魔王再臨と平常授業 12
「さて、お喋りはこのくらいにしておきましょうか」
何気ない動作の中で涙を拭った新羅はそれ以降、涙を流すこと無く少し前と変わらぬ顔で筵達にそう言うと、装置の起動ボタンに手を掛ける。
「□、□□!」
と刀牙は再び新羅を止める為に攻撃を仕掛けようとする。
がしかし時すでに遅し、新羅は決して迷うこと無く、冷静に冷徹に装置を起動させた。
うるさいくらいに響く音、そして光と共に起動する装置。
そして上部の機械から下部の培養液に浸かった第2の魔王型ハーベスト、恐怖の王に向けてエネルギーが注がれているのが何となく目視でも確認出来た。
「ごめんなさい。社さん···」
龍子は目を瞑り、心から社に謝罪するとそっと部屋の壁に寄りかかるように座らせ、その後、意思の篭った目で新羅を見る。
そして。
「画人転生、解除!」
突然、彼女の身体が一瞬だけ強い光に覆われ、次の瞬間には天井を突き破り、森の中に建つ建物の最上階に20mは有ろうかと思える程のドラゴンが姿を表す。
更にそのまま、龍子だったドラゴンは大口を開け、そこにエネルギーの球体を出現させると、それを新羅が居た辺りの屋根に向けて放つ。
そして球体は外から天井を突き破り、新羅とその隣の機械に襲いかかる。
がしかし。
「姿無き愛猫・・・第2形態」
と新羅の一声により、ミチミチ、グチャグチャと気色の悪い音がその場に響く。
その音と新羅の言葉から、相変わらず全く姿が確認出来ないものの、彼の能力により呼び出された何かがより強く変貌を遂げてている事が何となく理解出来てしまった。
そして、結果として龍子の放ったエネルギー弾は衝突音と共に再び見えない何かによって阻まれてしまう。
更にそのまま新羅は上空の龍子の方へと手を伸ばす。
すると突如なにもない空間から先程龍子が放ったエネルギーの球体よりも小さい物を無数に出現する。
「姿無き愛猫はエネルギー波を排出する、無数の穴を持つ」
そうして新羅は十分に大きくなった球体を上空の龍子に向けて放った。
「ぐっ!?」
自身に向けて放たれたエネルギーの塊を見て驚きながらもそれらを腕や翼でガードする龍子、だが流石に無傷とは行かずに僅かに苦しそうな声をもらしてしまう。
がしかし、それを見た新羅もまた意外だったのか少し驚いたような表情を見せる。
「流石ですね。その程度で済みますか・・・ん?」
「□□□!!」
上空の龍子に気を取られていた新羅に向かって、再び刀を振るう刀牙。
そしてそれに対して剣を持っている様なポーズで待ち構える新羅。
カキンッ!と2つの鉄が打ち合う高い音が響き、結果としては刀牙の攻撃は新羅の見えない剣に阻まれ、鍔迫り合いとなり硬直状態となってしまう。
「それは無数の腕とその3倍の数の爪を持つ」
「!?」
小声で呟く新羅の言葉から危機感を感じた刀牙は咄嗟に数歩後ろに下がる。
そして突如、四方八方から襲いかかってくる何者かからの斬撃を精神を研ぎ澄まして、音と風の動き、更には経験によって避けていく。
しかしその全てを完全に避けきれていない為、時間と共に刀牙の体には幾つかの切り傷が生じ始めてしまう。
またそんな風に時間が費やされる中でも恐怖の王には順調にエネルギーが殆ど注がれてしまっていて、復活間際という感じに発光を始めていた。
「さあ新しい世界、そして秩序がもうそこまで来ています」
「□□□」
「何?」
防戦一方にも関わらず余裕そうに呟く、刀牙に違和感を覚えた新羅は不意に周りを見渡し筵がいないことに気がつく。
そして、気がつくと既に筵は恐怖の王の入った培養液の前まで来ていて、片方の手には手榴弾が握られているのが確認出来た。
「・・・」
「ぐっ、姿無き愛猫!!!」
ギリギリの攻防、そのコンマ数秒はとてつもなく長く感じられた。
そして、次の瞬間。
筵の手榴弾を持った手は何かに食いちぎられた様に、それごと完全に姿を消してしまい、切断された手の断面からは血が吹き出す。
「よし」
「ふっ、嫌だなー、痛いじゃないですか」
と作戦が破られたにも関わらず、不敵に笑う筵。
そんな筵の様子からまだ払拭出来ぬ何かを感じ、新羅は再び攻撃を仕掛けようと試みるが今回はもう遅かった。
そして次の瞬間には、筵がもう1つ服の中に隠し持っていた爆弾が炸裂し、爆炎を上げながら筵諸共培養液を破壊した。




