魔王再臨と平常授業 10
「□□□、□□□」
「んん?」
何者かの声で目を覚ました筵は効力が失われたと思われる御札を布団のようにして寝転んでいる状態でパッと両目を見開き、眼球だけを動かしながらあたりの様子を確認する。
筵の目に入ってきたのは、この部屋の壁を埋めつくしていた御札が半分以上剥がれ落ちてしまっている惨状と、その原因と思われる大穴、そして、それを引き起こした人物の姿であった。
「やあ日室君。助けてくれてありがとう」
「□□□□」
筵がその男に対して感謝を述べると、彼は筵に対して手を差し伸べながら、嫌味なく"どういたしまして"的な事を言って微笑む。
それから筵は刀牙の手を握り返して、ゆっくり立ち上がる。
そして、改めて周りを一瞬見渡した後、刀牙と共にいる少女に目を向ける。
「そっちはどうやら万事解決みたいだね」
目が合い、やや好戦的な様子で自身を睨み返してきた少女、御影龍子を見て呟く筵。
刀牙と龍子は敵として出会う前に既に知り合っていて、刀牙は以前から戦いの中で彼女の説得を繰り返していた、そして今回で見事に"落とす"事に成功したという訳だった。
と筵はそこまでの詳細か情報は知らなかったものの、雰囲気で何となくそんな感じだろうと察して警戒心剥き出しの龍子に対して胡散臭い笑みを浮かべる。
「いやいや大丈夫だよ。僕は結構空気を察しれる方なんだ。どうやら君が敵ではないという事は何となく理解できるよ」
そんな感じで、龍子の警戒心を半信半疑ながらもやや抑える事に成功すると、続けて筵は何かに気付いた様に再び辺りを見渡して、倒れている一人の少女を見つける。
そして、その少女の元まで行ってしゃがみ混み首元に手を持って行って脈を調べる。
「・・・」
やはりと言ってしまっていいのか、本人も言っていた通り彼女の脈は既に無く、安らかな表情で目を閉じ眠ってしまっていた。
「□□□」
「ああ、僕を封印していたあの技はそういうモノだったんだ」
「・・・」
「いやなに、君が気に病むことじゃない。これは戦い、いや戦争なんだ。だから理不尽な事もそりゃ沢山あるよ」
なんとも言い難い表情で社を見る刀牙に対して、筵がそう告げながら立ち上がる。
「さ、早く行こうか。ここで時間を取られている暇はないよ」
そう言って先へと進む扉を指さす筵。
「□、□□□」
「・・・」
それに対して刀牙は渋々ながら返事を返す。がしかし龍子は社の事を見つめたまま沈黙してしまっていた。
そこには事実上、社を死に追いやった筵に対する怒りなどは無いようであった。
それは単純な悲しさか虚しさ、そんな感じの感情だと思われた。
がしかし、時は一刻を争うかもしれない状況であったため、少し切り出しにくい雰囲気ではあったものの仕方なく筵が、ため息をもらしつつ口を開いた。
「あー、多分一刻を争う事態だからさ、悪いけどお別れは別の機会にゆっくりと・・・」
「分かってる、でも彼女も連れていく、いいでしょ?」
龍子は筵が話している途中にそう割って入り、同時に刀牙に対して社を連れて行っていいか訊ねる。
「・・・□□□」
するとそれに連鎖する様に今度は刀牙が筵に対して訊ねる。
「何故僕に聞くんだい?・・・まあ君がいいならいいと思うけ・・・」
「OKって事ね」
と筵の返事を聞くなり、龍子はお姫様抱っこの様にして社を抱き抱える。
そうして筵達はようやく扉を開けて次へと進み始めた。
あけましておめでとうございます。
短くてゴメンなさい。




