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模擬戦と平常授業 中編 7

 「なるほど、彼女もそれなりに仕事はしていたようだな」


 たった一撃で膝を着いた斬人の様子を確認した天理はそう呟き、同時に横目で倒れている恵美子の姿を見た。


 「くっ・・・」


 斬人はその隙を見て自身の時計を確認する、すると模擬戦の残り時間はあと30分ほども残っている事が分かってしまう。


 その時間を考えると自分が天理から逃げ切る事は絶望的ではあるが、筵の為、チームの為に出来るかぎりは足止めしなくてはならない。


 と、そう考えた斬人は跪いた状態のまま顔を上げ、右手を地面に付ける。


 「黒籠殼(こくりゅうかく)

 

 すると先程と同じように斬人の周りを包むよう球状の混沌物質が現れ始め、さらにその球はマトリョーシカの様に次々とより大きな球体によって囲われていく。


 これは単なる時間稼ぎであり、この天理との戦いに勝利するという可能性を完全に捨てた必敗の作戦であった。


 そして、今の体力では相手の動きについて行くことなどできないと察したこの時の斬人の頭には、数分、数秒でも多く敵を足止めするという以上の思考は存在しなかった。


 「下らないことを」


 天理は斬人の最後の抵抗を鼻で笑うと軍刀を構えて地面に突き刺す。


 すると、天理の周囲に半透明の龍、鬼などの多種多様なハーベストや、人間、また銃や剣などの武器が出現する。


 「"大國取(おおぐにとり)"辺獄(へんごく)(えき)


 そして、空中に出現していた半透明な銃を軍刀を持っていない方の手に持ち、黒籠殼(こくりゅうかく)に向けて構えた。


 「さあ何分私の時間を奪う事が出来るかな?」


 そう言うと天理は不敵に笑った。






 数分後、筵視点。


 「ありがとう日室くん。また何か情報があったら教えてね」


 刀牙との電話を終えた筵は刀牙から得た情報を含めて、現在の状況を整理し始める。


 刀牙からはかぐや、スチュワートの2名が敵チームのゴスロリ服の女の子、葉原(つづり)と引き分けて3名とも敗退となったということと、刀牙自信がヴィジュアル系のバンドマン風の男、大岡雷堂(らいどう)を倒したという事が語られた。


 また先程、(ひじり)に電話を掛けても出なかったことから、彼が無視している可能性を除けば、彼も敗退してしまっているということが考えられ、そこに筵が覇亜零(はあれ)を倒したことと、恐らく斬人も恵美子を倒している事を計算に入れると現在の状況は3対2であると思われた。


 「もう一度、斬人くんに掛けてみるか」


 無線のチャンネルを斬人のものに合わせた筵はとそのまま耳元に持っていく。


 そして数回の着信の後、電話が取られた。


 「どうも、彼は今、電話には出られる状況では無いのでね、勝手ながら私が取らせてもらったよ」


 「・・・君は斎賀天理くんか。なるほどね。・・・彼は無事なのかな?あまり痛ぶったりはしてはいないだろうね?」


 筵は何時もの飄々とした軽い口調で尋ねる。


 「どうかな?まあ、こちらとしてもチームのメンバーを1人やられてしまっているから多少はって感じだろう?」


 筵の問いに含みのある言い方で返す天理。


 しかしこの時の筵の思惑は、斬人の正体が天理にバレていないかを探ることであり、天理の反応から彼は、斬人の正体にはたどり着けてはいない事が分かった。


 そして、その事実に安堵した筵は怪しまれないように適当に会話を続けていく。

 

 「そう、まあどちらでもいいけどね。僕がそんな事で腹を立てるタイプでは無いのは知っているだろ?」


 「・・・本当に食えない奴だな、お前は」


 「まあね。よく言われるよ」


 筵はそう言って再び笑い飛ばすと、本心では斬人を心配している事などを悟られないように徐々に話題を変えていく。


 「ところでとても心配していた所なんだけどさ、模擬戦の前に君が言っていた妹さんの件は大丈夫だったのかい?」


 「ふっ、また白々しいことを・・・だがお前が(かえり)に手出しが出来ない事は分かっている。ゆっくりと解決してやるさ」


 「なるほどね。首尾よく進んでいるようで何よりだよ」


 「ああ、これでようやくお前を追い詰め、痛めつける事に専念出来る」


 「おー、それは恐ろしいね。まあ精々、無様に逃げ隠れして会場を盛り上げるとするよ」


 「残念だがそうは行かないんだ」

 

 笑いを堪えている様に天理が呟くと同時に筵を映しているドローンから機械音声が鳴り響く。


 "制限時間が20分になりました。戦闘エリアの縮小を開始します"


 そして、ドローンから映写機の様に空中に地図が映し出される。


 そこには最初に開会式が行われたコロッセオの様な形状の訓練施設へと収縮していく円が表示されていて、どうやらそれが戦闘エリアを表しているようであった。


 「あれれ?こんなルール聞いていなかったんだけどな〜」


 「まあサプライズと言うやつだ。それに目の前で戦闘が行われた方が観客も湧いて盛り上がるだろ?」


 「確かにね。全く君ってやつはサービス精神旺盛なんだから」


 「ふっ、ではまた・・・ああ、棄権なんて下らないことはするなよ」

 

 ・・・どしゃ!


 と、どうやら天理が無線機を投げ捨てたらしく、電話先から地面に叩きつけられた音が響く。


 「はあ、なかなかに面倒な事になってしまったね」


 ため息をもらしつつ、筵は仕方無しに地図で示された戦闘エリアの中心の方へと歩き出した。

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