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模擬戦と平常授業 後編 1

 天理との電話から十数分後。


 最初にルール説明などが行われたコロッセオのような形状の施設の中心には激しく聖剣を打ち付け合う2人の男がいた。


 そして観客はそのレベルの高い戦闘に興奮し、大きな歓声を上げながら、遠目から本人たちの直に戦う姿や、大きな画面にアップにされて映し出されている映像を眺めていた。


 「よっこいしょ」


 そんな戦いを尻目に一人の男が空いている観客席に腰掛ける。

 

 「おやおや筵さん?出場者がこんな所に居ていいのかい?」


 するとその席の隣にいた白髪の少女、星宮蝶蝶が彼に向かって声をかける。


 「まあ今のバトルフィールドはこの訓練施設内全域だからね。ここも一応フィールド内なんだよ。だから僕は今、影からこっそりと彼らを観察して絶好のチャンスを伺っているって状況さ」


 「そう、まあがんばってね。・・・ああ、でもいいの?ワタシとこんな所で仲良くしちゃって、これでも一応、元ハーベスト教団の一員だから知っている人はワタシの事知っているかもよ?」


 「そこはまあ抜かりはないさ」


 筵はそう言うと真っ二つにされた撮影用のドローンの片方を投げ捨てて蝶蝶に示す。


 「というか僕も今回に限っては真面目に学園に貢献しようと思っていたんだよ?でもさー、そんな時に本来ここにいるはずのない君達を見つけてしまったんだから、それはもう状況を確認しなければならないでしょう?」


 「いやだってさ。"次はお兄ちゃんの働いている所に行きたい"って言われちゃったんだもの。筵だって"彼女の行きたいって言った場所に連れて行ってあげて"って言ってたでしょ?だからその通りにしたんだよ」


 「なるほどねー」


 蝶蝶の言い分を聞き、彼女らの少し予想外な動きに若干困りつつ、蝶蝶の隣で刀牙と天理の戦いを実況する人の声に耳を傾けている盲目の少女、宮前(かえり)の方へと目を向ける。


 孵は小さい声で兄へのエールを送りつつ、少し興奮した様子で兄と見知らぬ誰かの戦いを聞き守っていて、その姿からは呪いという物を持って生まれてしまい、ずっと研究所に監禁されていた事などまったく伺わせず、その反応は年相応の少女のそれとまったく同じであった。


 筵はそんな孵の様子を見守りつつ、続けて蝶蝶への質問を続ける。


 「それで彼女はこの家出を楽しんでくれたのかな?」


 「うん、そこはね。真冬だけど海とか色々要望があったから連れていったよ。・・・まあ楽しかったよ、後処理が大変ではあったけど」


 「ん、後処理?」


 「ほら孵ちゃんの呪いが道行く人を数名(やっ)ちゃってさ。生き返らせてあげたんだよ。まあ後処理というかアフターケア?」


 「あー、そういうことね」


 宮前孵の能力、前衛的前衛の背後霊アンチェインドゴーストは彼女に対して敵意などを持った人間を無差別に攻撃してしまう。


 恐らくすれ違った人の中に目の見えない彼女に対してそういった悪い感情を抱いてしまった者がいたのだろうと筵の中では容易に想像がついた。


 「とにかく、もしもの為にてふてふを護衛につけてよかったよ。ありがとね」


 「そこはワタシが言い出したことだしお安い御用だけどさ。・・・でもやっぱりこの社会について思うことはあったかな」

 

 蝶蝶はそういった社会や人間の未完成な部分に対し、少しだけ憤りを覚えた様子で呟く。


 それはいずれ明るみに出てしまう事になるであろう、"呪いの被害者"の存在に対する世間の反応と重ねての言葉であったのだろう。


 「確かにね。・・・でもさ、それは仕方の無い事なのかもしれないと僕は思うよ。人間という存在は元々そんなに高潔には出来ていないからね、そういった悪い感情を持ってしまうだけでもアウトなんて言うのは人間にとっては少々厳し過ぎる制約ってものなんだよ。・・・例えばさ、てふてふが蘇らせてあげた人だって、一瞬、孵ちゃんに対して良くない感情を持ったとしてもそれを口に出したりはしなかっただろうし、直ぐにそういった思考を持ってしまう自分を反省したかもしれないだろ?」


 「まあ・・・それはそうだけど」


 「・・・言うなれば、歯が痛む時に歯が痛い事を考えるなと言われても無理な様にさ、意識して悪い感情を抱かないようにするなんて無理なことなんだよ。でもさ、それを表に出さず真人間を装うことが出来るのであれば僕はそれを及第点であると思うわけだよ。・・・まあつまり要約すると、人間という生物に対してあまり大き過ぎる期待は持たず、こちらも広い心でいようってことだね」


 「・・・そんなもん?」


 「うん、まあ正解は分からないけど少なくともそう考えた方が精神衛生上はいいでしょ?」


 筵はそう言うと蝶蝶に笑いかける。

 

 そしてその言葉を最後にしばしの沈黙が訪れ、一瞬だけ会話がなくなり静かになったと思われたタイミングで周りの観客から歓声が上がる。


 「なにかあったかな?」


 その歓声を受けた筵達は刀牙と天理の試合に目を向ける。


 すると終始押され気味であった刀牙が天理を押し返していて、現在、互角の戦いを繰り広げていた。


 さらにモニターにアップ気味で映し出された2人の様子は聖剣でジリジリと鍔迫り合いを繰り広げながらも何やら激しく口と表情が動いていて何かを言い争っている様子が伺えた。


 「音声が無いから何言ってるか分からないけど、何か言い合ってる感じだね」


 「・・・青春だね~」


 筵は半笑いを浮かべつつ、だいたい予想が出来る会話の内容を想像する。


 差し詰めいつもの様に食い違う正義というモノの定義や概念について自論をぶつけ合っているのであろう。


 そんな事を考えつつ、筵は数分前にこの会場へと向かう最中で天理と鉢合わせた時の事を思い出す。

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