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魔王再臨と平常授業 11

 「これは困ったね」


 最奥の部屋まで辿り着いたところで筵達が目にしたのは、先に行かせた学友騎士団の者達が瀕死の状態で倒れている光景、そして巨大な機械の前に立つ千宮寺新羅とスーツを着た小太りの男であった。


 さらにその巨大な機械、崩壊の天秤(バランスブレイカー)には筵達が予想した通り、第2の魔王型ハーベスト、恐怖の王(ディザスター)の死体が大きな培養液の様なもの中に入った状態で設置されてしまっていた。


 そして、培養液の上の部分にはワープホールから出て来たハーベスト達を生命エネルギーに変換する機械が付いていてそのエネルギーは今にも上限に達しかけていた。


 「□□□」


 それを見た刀牙は素早い判断で新羅との距離を一気に詰め、手に持った聖剣で斬り掛かる。


 がしかし。


 「いきなりですね。・・・姿無き愛猫(インビジブルビースト)!!」


 カキィン!!


 と刀牙の斬撃は新羅には届くこと無く、透明な何かによって阻まれ、その後、しっぽなのか触手なのか分からないが何かが(しな)る様な音が響き、それにより刀牙は元居た位置まで吹き飛ばされる。


 そして新羅は筵達の方を真っ直ぐに見つめる。


 「・・・なるほど、そうなってしまいましたか」


 とため息混じりにそう呟くと、全てを察した様に筵、刀牙、龍子、そして龍子に抱き抱えられた社を順番に見た。


 「社さんは役目を果たして下さったと言うことの様ですね。社さんの作ってくれた僅かながらも確かな時間により、今こうして私達の目的を果たされます」


 そして新羅は生命エネルギーを恐怖の王(ディザスター)に注ぐスイッチへと手をかける。


 「待って千宮寺さん!それを使えば結城さんを蘇らせることが出来るんでしょ!だから私は彼女をここに連れて来たの。それと結城さん貴方にとってどちらが大切なんですか」


 「・・・」


 龍子の問に僅かに黙る新羅。


 すると、新羅の隣にいたスーツを着た小太りの男が眉間に(しわ)を寄せながら口を開く。


 「貴様、裏切り者の分際で何をほざくか!・・・新羅!聞く耳など持つんじゃないぞ。この機械のメンテナンスにどれだけ時間がかかったと思っている!それに協会側にこの機械の存在が露呈してしまっている。チャンスはこの1度だけなんだ。あの小娘の命など我々の目的に比べればあまりにも小さい筈だろ!」


 「・・・」


 恐らく教団の幹部だろうと思われるその男は新羅に釘を刺しつつ話を続けていく。


 「ふっ・・・それにそもそも学生との戦闘で死ぬ様な雑魚など教団には不要だ。その程度なら幾らでも替えがきく。お前も秘書のような奴が欲しいならもっといい女を当てがってやる。だから早くそれを押してしまえ!」


 「はあ・・・」


 新羅は営業スマイルのまま男の話を聞き終えると、表情こそ変えずにため息をもらす。


 そして手を僅かに上げて男の方を指差し、姿無き愛猫(インビジブルビースト)に指示を出す。


 「なっ、待っ!!?」



 シィュンッ!!!・・・ボトッ。



 鞘から刀を勢い良く抜いた時に鳴る音を思わせる、高い音が一瞬の鳴り響き、その数秒後、男の頭部が地面に転がり落ちる。


 そして少し遅れて血が吹き出すと共に身体の方も地面へと崩れ落ちた。


 「・・・はあ。少々感情的になり過ぎてしまいましたね。失礼しました」


 「「・・・」」


 ケロッとした顔でこちらに目を向ける新羅に対して、絶句して時が止まった様になってしまっている刀牙と龍子。


 なので仕方なく筵がゆっくりと口を開く。


 「それは彼女の意見が通ったと言う認識でいいんですか?」


 「いえ、それとこれとは話が別です。彼も言った通りこの計画には機械の整備も含めてそこそこの時間を有しています。チャンスは殆どこの1度だけなのです。なので悲しいですが社さんを蘇らせるのは無理ですね」


 比較的冷静に冷淡に答える新羅の言葉を受けて、絶句していた龍子がやっと喋り始める。


 「な、なんで!貴方達は何時も一緒に居たじゃない!彼女が大切では無いの!」


 「大切か、ですか?ええ大切に思っていますよ。命を掛けても守りたいと思う程に」


 「じゃ、じゃあ、何故?」


 「・・・私にはこの世界で命より大切な物が2つあります。1つは社さん。そしてもう1つは理想の世界を実現させる事です、これは私が社さんと出会う前から私の中でずっとあったもので、私の生きている理由の大部分を占めています」


 そして新羅は少しだけ大きく息を吸い、言葉を続ける。


 「なのでこれはとても単純な話です。私が生きている1番の理由を達成する為に2番目の理由を切り捨てるまでの事。非常に辛い選択ではありましたが、迷う余地などありはしません」


 そう新羅は当たり前の事を言う様なトーンで言い放つ。


 そしてそれを聞いた3人は、今度は筵も含めて言葉を失ってしまう。


 がしかし、それは彼の非情とも言える言葉にではなかった。


 その原因は冷静なトーンと表情とは不釣り合いに、彼の両目から零れる雫だった。


 そう千宮寺新羅は泣いていた。嗚咽もなく表情も崩さず。


 そして声を、表情を、全く変えずに涙だけ流す壮絶な光景は彼の言った言葉が嘘では無い裏付けのようでもあった。

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― 新着の感想 ―
[一言] お前、裏切ったくせにそれ言うん?ないわー、マジないわー。裏切ってなかったら死ななかった可能性も少しはあるのに裏切ったやつがしたり顔でいうのないわー
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