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模擬戦と平常授業 後編 2

 「ようやく貴様を斬り殺す事が出来るな」


 「ははは、やだなー斎賀くんこれは模擬戦だよ?もっと肩の力を抜いてくれよ」


 なるべくこっそりと誰とも鉢合わせないように収束するバトルエリアの中心に向かおうとしていた筵だったのだが、運悪く斎賀天理と遭遇てしまい、額から一筋汗を流しつつ、口ではいつもの様に飄々として掴み所のない様子を醸し出す。


 ここは山や森などでの戦いを想定して作られた、校内の林であり、目的地のコロッセオに向かうには少々遠回りになるため誰も通らないだろうと考えて筵は敢えてこのルートを選択したのだがそれが見事に裏目に出てしまった。


 「貴様の事だ。敵と遭遇しないように遠回りする事は想定できる」


 「いやだな〜、僕はただただ道に迷ってしまってだね〜。ああ、そうだ。よかったら目的地まで一緒に行かないかい?目の前で戦ってあげた方がお客さんも喜ぶよ」


 「断る!」


 天理はキッパリとそう言い、手に持っている聖剣、國取(くにとり)を数メートル離れている位置から筵に向かって振り切る。


 すると國取からまるで幽体離脱でもするように國取とは違う形の半透明の刀が出現し筵に襲いかかる。


 「うぉっと」


 その刀をカッコイイとは言い難い姿勢でなんとかかわした筵はサバイバルナイフを取り出しすぐさま構える。


 しかし。


 「遅い!」


 既に筵の目の前には天理の姿があった。


 だが天理は國取を構えているのでは無く、手を筵に向けて伸ばしていた。


 その一瞬、筵の脳裏に以前、天理の能力をくらって自害の能力と痛覚遮断の能力が使えなくなってしまった思い出が()ぎる。

  

 そして瞬時に、この手に触れてしまうと厄介な事になると悟った筵はポケットのあと5秒だけ(クロノスタシス)を使用して5秒間だけ時間を止めた。


 続いて止まっている時間を利用して天理の真横に移動した筵はサバイバルナイフを聖剣を持っている方の手に軽く押し当て、時間が動き出すのを待つ。


 そして5秒が経ち、時が動きはじめる。


  

 バァリン!!



 そんな耳を劈くような大きな音がその場に響き、再び時が止まったのではないかと思える時間が一瞬だけ流れた。


 そんな長いコンマ数秒の時間が過ぎ、筵はようやく状況が理解出来た。


 砕け散っていたのは筵のサバイバルナイフであった。


 しかし筵がその状況を理解するため僅かに硬直してしまっているのを後目(しりめ)にそれを想定した様子の天理は息をつかせぬ間に再び筵に向かって手を伸ばす。


 「くっ」


 筵は珍しく焦った様子を表に出しながらあと5秒だけ(クロノスタシス)を再度使用して今度は相手から数メートル距離をとることにその5秒を使い切る。


 「随分と疲れているな」

  

 さすがに2回連続でのあと5秒だけ(クロノスタシス)の使用は相当体力を使うものであり、膝を付き肩で息をしている筵を見て天理はそう訪ねた。


 「ははは、まあこんなのは1度死んでから蘇えれば問題ないんだけどね」


 半笑いを浮かべた筵はそう言うと能力により1度死に、万全の状態で再生してみせる。


 「・・・あと5秒だけ(クロノスタシス)か」


 「ははは、それはどうかな〜」


 天理は筵の異常な疲労の原因があと5秒だけ(クロノスタシス)にあると確信し呟き、それを聞いた筵は無駄であると分かりつつもはぐらかして見せる。


 そして、そんなやり取りをしている最中で筵は天理の能力について考察を進めていく。


 まず天理が筵に対して見せた能力は、筵の自害の能力と痛覚遮断を無効にしたもの、自身の体に触れたサバイバルナイフを破壊したもの、そして聖剣から半透明の刀を出現させたものであった。


 まず最後の1つと、他2つの能力の性質が明らかに異なる事と聖剣から半透明な刀を出現させた事から、3つ目の能力は聖剣のものであるという仮説が立てられた。


 そして次に能力無効化の能力とサバイバルナイフを破壊した能力、これが同一のものかあるいは全く別のものなのかという疑問があった。


 だがもしも天理が異なる2つの能力を使っているとすると、その選択肢は無限に存在してしまうため、その場合の考察はここで一旦終了してしまう。


 逆に2つを無理やり1つの能力であると仮定して考えると選択肢はかなり狭まってくる。


 まず天理がさっきから執拗に筵に触れようとしている事と、自身の体に触れたサバイバルナイフが砕け散った事から、例えば触れたものを自分のいいように改変する能力など、とにかく触れることが天理の能力の肝であるという予想が立てられる。


 そう思い至った筵はその場に一瞬しゃがんで辺りに転がっている小石を数個拾い集める。


 そして実験と様子見を兼ねて天理に向けて、その小石を数個投げつけてみる。


 だが。


 天理は自身の目の前に2mを優に超える半透明のオーク型のハーベストを複数召喚していて、そいつら当たった小石は虚しく地面に転がった。


 「ちょっとちょっと、実験くらいやらせてくれよ」


 「ふっ、いけ」


 筵の戯言など聞く耳持たないと言った様子で、オークたちに指示を出す天理。


 「あと5秒だけ(クロノスタシス)を使ったとしても、武器が無いのでは意味が無いのではないか?」


 「・・・」


 確かに天理の言う通りであった。

 

 ここまでの戦闘により現在、筵の手元に残っている武器は残りわずかであるのに加え、そういった対人向けのものがこのオーク軍団に効くかは疑問であった。


 また筵の体力は無限であるとはいえ、借り物(パクリもの)でもあるあと5秒だけ(クロノスタシス)を酷使し過ぎて壊す様な事は避けたいものであった。


 「さあ、せいぜい抵抗してくれよ」

 

 「・・・困ったね」


 筵はそう呟き、迫り来るオーク型ハーベストの軍団を眺めた。

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