魔王再臨と平常授業 3
それから数十分。
時は一刻を争うと言う事になり、早急に敵アジトへと攻め込むメンバーが決められ、現在は敵の潜伏する大きな建物が見える森の木陰から建物の周囲で警戒に当たっている敵の様子を観察しているという状況であった。
その建物はかなりの高さの門に守られていて中の様子は少ししか確認する事は出来なかったが、門の外の警戒にもそこそこの人数が当たっていた。
その様子から敵が待ぐせしている感じはあまりなく、どちらかと言うと中に本当に守らなくてはならないものがあるという様な人の配置をしているように思われた。
そして建物の周りを観察してもやはりワープホールは出現しておらず、もちろんハーベストの姿も1匹も存在していなかった。
「ワープホールの反応はまだあるのかい?」
「ああ、やはりあの建物の中に出現していると思われる」
筵は小型の機械を眺めている天理に問いかけ、彼は機械から読み取れる情報をその場の全員に聞こえるように大きめの声で返す。
因みに今回の作戦の選抜メンバーは輸送機の定員などの影響で筵、れん子、譜緒流手、そして刀牙、天理、あとは模擬戦に参加していなかった海堂を初めとする学友騎士団の内で優秀な者達が選ばれていた。
「ちょっと私が偵察とかしてこようか?」
「うん、れん子ちゃんに任せれば確実だとは思うけど、時間的にどうかな。どうする斎賀くん?」
れん子の申し出を踏まえた上で筵はこの作戦の指揮を取っている天理に尋ねる。
すると天理は少しだけ考えた後で口を開く。
「・・・日室刀牙、お前はどう思う?」
「・・・□□□」
天理の問に対して刀牙も少々考え、やはり直ぐに突入した方がいいのではないか。と意見を口にする。
「ああそうだな。これからチームを3つに分ける。1つは後方から奇襲を仕掛けるチーム、これをAチームとする。そして残りの2チームは奇襲後、敵が減ったのを見計らい前方から攻撃を仕掛ける。その内の1チームは敵と戦闘し殲滅に当たる、これをBチーム、そして3つ目はなるべく敵を無視し建物へと走り、奴らの狙いを突き止め食い止める。これがCチームだな」
作戦を皆に告げた天理は続いて内訳を決める。
そしてCチームには筵、れん子、譜緒流手に刀牙と僅かな数の学友騎士団のメンバーが当てられ、Bチームには天理、海堂と残り半分の騎士団のメンバー、最後にAチームにはもう半分の騎士団がそれぞれ当てられた。
「・・・ふーん。まあいいんじゃないかな」
「オレたちは敵の目的が分かり次第これで爆破するってことね」
「ちょっと怖いから今、出さないでよ」
Zクラスの面々は概ね天理の作戦に同意し、同時に譜緒流手は怯えるれん子を後目に支給されたカバンに入っていた設置型の爆弾を取り出し手で弄ぶ。
「では始めるぞ」
「□□□」
「何か文句があるのか日室刀牙?」
「□□□□□」
刀牙はAチームが一番危険なのにもかがらず人員があまり当てられていない事を指摘する。
それは筵も気づいてはいたものの、自分たち以外はどうでもいいという理由から、特に気にかけていなかったことであった。
しかし刀牙がこれから言うであろう言葉によって生じるかもしれないリスクを考えた筵は牽制のため口を開く。
「それはダウトだよ日室くん。恐らくこの現象を引き起こしている装置の所には、敵の中でも最も警戒すべき人物でもある千宮寺新羅がいる筈だよ。そこと戦うことになるかもしれない僕達Cチームが一番危険なはずさ。まさかそこから外してくれなんて言うんじゃないよね?」
「□□□□!」
そんな筵の言葉に対し、刀牙は一番危ない所から逃れたいという意図は無いと訂正しつつ、それでも多くの犠牲が出てしまう事は見逃せないと改めて主張する。
確かに最初に敵の意識を奇襲したAチームに向かせなければ今回の作戦はあまり意味をなさない。
その性質上、最悪全滅してしまう事も有り得る話であった。
「□□□□!!」
続いて必ず筵たちのチームに合流するから奇襲にも参加させてくれと天理へ頭を下げる刀牙。
きっとその願いは模擬戦前の天理になら一蹴されていただろうが、刀牙と戦ってその考えに一定の理解を示してしまった彼がどう言うかは皆目見当もつかなかった。
と、その時。
「い、いいんじゃないですか?」
どこからともなく可愛らしい声が聞こえる。
「この声は湖畔くん?」
れん子がその正体に気づいて問いかけると、椎名湖畔は自身の能力、影潜む隠居により筵の影から姿を表す。
「ぼくが代わりに筵先輩たちと行きます」
「君は?」
「Zクラス1年、椎名湖畔です。能力は影潜む隠居、固有能力で影の世界と現実の世界を行き来する事ができます。ぼくの知人は、能力の善し悪しの真の基準とは普通の人には干渉する事が出来ない世界をどれくらい持っているかだと語っていました。そしてぼくには影の世界、つまり普通の人の約2倍の世界があります。不足は無いはずです」
湖畔は機械の友人に言われた言葉を思い出しながら語り、続いて筵の方を向く。
「筵先輩もいいですよね?」
「・・・はあ、可愛い後輩にそう言われたら仕方ないよね。2人とも自由にしなよ」
筵は投げやりに選択を刀牙と天理に任せ、湖畔の頭を撫でるように数回優しく叩いた。
そして結局、刀牙はAチームの奇襲にも参加する事となり、筵達のチームには湖畔が加わる事となった。




