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模擬戦と平常授業 中編 3

 「終わりね。何だか拍子抜けって感じ」


 「・・・」


 自身を見下してくる恵美子を地面に倒れた状態のまま見上げる斬人はその体勢のまま動くことなく思考を巡らせる。


 正直なところ、自分が筵により制限されている力の範囲内ではこの敵に勝つ事は不可能に思えた。


 この敵の実力はいつか戦ったハーベスト教団の根本灼火より下なようであった。


 しかしあの時は(ふち)と2人がかりでようやく退けたと言った感じであり、いくら斬人の本来の力が栖の統べる世界であるエクロキサの中でもトップクラスであるとはいえ、能力と聖剣無しではやはりどう考えても()が悪かった。


 「はあ・・・」


 思考を終えた斬人は敗北を悟り、同時に自身の正体が露呈してしまう事が何よりも良くない事であると考え、ハーベストの姿から人間の姿に身体を変化させ、力尽き聖剣が消えてしまったように偽装する。


 「力尽きたみたいね・・・あら?」



 ♪♪♪。



 その時、人間の姿に変わった斬人のポケットから携帯の着信音のような音が鳴り響く。


 「丁度いいわ。貴方の敗退を教えて上げましょう」


 恵美子はそう言うとしゃがみこみ斬人のポケットから無線機とイヤホンを抜き取る。


 「・・・」


 その時、斬人には抵抗する力がまだ残っていたのだが、怪しまれる事を恐れ恵美子にされるがまま無抵抗を装った。


 「はいもしもし?」


 「あ~、もしもし?ってあれー?間違えちゃったかな~?」


 「っ!?・・・な、あ、貴方は!?」


 恵美子は無線の向こうの意外な人物に驚き、手に持っていてイヤホンを手離してしまう。


 そして、それにより倒れている斬人にもその声が届き、筵が再び自分に無線を掛けてきたことを知る。

 

 「ああ、そういう貴女は先程の仲間を見殺しにした"恵美子さん?"でしたっけ?」


 耳に付けられることなくブラブラとぶら下がったイヤホンから筵のある種の呪詛のような言葉が響く。


 「本田筵・・・」


 唇を噛み締めながら恵美子は無線機に刺さっているイヤホンを抜きとる。


 そして、チーム内で孤立していると思われていた筵からの無線に若干動揺しながらも1度咳払いをして調子を整え、直ぐに立て直すと、先程とは打って変わって今の状況について喜々として語りだす。


 「まさか貴方が無線を掛けてくるとはね。あの中で完全に孤立していると思っていたのだけど」


 「まあそうですね。孤立はしてますよ。でもそれとこれとは別です。試合となったら同じ目的の為に戦うもの同士でしょう?いわゆる敵の敵は味方と言う奴です」


 「・・・あらそう。でもそんな貴方にとっての敵の敵は今ここに転がってるけどね」


 「・・・ふーん、そうですか~」



 ・・・。



 筵はその言葉を最後にしばし沈黙に入り、そして考え始める。今回やこれまでの戦いを、自身の忠実なる補佐役の事を。


 これまで筵は誇り高き騎士である斬人に敵前逃亡などの騎士らしからぬ、行いを命令してきていた。


 そして今回もまた本気を出すことが出来ないが故に、わざと負けなくてはならぬ状況を斬人に課してしまっている。


 それらを考えるといよいよもって斬人の事が忍びないというような思いにかられる。


 そして同時に、本心では筵の側で補佐役に徹したいと考えている斬人を無理矢理にあの少年漫画のような空間に送り込んでいる事への罪滅ぼしを少しでもしなくてはならないという思いが筵の中で強くなっていった。


 「そうだね・・・」


 それから筵は独り言の様にそう呟き、更に数秒の沈黙の後、斬人に向け言葉を続ける。


 「斬人くん・・・思えば僕は君に対してこれまで酷い所業ばかり強いてきてしまっているね・・・」


 「筵・・様?」


 つい口を付いて出てしまった筵に対しての敬称に斬人は急いで口をつぐみ、筵はそれを聞いて小さく笑う。


 「うん、斬人くん、今回は作戦を変更しよう。これから僕はこの試合の為に持ち込んだある秘密道具を使って君に2分だけ時間を作ってあげようと思う。君に対して2分というのは些か失礼な気もするけれど、そこはまあ仕様なんで許しほしいね・・・」


 そんな事を言いながら身体中に隠し持っている数多の秘策の中から小型のスイッチの様なものを取り出し、ボタンに手を掛ける。


 「では健闘を祈るよ」


 「ま、待ちなさ」


 ブツッ。


 恵美子の言葉を遮る様に無線機がそんな音を立てて通信を遮断する。


 そして、同時に斬人と恵美子をそれぞれ映していたドローン型のカメラも機能を停止させ、空中から地面へと落ちて、地面に叩きつけられるとそのまま動かなくなった。


 「い、一体何が?」



 「・・・分からないか?」



 「なっ!?力尽きたはずの貴方が何故?一輪刺し(ワンライフフラワー)は?」


 ゆっくりとした動きで立ち上がった斬人の纏う先程までとは違う禍々しい黒いオーラに警戒心を高めた恵美子は数歩後方に下がり、同時に額の冷や汗を手で拭う。


 「ああ、この花か。確かにファッションのアクセントとしてもセンスが無いな」


 斬人はそう言うと禍々しいオーラを一瞬、数倍に強める。


 すると斬人の背中の花はそのオーラに当てられ一瞬にして灰になりそのまま風に吹かれて消え去ってしまう。


 「あの方が私に誇りを取り戻すチャンスを下さったんだ。期待を裏切るわけにはいかないのでな」


 「あの方?それってどういう・・・?」


 「・・・貴様が知る必要は無い」


 「く、な、なめるな!」


 恵美子は怒鳴ると先程よりも大量のBB弾を取り出し握り込んで、その一つ一つにトラップを仕掛けると斬人に向かって投げつける。


 「くたばれ!!」


 斬人へと大量に飛来するBB弾。


 しかし、斬人はそれを回避しようともせず、ただただ自分に当たるのを待ち、そして斬人に当たって魔法陣を生じたBB弾は連鎖的に大爆発を巻き起こす。



 「はあはあ」



 呼吸を乱しながらも確かな手応えを感じ笑みをもらす恵美子。だがその直後、徐々に晴れていく煙の向こうの斬人を見て愕然としてしまう。

  

 「なっ!?なんなの?」

 

 恵美子は驚きながらもそこに現れた存在の全貌を確認する為に目線を上に上げる。


 「この姿も随分と久しぶりだ」


 そこに居たのは人ならざる存在、純然たるハーベストであった。


 そのハーベストの身長は3~4m程もあり、廊下の天井ギリギリの大きさで、姿も騎士がベースである事は分かったが所々から邪悪な瘴気の様なものがもれ出ていて、甲冑の兜から僅かに覗く瞳は異様で禍々しい光を放ち人間のそれとは大きくかけ離れたものであった。

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