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魔王再臨と平常授業 9

 「ちっ・・・」


 舌打ちを1度して、社から少し距離をとった筵は貼られた御札の効果について考える。


 しかしそれこそが悪手であった。


 御札が貼られたのが自分自身ではなかった為、ここは違う魔剣を召喚しておいて相手の次の攻撃に備えるべきであった。


 「行きます!」


 と、だが社は筵にそういった事を考える隙を与えないため素早く行動し、高く飛び上がると今度は足に量産型の札を張り付けそのままかかと落としの要領で攻撃を仕掛ける。


 「くっ・・・」


 それに対し、大皿喰らいを構え迎え撃とうとする筵。

 

 しかし相手の攻撃を受け止める直前に筵は1つ目の異変に気が付く。・・・大皿喰らいに生命力を吸わせることが出来なかったのだ。


 そして。


 ドゴンッ!!という大きな音と衝撃がその部屋に木霊して、筵は力で押し負けて吹き飛ばされ、地面を数回バウンドして壁に叩きつけられてしまう。


 「かはっ!」


 それにより筵は吐血し、地面にそこそこの量の血が滴り落ちる。


 さらにその流れで筵は自身の身体に1枚の御札が張り付いているのを確認する。


 それは恐らく、かかと落としの時に紛れさせていたのだろうと推測でき、そしてすぐにその効能が自殺を禁止するものであると分かった。


 「はあ・・・」


 筵は再びため息をもらし考える。


 とりあえず力をフルに発揮することが出来ない大皿喰らいを一旦収納しようとしたが、恐らく2枚目の御札の効果なのかそうすることは出来なくなってしまっていた。


 それに大皿喰らいに生命力を吸わせる事も禁止されたため、その方法で自分が死に全てをリセットする事も出来無い。


 また筵の持つ幾つかの魔剣の内で、寝首搔きなどを召喚してもそれを使って文字通りに自身の首を掻き切る事は出来ないだろうし、サン・スティロで大量に血を与えるやり方も自殺と判定される可能性はなくも無い、またホワイトアウトの効果が切れた時の2分の1の確率で死に至るというリスクを使うのも死ぬまでに時間が掛かってその間に不利な状況になってしまうかもしれない。


 ・・・。


 ・・・・・・。


 「あー、なんか面倒くさいな」


 そこまで考えた所で筵は全てを投げ出した様にそう呟く。


 そして結局、考えた末に出した結論はあまりにも合理的で酷く当たり前な選択であり、しかしながら決してスマートと言えるものではなかった。


 そうその選択とは魔剣を使えるだけ使って先に敵をねじ伏せればいいという物であった。


 「それにいつ禁止されるか分からないなら、出し惜しみをしている余裕なんてなかった。こんな簡単な事を失念するとは僕は本当にダメなやつだな」


 そう言うと筵は徐に手を注射器を持っているような形で構える。


 「酒刀、ホワイトアウト」


 「なっ・・・2本目!?くそ、やれ!」


 社は社で筵が複数本魔剣を所持しているという事は考慮していなかった様で焦った様に義真に指示を出し、自身もまた数枚の量産型では無い御札を召喚する。


 「ぐぅおああああぁぁ!!!」


 そして理性を完全に失っている義真は目を血走らせながら筵に突進を仕掛ける。


 しかし時すでに遅しであった。


 すでに筵の静脈には注射器の針が挿入されていた。


 そして注射器の中の液体を身体へと入れると、瞬く間に筵の身体は白い悪魔のような姿へと変貌を遂げ、義真の攻撃に合わせて社が放った御札に向かって真っ黒な闇で構成された数個の球体をぶつける事で相殺する。


 「恋刀、殺心の剱」


 更に続け様に注射器型の魔剣、ホワイトアウトを収納した筵は白色の日本刀である殺心の剱を召喚し義真を迎え撃つ。


 そしてもう片方の手に持っている大皿喰らいで義真の攻撃を受け、弾き返すと間髪入れずに殺心の剱を反対に持ち替えて峰打ちの状態で斬り付ける。


 「ぐっ・・・」


 と、心を斬る魔剣である殺心の剱に峰打ちで斬られた事により義真は能力が一時的に奪われ、鉄に変化していた身体が元に戻ると同時にその場に倒れる。


 「民刀、サンスティロ」


 それからも次々に襲ってくるハーベスト人間の姿を目視した筵は殺心の剱に変わって新たに万年筆型の魔剣、サンスティロを召喚して僅かに血を与える。


 「ちょっと邪魔」


 筵はそう呟くと血をペン先から放出する。そして出された血は魔法陣のようなものを形成して発光を始めた。


 するとそこから長細い光の帯のような物が無数に現れ義真の身体を包む、そうして数秒後にその帯は義真の身体を完全に包み込み、一瞬にして姿を消してしまった。


 「来い、離刀、寝首搔き」


 そうして最後に筵は小太刀型の魔剣、寝首搔きをサンスティロに変わって召喚して次々に襲いかかってくるハーベスト人間と社の御札に備えた。

 




 それから数分後、ハーベスト人間を刈り尽くした筵は少し離れた所で能力を使い過ぎた事により息を切らし、膝を付いている社に目を向ける。


 「はあはあ・・・」


 「・・・」


 「くっ・・・、やはり貴方は危険だ。新羅の元へは行かせられない」


 社は額に汗を滲ませながら完全に機能を停止しているハーベスト人間達を横目にそのように呟くと、改めて筵を睨みつけた。


 そして覚悟を決めるように数回呼吸を整える。


 「命に変えてでも・・・止める!」


 鬼気迫る表情の社は両手を軽く広げると、掌の上から大量の御札を召喚する。


 しかしそれは量産型ではなく、いわゆるレアな方の御札であり、先程まで一気に操る数は多くても十枚行かない位だったそれを大量に生み出していた。


 それは彼女の覚悟の現れ様にも思え、そして、続けざまに部屋全体に疎らに貼られていた御札が量産型でない物へと変化し、同時に分裂しだしてそれらの御札は部屋全体を覆うように敷き詰められる。


 その間、僅か数秒の出来事であった。


 筵はこの戦いから社の力を冷静に分析していたつもりであったがしかし、完全に目測を誤ってしまっていた。


 ・・・いや、そうでは無い。


 筵にはこの状況で、また本田筵という人間に対して、年端もいかない少女が命を投げ出して来るという発想がまるで無く、社の行動は理解不能であったのだ。

 

 「・・・これは"生きているという事以外の一切を禁止する封印術。その中に閉じ込められたものは動く事も思考することも出来ず、ただ死を待つ事になる。・・・本来ならか敵が死ぬのは万々歳ですが、貴方にとってそれはメリットになってしまう。・・・だけどいい、私は私の命を掛けて貴方が自然死するまでの約3日間だけ貴方を封印します」


 息絶えだえの様子の社は絞り出すようにそう言うと、手を軽くあげて、それを筵の方へ向けて軽く振る。


 すると社の周りにあった物と地面一面に貼られている御札が一斉に筵へと襲いかかり、筵に逃げる隙を与えずにあっという間に覆い尽くしてしまう。


 そして、社は自身の胸に手を当てそこからひときは異彩を放つ少し大きめの御札を取り出すと元々筵だった御札の塊に貼り付ける。


 「奥義、無窮流刑(むきゅうるけい)


 すると最後に社が貼った御札から鎖のようなものが伸びて、筵の周りを囲って縛り上げた。


 「ふ、ふふ、やりましたよ。新羅・・・どうか目的を果たして・・・ください」


 そうして社は最後に満足気な顔でそう呟くとその場に倒れ込み動かなくなった。

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