくりと目を開けた刀牙は空を見上げ驚愕の表情を浮かべる。
そこには普段通り空があった筈であった。
・・・だが気がつくと空全体には大きなヒビが入ってしまっていた。
そしてそのヒビはやがて綻び、超巨大なガラス破片のようになって地上へと落下し、地上に甚大な被害を引き起こすと共に、その剥がれ落ちた空の裏からは夜空とは違う真っ黒な空間が出現し、そこから数人の超巨大な1つ目の巨人がまるでジオラマを観察しているように地上を覗き込んでいたのだった。




